049 魔法鍛冶と槌作業
「あっつーい!」
黒銀の槌工房の鍛冶場では、ガンガンに火が焚かれ炉の温度を上昇させていた。
魔導具で空気を送り続け火力を上げ、炉は耐火補強して、ようやく素材を加工できる温度に到達する。
鋼であればこれ程の高温は必要は無く、硬銀を扱うために必要な温度だった。
水分を補給し、汗を拭い、『冷房』の魔法で高熱に耐える。
「さぁ、始めよう!」
「ん。任せる」
キーンッ! キーンッ! と、一定のリズムで槌を振るうのはレアーナでリアーネは炉の維持と自分達の冷却を行っていたが、それでも汗だくになりながらの作業である。
温度が下がれば鋏で掴んだ硬銀の塊を炉に入れ加熱。
十分に熱せられればまた槌を振るう。
保護眼鏡の蔓が熱を持ち、何度もリアーネが『冷却』の魔法を掛けなおす。
浸炭焼き入れ焼き戻し、一通り炉を使った作業を終えて徐冷用の箱に収めたら、水分補給をしながら火を落としていく。
「あーー。きっつい。硬銀ってこんな大変なんだなー」
「んー……、鋼の倍近く? 知識で知ってるだけとは、やっぱり違う」
汗を拭いつつ鍛冶場から出て裏庭で涼んでいると、ラウリーがやって来た。
「おっつかれー。どう? 終わった?」
元気な声でそう言いながらも、よく冷えたジュースとお菓子の乗せられた盆を差し出してくる。鍛冶場の暑さを聞いていて心配を掛けていたらしい。
「ん。ありがと、ラーリ」
「ありがとう。んーーっ! ぷはぁっ。生き返るー」
一息に半分以上を飲み干して、ようやっとレアーナは落ち着くことが出来たようだ。
「もうすぐお昼だけど、どうする? まだ作業するの?」
「あー、いや。徐冷にもう少し余裕を見ておきたいかなー」
「ん。一回汗を流した方が良い。行こうか」
「ラーリも混ぜろー」
「ラーリは水浴びしたいだけじゃないの? いいけどさー」
双子の尻尾も嬉し気に揺れて、ようやくいつもの調子に戻ったようだった。
昼食後、様子を確認するために鍛冶場に戻ると十分に熱が治まっていたので作業を再開する。
「研ぐぞー!」
「ん? 研磨機使わないの?」
「これも体験しとかないとねー。でないと、父ちゃんにどやされるよ」
そう言って、準備した砥石にあてがい磨いて行く。
「ん。リーネもそろそろ作り始めようか」
リーネの準備したのは砂粒状の硬銀である。
「んーと……、光輝放つ尊き金属よ、我の望む姿を与える………『金属変形』」
魔法を使いまずはザックリ形を整え『空気浄化』を調節して硬銀の板の周囲を窒素のみにしたうえで『不純物除去』で純度を上げて『結晶化』を掛けて均質にした。
抓んだ指先を滑らす様にして刃の形成が終われば、珪素と窒素を表面に薄く『成分添加』し『木材変形』で持ち手を作って完成させる。
「ん。できた」
「リーネ早すぎ! こっちまだ荒砥も終わってないのに!」
「むぅ。理不尽。硬銀は固いから魔法でも扱いは大変なのに」
「こっちのがもっと大変だよ! 今回、うちは炉の維持と熱対策以外、魔法無しで作ることに意義があるんだから!」
「ん。レーア頑張れ。遠くから応援してる。リーネは親方に見せて来る」
「行け行けー! 行ってしまえー! この薄情者ー!」
レアーナの叫びを背に受けながら鍛冶場を後にし、一仕事終えたと尻尾の揺れもご機嫌で、ラウリーと合流してからレアーナの父ウォルガネスに作ったばかりの包丁を見てもらう。
「おぅ? もう終わったのか?」
「リーネいつも色々作ってるから慣れてる」
「ん。刃物は初めて作る。問題なかったら解体ナイフとか、狩りで使う道具を作る」
どれ見せてみろと、包丁を手に取って魔法も使いながら見分する。
「ほぅ……大したもんだ。これなら魔法鍛冶師を名乗れる出来だ。表面処理のこれは何だ? あんまり見ない方法だが」
「ん? 珪素と窒素を表面にだけ添加した。炭素か窒素か軽銀でも良かったけど、何となく?」
「ほぅほぅ、珪素と窒素か。意外な組み合わせだが悪くない」
そうして合金の話に発展していくかに見えたが、ラウリーの言葉に中断される。
「ね、ね。切ってみていい?」
まな板と岩瓜と赤茄子を用意してワクワクしているのが尻尾に表れていた。
サッと水洗いした包丁で、トントントンとテンポよく潰れることなくみじん切りにされる赤茄子と、軽く体重をかけて切り分けられた岩瓜の厚い皮を削いでいく。
「いい感じ! 切りやすいよリーネ!」
「ん。よかった」
包丁の出来に笑顔を交わす双子だった。
切り分けた赤茄子はたっぷりの砂糖と煮詰めてジャムにして、岩瓜は蒸して潰してプリンを作る。
冷蔵庫で一刻近く冷やした頃に、ようやくレアーナが作業場から出て来た。
「父ちゃん………。できたよー」
「何だ、その顔は? どれ。見せてみろ」
レアーナの作った包丁は研磨作業中の熱で所々変色し、見た目の印象は良くなかった。
「まぁ、できそのものは悪くはない。硬銀ってやつの扱いの難しさが、この見た目に出てきちまってるんだ。こればっかりは数をこなさなきゃ身に着かん。まぁ、精進しろ」
「うん。頑張る」
レアーナは、目標を見据えて多少の元気を取り戻す。
双子と一緒に赤茄子ジャム掛け岩瓜プリンを食べながら、今度は魔法で作るんだとレアーナは元気一杯気合が入った。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




