053 軽い外套とお裁縫
雨音を背景に教室内では皆が針と糸を持ち、布や革を相手に奮闘していた。
「レーアは何作ってるのー?」
「ふっふっふー。狩りに出かける時用の帽子だよー。鉄板仕込んで兜代わりにするんだー」
「それって帽子?」
「ルーナは周りのことより自分のことをするの! 今度は手伝いませんの」
「え!? ロットー。そんなこと言わないでよー」
思い思いに自分の使う物を作っている中で、ダダダダっと軽快な音を立てる一画がある。
ミシンの並んだそこでは、小柄な鼠人族の女生徒のヴェルナがテキパキと縫製作業を進めていた。
「ヴェルナは凄いね。ラーリ、ミシンは使える気がしないなー」
「そうか? 手縫いよりかは簡単そうだけど?」
「そんなこと無いって! 手縫いの方がまだましだよー」
「ミシンで雑巾すらまともに縫えなかったのは、ルーナぐらいなの」
「ぐぅっ……」
チクチクと針を通して授業は終わりを迎える。
時間内に完成できたのはミシンを使っていた数人くらいで、他は次の服飾の時間に制作の続きをすることになる。
「リーネ、それ何?」
「ん? 新しい外套。これで多少の雨も大丈夫」
授業を終えてから図書館で落ち合い、リアーネが今日何をしていたかと聞いてみたところ、腰鞄から出てきたものだ。
「フード付きの外套。大っきめだねー。足首くらいまである感じ? ボクじゃ引きずるね」
「うっわぁ。これ軽いね。それに薄い」
「ほんとなの。すごい薄いの!」
雨具としての脂をしみ込ませた羊毛の外套は分厚く重い物であり、少女たちにとっては負担になっていた。それに対してリアーネの取り出した外套は綿布の薄く軽い物だったのだ。
「リーネ。ここのボタンだけ魔石になってる?」
「ん。さすがラーリ。もう気付いた」
この外套は魔導具になっているという。
「ん、裏地も見て。魔法陣を縫った。これが一番大変だった」
「わぁ……」
「何これ!? まさか手縫い? 正気かリーネ!」
「正気じゃないのはルーナだよ。しかしまた凄いね」
「リーネ。これってミシン使ってるの?」
「ん。良く判ったねロット。ミシンは便利」
「うっそだー! あんな速度で動く機械でこんな魔法陣が縫えるはずがない!」
信じたくないのだろうルシアナが頭を抱えて後ずさる。
「ん? 速度調整すればゆっくり縫ってくれるよ? 大きい布だったから、取り回すのは大変だったけど」
「リーネ! 今度ミシン教えて!」
「ん。任せて」
「なら、うちも一緒にいいか?」
「私も参加するの!」
「うう、みんな敵だ。ボクの味方が居ないなんて」
次の休日にはミシンで色々と作ろうと約束をした。
「それでリーネ。この外套、どんな機能がある?」
「ん。雨と音、匂いに感知を防いでくれる。魔獣から身を隠すのが楽になる」
「後は色さえ緑とかにすれば、森の中じゃ見つけらんなくなりそうだね」
「ルーナ……それはダメだろ」
「ん。さすがにそれやると他の狩人に間違って撃たれる」
ルシアナの言動にこの娘大丈夫かなと、心配そうな顔で皆が見る。
「言われなくても解ってるって。こんな派手な色、狩りの時くらいしか着ないよなー。普通の外套にも雨避けくらいは付けてもよさそうだなって思っただけだよー」
「それは、確かにそうなの。雨を吸った外套は重くて大変なの」
ロレット達も狩人見習いとして雨の中、森を歩くのは大変だったのだろう。
「ん。後はこれで、快適」
そう言って追加で取り出したのは、肘と膝用の簡易防具に長靴、座布団だった。
「これ、全部作ったの?」
「んーん。改造しただけ」
「それでもいっぱいだね、この辺はともかく靴と座布団って?」
レアーナは簡易防具の有用性にはすぐに気が付いた様だが、他は見ただけで判るものでは無かった。
「ん。この靴、底と爪先に薄い硬銀板を仕込んだ。鋭い岩を踏んでも大丈夫。こっちの座布団は、こうして腰で止めておく」
前掛けをお尻側に付けた様な状態となって、そのまま椅子に腰かける。
「あぁ! そっか。良いねそれ!」
それらを登録するために服飾組合と錬金組合に寄って行くことになった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




