048 乾酪作りと保存食
夏が近づき日に日に日中の暑さが増してきた時期である。
牧場では雪白山羊の出産が相次ぎ山羊乳が沢山採れる時期でもあった。
生乳のまま飲むことはもちろん、様々な形で住人の口に入ることになるわけだが、保存についても考えられていた。
「みなさんは食料の保存法と言えばどのような物を知ってますか?」
今、学院の実習室で行われているのは調理の授業である。
先の質問に対して返答のあった物は、塩漬け、砂糖漬け、酢漬け、乾燥、燻製である。
「家や寮の手伝いくらいはしているでしょうから、これくらいは知っていて安心しました。しかしこれだけではありません。醗酵や醸造も立派な保存方法です。という訳で、今回行うのは醗酵です。秋になってから美味しい乾酪が食べられるか、失敗して食べられないか、皆さんに掛かっています。頑張ってくださいね」
部屋の一画には山羊乳が入った小樽が班の数だけ並べられており、各班が一樽ずつ運んでいって教師の指導通りに作業を進める。
「乾酪できるのいつくらいになるんだろ?」
「早くてひと月、そこからさらに熟成させるって言ってなかった?」
「龍神祭の頃に乾酪使った料理を作るって言ってたの!」
「そっかー。まだまだ食べられないんだねー」
ルシアナの疑問にレアーナ、ロレットが答えると、食べられるのがずっと先だと言われてラウリーの元気は耳と尻尾が垂れる様に無くなって行った。
「はいはい。午後からは少しだけ蜜煮を作りますから残念そうな声を出さない」
「「「やったー」」」
途端に調理室中に響く程の歓声が上がった。
「ん。蜜煮作るんだ……蜜煮」
乾酪の蜜煮と聞いたリアーネの顔は、皆ずるいと書いてあるようなものになっていた。
「リーネにも食べさせてあげるよ!」
ラウリーの言葉にリアーネはギュッと抱き着き、ありがとうと嬉しそうにする。
食堂で一緒になった五人の話は途切れる様子は無いのに、卓の前の昼食はあっという間になくなって行く。
「リーネは今日は何やってたの?」
「ん? 食料の保存方法考えてた?」
「えっと、何だっけ? 乾酪に燻製?」
「ルーナ……他にもいっぱいあるの。午前中にも色々と話の中で出て来てたのに、もう忘れたの?」
ルシアナがあまりにも覚えていないことに、ロレットは耳を伏せて呆れた様に言う。
「ルーナだしなー。うちもとっさには出てこないけど、ルーナよりはましだな」
「じゃあ、レーアが言ってよー」
唇を尖らせてルシアナがレアーナに他を答えてよと促した。
「えっと。塩漬け、砂糖漬け、乾物、お酒……他にも何かあったよね?」
「味醂干しに、煮干し、開き干し、焼き干し、佃煮、甘露煮に魚醤!」
「ラーリ……お魚ばっかり、よくそれだけ出て来るな」
「他に保存法って何かあるの、リーネ?」
「ん。瓶詰、乾麺、堅パンなんかも保存法の一種になるかな?。で、今日の成果はこれ」
そう言って腰鞄から取り出したのは横に倒した金属製で脚付きの樽の様な物だった。
「えーと、樽? だよね?」
「ここ蓋になってるの? 開けて大丈夫?」
一言断ってから容器の蓋を開けて確認すると、思ったよりも厚みがあり、蓋と逆側には何やら付いているようで握り拳程ありそうな厚みと穴が見え、内部は棚のような感じに網で仕切られていた。
「一センチくらい厚みがある? なんで? もっと薄く作れるでしょ?」
容器を触りながら言うレアーナの疑問ももっともであった。
「ん。これにはそれだけの厚みが必要だった」
リアーネの説明では、中に入れた食材を『殺菌』、『冷凍』、『加圧』の魔法を改造した『減圧』、『乾燥』するのだと言い、人数分の椀に何やら赤くて四角い物を入れて出す。
「リーネ、これなに? 食べ物?」
ラウリーが耳を伏せつつ不審な物を見る様に椀をつつく。
「ん。これにお湯を注ぐ」
そう言って更に腰鞄から水筒を取り出し中のお湯を注いでいくと、ふわりと四角い物体が解けるように広がって行く。それをスプーンでかき混ぜてようやく皆の見慣れたスープが現れた。
「「「緑豆の赤茄子スープだ!」」」
劇的な変化にラウリーとロレットは尻尾の毛を立てる程に驚いた。
「わっ! ちゃんとスープだ!」
「普通に美味しい!!」
「ほんとなの! お湯入れてすぐに食べられるの!」
「リーネ凄い!」
「ん。美味しくできてて良かった」
皆の驚きに満足そうにゆらゆら尻尾を揺らして嬉しそうなリアーネだった。
昼食後は午睡を取って調理室に戻った四人は乾酪の蜜煮を作り満足気である。
授業後にリアーネを交えて皆で美味しく楽しくいただいた。
◇
後日、リアーネの作った魔導具は『凍結乾燥機』として錬金組合、食品組合に登録され、その利便性から携帯食の在り様が一部、様変わりすることになる。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




