X02 レアーナの細工物
「父ちゃん、できたー!」
「おぉ。どれどれ、見せてくれ」
ここは黒銀の槌工房。
髭小人の娘レアーナは工房内の一室で粘土を捏ねて何かしら作っていた。
「とりあえず、これで手を拭け。これは………龍神様か?」
「うん!」
「形はともかく、これじゃだめだな」
「なんでーーっ!!」
レアーナはまだ五歳と小さく槌を振らせるようなことはできないため、遊びを兼ねて粘土細工を教わっていた。粘土とは言っても使っているのは、錬金術で加工した樹脂と金属の粉末を練り合わせた金属粘土と呼ばれる物だ。混ぜ合わせる金属粉末を魔法金属に変えるだけで錬金粘土となるため魔導具やアクセサリーなど幅広く使われる素材である。
「前にも言ったろう、別の種類の金属粘土と一緒に整形しない。忘れたか?」
「はっ! 忘れてたーーっ!!」
その細工物は、灰色の粘土と黄色の粘土で作られており、どうするべきかと頭を抱える。
金属の種類によって焼成に必要な温度が違うため、一緒に造形すると接合部の割れや剥離の原因となるためだ。どうしても別種の金属を組み合わせたいなら、一度焼成した物に追加で成形、焼成を繰り返すなどしなければならない。
「それから、この部分。細すぎて折れるぞ」
「えーーー、だめ?」
「父さん、レアーナ。そろそろお昼だって、母さんが呼んでるぞ」
扉を開けて入って来たのは父親とよく似た風貌の青年だった。
「おぅ。それよりこれ見てみろ。お前からも何か言ってやれ」
「なに? 粘土? あーーー、まぁ……焼いてみれば?」
「さすが兄ちゃん! ほら、焼いてみりゃ判るって!」
「焼かんでもこれくらい判る! が、まぁ分かった。窯に入れたら昼めしだ」
そう言って、魔導具である金属粘土焼成用の釜に入れ、温度と焼時間を指定した。
「もう徐冷も済んだろ。出していいぞ」
昼食後、意気込んで窯の扉を開けたレアーナは、中の様子を見て崩れ落ちた。そこには、バラバラに剥がれ落ちた鱗や角が散乱し、一見すると蛇のようにも見える物があったのだ。
「ほれ、言わんこっちゃない。なら、次は修正だ」
「これをっ!」
「なに驚いてる。せっかく焼いたんだ、無駄にするんじゃない」
そうして、散乱した鱗などを焼き直している間に、失敗作を延々と磨きぴかぴかになった頃に、焼き終わった物を磨きと作業を続ける。それから薄めに溶いた錬金粘土を接着剤として鱗を張り付けていく。
「終わんなーい……」
「口でなく手を動かせ。動かしただけ完成に近付く。動かさなきゃいつまでたっても失敗作だ。隣で見ててやれるのは今日だけなんだからな」
「うぅーーー、わかってるよー」
たまたま仕事が一段落した父に、レアーナが教えてほしいと頼んで見てもらっていたが、さすがに付きっ切りで指導を受けることができるものでは無く、父も金属粘土の細工物を作っていた。これが一流の仕事だと、捏ねて捻って大雑把に形を作った後は土の上級魔法で一気に成形、見事な細工に変化して瞬く間にトレーに並んでいく。
夕飯直前になってやっと全てを張り付け終えて、接着剤を焼くために窯に入れることができた。
夕食後、窯から出された細工物をもう一度磨き、さらに磨き粉などで延々と磨き続ける。
「できたー!」
「なら、もう風呂入って寝ろ。仕上げは明日にでもすればいい」
「え? これで完成じゃないの?」
「はぁーーー、父ちゃんの仕事見たことあったろ。明日は兄ちゃんに見てもらえ」
やり切ったつもりのレアーナは父の言葉にきょとんとした顔で聞き返し、盛大な溜め息をついて呆れられてしまったのだ。
◇
「ほら、もっとよく見る。まだまだ磨きが足りないよ」
兄の指摘に、泣き言を漏らしながらも磨き作業を再開する。磨き粉に布だけでなく、細い棒に布を巻き付けて細かな所まで艶やかに仕上げるように言う。
そうして全体が磨き終わり、これで終了かと思えば、薬剤の入った甕を持って来て浸け込んだ。
「兄ちゃん、それなに?」
「ああ、せっかく磨いて艶々になったんだから傷ついたら嫌じゃないか。これに浸けると多少の傷なら防いでくれるようになる。あと、色味がかっこよくなる」
得意顔で説明する兄だがこの薬剤には種類があり、本来の金属色のまま仕上げる物や色味を付加する物などがある。ここで使われたものは、鈍く輝く重厚さを与えてくれるものであり、兄の好みの物であった。薬剤から引き揚げ、雫を落とし、『乾燥』の魔法を使って軽く磨いて、『定着』の魔法を使って、乾布で拭ってようやっと完成を言い渡された。
「疲れたーー………」
「ほら、ちゃんと見てみろ」
「うん。………おぉ! かっくいい」
そこには、完成したばかりの龍神様を模した鈍い金と銀色の置物があった。
キラキラと目を光らせて見惚れていると、通りかかった父から声が掛かる。
「完成したのか? なら、後は台座を作らんとな」
「え………?」
「呆けとらんで、早くせい」
今度こそ終わったと気が抜けていたため、その言葉にレアーナは力なく突っ伏してしまう。
一旦昼食で気合も補充して、午後を使って台座の作成。
そうして何とか夕飯までには父の合格が得られたのだ。
後日。店頭にある作成見本の硝子棚に置かれ、父が嬉しそうに客と話しているのを見つけたレアーナは恥ずかしくも誇らしい気持ちでその場を逃げ出した。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




