052 森の心得と雨宿り
「もし、一人で行動中に傷を負って魔法も使えない様な状況になれば、どうする?」
「魔法薬使って良いの?」
「傷薬もかな?」
「ん? 無理に動かず周囲と傷の確認?」
雨の多い季節に入り、北西の森の中で行動中に急に降って来た雨をやり過ごすために、雨避けの布を張ってその下で休憩中のことである。
時間を無駄にすることも無く何くれと狩人の知識が伝えられていく。
「リアーネの言う通り、まず確認が必要よね。頭に傷を負ってたりしたら直前の記憶が吹っ飛んでることだってあるし。もし危険な魔獣が周囲にいるのなら、悠長に薬を使う時間が無いかもしれない」
ピッと指を立て教えるパルヴィ。
「あー、そっか。そうかも」
「ん。合ってて良かった」
「まだまだ考えが足りないかー」
「場合によっては、荷物を紛失して魔法も使えない、なんて状態も想定しておくべきよね。もしそんなことになったら薬草に関する知識が身を助けることになるわよ」
狩人にとって必要な知識は何も魔獣の物だけではない。できるだけ覚えておいてと講釈が続けられる。
「そういえば、魔法鞄の雨対策は大丈夫?」
「ん。液体単体では入らない様に制限を掛けてる」
「そうだったの? 知らなかった」
「えっと。じゃあ、コップに入れた水は入るの?」
「ん、入る。けど、中でどうなるか判らないからやめた方が良い」
「あー、いつも魔法で『脱血』まで掛けてたのも、それでだったの?」
いくら、内部に入れた物が個別に保持されるようにしてあるとはいえ、血が滴り出て来る状態の物を入れておきたいとは、リアーネには思えなかったのだ。
「大丈夫そうね。布製の魔法鞄を持っている人に聞いたことがあるんだけど、しみ込んだ雨水で中が水浸しになって、カビだらけになったことがあるそうなのよ。あなた達のは革製ね? 定期的に手入れはした方がいいわよ」
「ん。作動停止させて中の掃除から陰干しまでやってる」
「装備品一式、まとめて手入れする日を予定に入れておくと良いんだけど、さぼってる人が多くてね。あなた達はそんな風にならないでよ」
「「「はーい」」」
心底嫌そうな顔で言うパルヴィに三人は元気な声で返事する。
一刻近くはそうして雨を凌ぐことになり、ようやく通り過ぎたようだ。
「そろそろ行きましょうか。雨避け外すわよー」
道中、血止めや打ち身に効く薬草を見かければ、見分け方から教えて行く。
ただ、どれもそのままでは効能が低く気休めでしか無かったり、沢山の種類があるので、全てを網羅することまでは難しい。
「薬草手帳みたいなのを作っておけばいいのよ。学者じゃないんだし、覚えるのも限界があるし、覚え間違ってると危険だしね」
そう言って見せられた手帳には、色が塗られた植物が繊細に描かれていた。
「おぉー凄い! 綺麗!」
「ん。これなら見分ける役に立つ」
「こんなの、どうしたの?」
「これは、リレーション出版の本よ。元は白黒なんだけど、それに色を入れたの。大変だったんだからね」
「「「先輩が塗ったの!」」」
自分で色を塗ったと聞いて驚いて、一瞬双子の尻尾がブワリと膨らんだ。
「そんなにおかしい? これでもよく気が利くって言われてるんだけどなぁ。周辺の地形とか魔獣のこととか、知っておくこと、記録しておくことなんかは結構あるんだけど、みんな適当過ぎるのよねー………」
組合員に対して色々と思うところがあるようで、ブツブツと思わず漏らした不満を誤魔化す様に頬に手を当て手帳を仕舞った。
雨季に入り新芽が伸び、枝葉を成長させて森の緑は一層深くなっている。
雨が上がればじっと身を潜めていた獣も動き始め、双子達の目に留まるものもいる。
「この辺の罠は仕掛けなおしだね」
見ると罠に草が噛むようになっており、たとえ獣が掛かったとしても抜け出す可能性が高かった。
罠の仕掛けなおしている合間には何頭かの獲物を確保した。
「この分じゃ、他も大変だろうね。さて、この辺まででいいかな」
そうして別ルートで街へと向かう。
「茸はっけーん!」
「ん。一杯ある」
「どれとって大丈夫だっけ」
「ふふふ。気を付けてよー、茸は毒持ちも多いからね」
雨に刺激されてか、多くの茸を目にするようになった。
食べられる物、薬になる物と籠に取り分けて行く。
「おぉー、演舞茸だ! ラーリこれ好き!」
「ん。リーネも好き!」
「でかいなー」
「良いのがあったわね。この根元の菌核は薬の材料にもなるから、一応気には留めておいて」
「「「はーい」」」
帰る道々、薬草、野草も採取してその度々に、講義が始まる。
覚えることが沢山だと、街に着いた頃にはくたくたになっている三人であった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




