046 解体作業と牧畜場
「「「かわいいーーっ!」」」
テルトーネの街の東の農地を越えた先にある牧場へとやって来ていた。
この牧場では、雪白山羊、陽豚、藍鎧兎が育てられている。
どの種も比較的おとなしく牧場のものは人に飼い慣らされているために、むやみに襲ってくるようなことは無い。そんな三種の家畜は特に分けられるでもなく広い牧場でのんびりと草を食んでいる。
双子達は親に寄り添うように子兎が多数集まっているのが見える場所にいた。
体長五十から六十センチの親は双子達が持ち上げるのは困難な程の大きさで、特徴的な長く幅の広い耳を立て、額と四肢に藍色をした鎧状の鱗を持っている。野生の物はそれらで身を守り、時に攻撃にも使ってくるのだ。
「兎、大っきいねー。美味しいかな?」
「ん。レーアくらいある? たぶん美味しい」
「ラーリ達は大きくなるの早いんだよ。仲間はルーナだけだー」
「あっ。こら、巻き込まないで。ボクだって早く大きくなりたいんだよっ!」
「ルーナにはぜひそのままでいてほしいの。うふふー」
長命な髭小人や森人は体の成長もゆっくりであり、ルシアナはいつの間にやら身長が逆転されているのが悔しいのだった。
しばらく牧場内をぶらぶらとした後、畜舎の一画にたどり着いた。
「全員揃ったかー? これから班毎に兎を一頭解体してもらう。牧場の方々の指導をしっかりと受けるように」
「先生ー、解体終わったらどうするんですかー?」
「もちろん料理して皆の昼食になる。多少見栄えが良くなくても無駄にはしない様に」
「「「おぉーーっ!」」」
牧場の端にある、この建物はいわゆる屠殺場である。
何匹いるのか沢山の藍鎧兎の鳴き声が響いていた。
「あんた達の指導は私が受け持つよ。よろしく」
双子達の前に現れたのは、見上げる程の身長を持つ大鬼族の赤髪のお姉さんである。
「前掛けと手袋は持って来たかい? 大丈夫そうだね。なら早速始めようか」
建物の中に入って行くと柵の中に何頭もの藍鎧兎が入っているのが見えて来る。
「好きなの選びな」
「うーん? どの兎が良いかな?」
「んー……お肉の味の違いは見ても判らない」
「じゃあ、大っきい方がいっぱい食べられていいんじゃないかな」
「それならあれはどう? 茶色いやつ」
「あんまり変わらないの。私はレーアの言ったのでいいの」
「こいつだな。まぁ、どれ選んでも大丈夫だよ」
体の割に鱗の大きな茶毛の藍鎧兎に決め、お姉さんは前足を抑えるように手を入れると、お尻の下から支えるようにして簡単に抱き上げてしまった。
「おぉー。重くない? ラーリには無理そう」
「ん。リーネ達には持ち上げれそうにない」
「レーアと同じくらい有りそうだもんなー」
「ルーナも変わんないでしょー」
「どっちにしても無理なの」
「あっはは。無理はしないでここは任せときな。さぁ、こいつの足を縛ってくれるかい」
ラウリーとリアーネが協力して藍鎧兎の足をしっかりと縛ればロープで吊るして準備を終える。
「さて、こっからどうするね?」
ただ指示をするのではなく、どうすればいいのか考えさせる方針のようである。
「えっとー、まず血抜き? 首切ればいい?」
「んー。治癒魔法の『麻痺』か雷魔法の『小雷』それとも闇魔法の『安眠』で、動けなくした方がいい? その前に『殺菌』『浄化』かな?」
「村じゃ、そのままスパッと首の血管切ってたよ?」
「小槌でガツンとやればいいんじゃない?」
「薬でも眠らせたり麻痺させたりできるの」
「みんな、間違っちゃないが獲物が大きくて暴れられると危険な場合のこともあるから、できれば魔法なりで動けなくしてからの方がいいね。兎だったらさっき言ってた中のどれでも大丈夫だよ。得意な魔法は人によって違ってくるからね」
「ん。どれも得意。ルーナが『小雷』ロットが『麻痺』『殺菌』リーネが『安眠』『浄化』ラーリが切ってくれればいいかな?」
「うちの出番は?」
「そんなに使うつもりかい。まあいいけど」
出番が無いと抗議の声を上げるレーアと、魔法の多さに呆れるお姉さんであった。
そして、リアーネの言ったとおりに魔法を掛けて、おとなしくなった藍鎧兎の首を場所を教えてもらってから切りつけて、噴き出した血の量に驚くのは、双子とレアーナの三人だ。
「びっくりしたー! びゅびゅって、凄い勢いだね」
「ん。びっくり。『脱血』の魔法は必要?」
「ぁん? もうそんなのまで使えんのかい? 上級魔法なんだがなぁ……。まぁ、使えるなら使っておきな」
「じゃあ、私が行きますの! 生命を支える熱き血潮よ、役目を終え絞り採れ………『脱血』」
絞り摂る様に血が抜けて行き、下に置かれた桶の中には思った以上に溜まっていた。
「こんなに血って出るんだ……」
「ん。重そう」
「そうだな。重いぞ。牧場はともかく狩りの場合は、その場で血抜きをすることも多いだろうが、持ち帰るのに軽くするって面も多少はあるだろうしね。ちゃんと覚えておきな」
血抜きが終われば、お腹から首元まで皮を切り裂き内臓を取り出していく。
「ん。まだあったかい」
「そりゃそうさ。さっきまで生きていたんだからね。無駄にすんじゃないよ」
鱗の境目を狙って足首に切れ込みを入れたら捲る様に皮を剥がしていく。引っ掛かった時だけ解体ナイフの出番があった程度で、思った以上にするりと剥けることに双子は驚いた。
「前足のとこ、難しい」
「急がないで良いから。ほらそこ、ズボン脱ぐときみたいにぐいぐいっと引っ張って」
「「「おぉーー」」」
耳の軟骨を切って行けば顔の部分も丸々剥がすことが出来た。
後は部位毎に切り分けたり骨から剥がして料理で使いやすくするだけだ。
ここまでくれば、普段肉屋で見る様な見た目となる。
「「「見たことある。……お肉だ」」」
「あーそうさ。みんな大好き兎の肉だ。ここまで大変だったろ。本当なら三、四日熟成させてからの方が美味しく食べられるんだけどね。今日は、自分達で解体した肉を食べてもらう。旅の間に狩ったものは熟成させる余裕なんて無いからね」
「いつもありがとうっ!」
「ん。感謝。手軽に肉串が食べれるのは牧場のおかげ」
「解体するのって大仕事だよー。腕パンパンになっちゃった」
「ルーナは鍛え方が足りないんじゃないか?」
「レーアは鍛えすぎなの。私はもうへとへとなの」
双子達が解体を終えた頃、他の班も次々と終えて行った。
その後は、皆お待ちかねの昼食の準備である。
パンと串焼きとスープだけの簡単な献立ではあるが、今日の主役は間違いなく自分達で解体をした藍鎧兎の肉であった。
手早く仕上げて食卓に料理が並び、声を合わせて食事が始まる。
「「「いただきまーすっ!」」」
美味しい! 大変だった! と、声が上がり楽しい昼食の時間が過ぎて行った。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




