054 迷宮回想と幸せ話
雨の季節の中休みの様なよく晴れた日、双子の従姉妹に当たるセレーネが訪ねて寮までやって来た。
「ラーリ、リーネ、久しぶりー。大きくなったねー!」
「セレー姉!」
「セレーネ姉!」
三人でギュッと抱き着きあい喜びを共有する。
「セレー姉、迷宮探索どんな感じ?」
「ん。興味ある」
双子は探索者として活動しているセレーネに尻尾をブンブン、キラキラした目で迫って行く。
「う、うーん……っとねえ。最初に行ったのはブハラトムーレの指導迷宮で……」
いくぶんか及び腰ながらも語り始めるセレーネに、お茶とお茶菓子を用意して、じっくり聞く体制の双子であった。
ブハラトムーレはテルトーネから南東にある大陸最大を誇る湖の北西の畔に築かれた都市である。
「モヒーザグラクェンは船で漕ぎ出しても対岸が見えないくらいとっても大きな湖でね、塩水だからか海と同じお魚が住んでるって言ってたんだー」
「海のお魚! 美味しかった!? 食べてみたーい!!」
「ん。気になる。どんなの?」
ラウリーは手にしたお菓子を握りつぶしそうな程に力が入ってジワリと上体が寄って行った。
「迷宮の話はいいの?」
「セレー姉、迷宮じゃなくて海と同じっていうお魚目当てで行ったんでしょ」
「ん。ラーリもそこ行ったら迷宮よりお魚が目的になる」
「いやー。まぁ、ねぇ? 美味しかったよ。種類もいっぱいいたし」
お菓子で空腹を誤魔化す様に一段落してから、お茶と共にようやく迷宮話に移って行く。
「そこの迷宮って攻略されてから初級者用の設定に書き換えられたから、魔物も罠も訓練用みたいな難易度になってるのね」
「えっと、何だっけ? そこで迷宮の探索訓練するんだっけ?」
「ん。何か所か各地に存在するはず。新人はそこで許可書を発行してもらうって」
「そうそう、探索者の指導員同伴で最下層まで行くんだけど、この時に迷宮に関する事柄とか罠や魔物、迷宮内での戦い方、他の探索者との対応なんかを教えてくれるの」
この時に迷宮最下層までの地図の作製も課題とされており、対応能力なども見られることになる。
「それで最下層に到達すれば下級迷宮探索の許可が出るの。指導迷宮はだいたい最下層でも十層だしたいして苦労はしない筈よ」
「そうなんだー。ね、ラーリは剣鉈と短剣使ってるけど、大丈夫?」
「ん。リーネは狙撃銃」
「そうね、ラーリは大丈夫ね。短剣なら狭い所でも周りを気にせず使えるわよ。リーネはちょっと気を付けた方が良いかしら?」
「ん? 何かある?」
「それなりに広さはあるけど、通路だったらだいたい三人並んで戦うのが精一杯。余裕を見て二人並んでって感じかな。そんな乱戦になってるところに銃を使うのは難しいから、接近する前に対処するくらいしかできないの。結構入り組んでるところもあるから壁で銃弾が跳ねたりすると危険だしね」
狭小地での戦闘も考える必要があるんだと気付かされた。
「その後は、湖の周囲にある下級迷宮に行ったんだけど、そこの十一層に足を踏み入れてからが本当の迷宮探索なんだって思ったわ」
「!? 何があったの!」
「ん。本にもそんなこと書いてない」
セレーネのもったいぶった説明に好奇心をくすぐられた双子は、早く続きを教えてほしいと期待するような目で見つめる。
「ふっふーん。それは、行ってみてのお楽しみ! かなー。あれは言葉だけじゃ伝えきれないよ。どこでもそうらしいんだけど十一層からは迷宮毎に、地形とか出て来る魔物とか特色があるらしいのよね」
「おぉー! と言うことは、迷宮の中でも魚釣りができる!」
「ん。ご飯に困らなさそう」
「あははー。魚の魔物とかは出て来たわねー。釣りは考えなかったなー」
双子の予想外な返答に、もっと迷宮探索を楽しめたんじゃないかと頭を過るセレーネであった。
「それでも、攻略済みの迷宮って最下層までの地図が組合で用意されてるし、池に遮られてるようなところも橋が架けられてたりするから、踏破するだけなら迷う心配も無いの。ただね、中には探索され切って無い場所があったりして、そういうところに行って未発見の宝を見つけて来るから、ツケでお酒を頼もうとする酔っ払いが居たりするのよ」
満足する程に話を聞いて、気が付けば既に昼食時になっていた。
せっかくだから食べて行ってと寮の食堂に移動すれば、知っている者達は温かく迎え入れ、自身がどれだけ成長したのか、セレーネが何を体験したのか話が尽きることは無い。
ご飯も終えて双子の自室へ場所を移し、ベッドの上でゴロゴロとする。
「それにしても、この部屋……リーネは相変わらず色々作ってるみたいねー」
壁際の本棚の前には、作りかけに実験途中らしき様々な物が置かれていた。
「えへへー。狩りの道具もリーネが作ってくれたんだー。ほら見てー」
「ん。買って来た物は、みんな使いやすく修正もした」
「はぁー、ほんと、リーネは凄いわねー」
手渡された鞄や剣に銃などを見て、感心するやら呆れるやら、深く息を吐き出した。
「でも、ラーリ達が迷宮行けるようになるのはまだまだ先だねー。早く行ってみたいなー」
「ん。セレーネ姉待っててね」
「う……ご、ごめん」
「「ごめん?」」
目をそらして忙しなく尻尾をパタパタとし始めたセレーネに、何があったのかと双子は不安になる。
「そのー、ねぇ。あちこち行ってると色んな人に会う機会があるというか、助けたり? 助けられたり?」
「セレー姉、誰か助けたの?」
「んー……、助けられたの?」
「あ、ははは。ねぇ。上級迷宮の地図も満足にできてない様なとこ行くのって大変だったのよ? 初めて見る……魔物、とか?」
微妙に視線をそらして早口になるセレーネに、身を起こして詰め寄って行く。
「組合に資料は?」
「ん。何かしらあるはず」
「それが、ねぇ。未攻略の最下層ともなると、まだまだ情報もそろってなくて」
「おぉー! セレー姉、そんなとこまで行ってたんだ!」
「ん。セレーネ姉凄い!」
セレーネの探索者としての能力に驚き、喜びの声を上げて先を促す。
「ありがと。でね。仲間の一人が大怪我負って、危ない所を他の探索者が助けてくれたんだけど、ねぇ」
「ねぇって言われても?」
「ん。ん? ……セレーネ姉。もしかして?」
首を傾げながらも何があったのかと考えを巡らせ、リアーネは何かに思い当たったように耳をピコピコとさせたのだ。
「あーー、リーネは解っちゃった? 多分その通り」
「ん。おめでとう! セレーネ姉!」
「リーネ、なんでおめでとう?」
「それは、ねぇ。助けてくれた人達の中の猫人族の男の人がかっこよくて……」
「お? おぉー!? もしかして!」
ここまで言われて、ラウリーにもようやく何があったのか思い至った。
「今度の薬神様の、お祭りに合わせて……結婚、することに、なったの」
真っ赤になりながらも嬉しそうな表情で、セレーネは双子に伝えた。
「「おめでとう!」」
「……ありがとう」
癒神、または薬神と言われるプナプラピは恋愛や和合も象徴する神であるためか、五月一日の薬神と魔神の結婚したと言われるお祭りの日に結婚式を挙げる者は多くいた。
式を挙げるためにも帰って来たこと、準備もあるからしばらくしたら呼ぶから村に来てほしいことなど伝えられる。
その後は村で狩人として活動するから、セレーネは探索者業を廃業するという。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




