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ねこだん!  作者: 藤樹
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043 年末年始と春告鳥

 もうずいぶんと寒さも和らぎ若葉の緑が見られるようになってきて、冬の間の溜まった仕事と新年祭の準備で、街中が忙しそうな雰囲気に包まれていた。


「炬燵最強ー」

「ん。勝てない」


 まだまだ朝晩は冷えるため自室の炬燵にこもって出てこれない双子である。


「いーかげんに出ないと、ボクも手段を択ばないからね?」


 出かける約束をした友人三人が寮まで訪ねて来ており、炬燵の魔力に囚われた双子を開放するためにと窓を全開に開け放つ。すると肩まで潜り込むのを見逃し天板を取り上げる。続いて炬燵布団に手を掛けるが、取られてたまるかと抑える双子。


「手伝って!」

「まかせて!」

「わかったの」


 双子の入った場所の横側の布団を持ち上げてバサバサと冷えた空気を送り込む。


「「にゃーーっ!」」



「みんなひどい……」

「ん。ぬくぬくしてたい」

「悪いのはそっちだろー」

「わざわざ迎えに来たんだからねー」

「そうなの」


 ルシアナが借りた写真機(カメラ)を首にかけ、街中探検が始まった。

 まず最初は寮の前で一枚パチリ。


「これで映ってるの?」


 ルシアナの疑問にリアーネが答え、一覧表などの操作を教える。


「どこ行く?」

「んー、どこでも?」

「ならボクは高いところがいい!」

「どこかいいとこあったっけ?」

「高いとこ……時計塔は登って良いところなの?」

「「「時計塔!」」」


 まず目指すのは時計塔となった。



 街の中央には森林公園があり、その北側には各組合(ギルド)本部が集まっている。

 そこから東の区画に神殿と時計塔があり、時計塔のある建物は集会所となっていた。

 大きな商店は森林公園を取り巻くように固まっている他、南と西それから北と東に二つずつある街門から続く通り沿いに集中している。


 街の中ほどには川が流れており、その川の近くに工場がいくつか並んでいた。特に大きなものは紡績、布織工場で水車を動力に大型機械を動かしている。


 五つある学院は北西、西、南、南東、東にあり通いやすく配置されていた。五人の通う学院は街の南側にあり、大通り沿いの寮とは少し離れていた。

 南東の角地に鍛冶工房の集まった区画があり日中は随分と騒々しい。その北隣の区画には競技場を見ることができる。


 大き目の通りには露店が並ぶが、特に大きなものは南門付近にあるもので、他と区別して南門市場と呼ばれていた。南西にある馬場と狩人(ハンター)組合(ギルド)の支店の影響でか、ここには人も荷物も集まってくるようだった。

 他は住宅区と言える場所で、小さな商店や工房が見られるだろう。



 寮の隣を流れる川沿いの道を北上し、道中気ままに撮影をする。

 橋の上から川に向かってパチリ。


「まっすぐ」

「ん? 運河?」

「あーそう! 確かそんな感じ」

「昔の外壁はこの川沿いにあったんだっけ?」

「そうなの。それで川むこうは新しいお家が多いの」


 日向ぼっこする猫と羽妖精をパチリ。


「お昼寝するー」

「ん。一緒に寝る」

「こらー!」

「寝るなー!」

「私も寝るのー」


 元気に主人にじゃれつく犬をパチリ。


「「「可愛いー!」」」


 しばらく一緒に戯れる。ばいばいと手を振り少し進めば神殿が見えて来た。



 広場と神殿の脇を北へ行き時計台の元へと到着する。


「入っていいのかな?」

「ん? 聞いてみればいい」

「じゃあ行こう!」

「ルシアナは軽いなー」

「すごいの」


 集会所の表玄関を越え中に入ると、木がふんだんに使われ、柱一本取っても何かしら彫刻の施された立派な所だった。


「おや、お嬢様方。本日はどうされましたかな?」


 白髪で黒服を着て、眼鏡をかけた老齢の羊人族の男性が声を掛けて来た。


「時計塔登れる?」

「ん。登っても良い?」

「これ! ボク達、写真撮ってるんだー」

「だから高い所に行きたいんだー」

「お願いしますの」

「おや、それは先日の新聞に掲載されていた写真機(カメラ)ではありませんかな?」

「しん……ぶん?」

「ん? 多分そう?」

「「「何それ! 聞いてない!」」」


 男性は若者にこの場を任せて案内をしてくれると言う。穏やかな雰囲気で皆すぐに好きになってしまった。水力昇降機で一気に最上階まで移動する。そこは時計の更に上にある展望室となっており、一角には酒場と卓(バーカウンター)が見て取れる。


 部屋の四方には大きな窓があり、その先のベランダに出られるようだった。

 北西には龍の山脈の最高峰が望め、賑やかしく沢山の写真を撮っていく。


「お嬢さん。もしよかったらその写真機(カメラ)を見せてはもらえないだろうか?」


 声を掛けて来たのは年配の森人族の男性だ。年配に見えることから、どれほどの年齢かは推し量れないが思っているよりもずっと高齢なのだろう。


「いいよー」

「ん。どうぞ」

「えっ? リーネいいの?」

「何? また、しんぶん? とか?」

「どちら様ですの?」

「ありがとう。私は出版社の者でね、先日の新聞に掲載された写真機(カメラ)を持った少女が居ると聞いて駆け付けたんだよ。いやそれにしても、これは素晴らしいね。それで、もう一つあったと思うんだが、今日はそれは無いのだろうか?」

「リーネ?」

「ん。入ってる」


 腰鞄(ウェストポーチ)から大型表示板を取り出して、写真機(カメラ)から撮像札(Sカード)を移し替え、今日撮ったものを表示して見せた。

 男性はひとしきり感心した後、礼を言って去って行った。


「おー、ほんとに写ってる!」

「こんなの良く作ったなー。うちにも作れるかなー?」

「ねー、すごいのー」


 返してもらった表示板で今まで撮った写真を見たら、次の場所へ行こうとなった。



 案内をしてくれた羊人族の男性にお礼を言って時計塔を出る。


「神殿ー」

「ん。お隣」

「もうすぐだねー」

「年始の祭りはどうする?」

「一緒に行くのー!」


 神殿前の広場では、年始祭の準備が行われていた。舞台の設置に気の早い屋台。沢山の酒樽が積み上げられている。あれらはみんな振る舞い酒で、出資者の名前が樽に書かれている。


「ジュースもあればいいのに」

「ん。そうだねー」

「ボクは甘酒楽しみ」

「そう?」

「ルーナは甘酒よく飲んでるのー」


 邪魔にならないようにと移動することにして、次に向かったのは森林公園。遊歩道に沿って歩いて行き、早くも花が咲き誇る一画に差し掛かり、撮影も忘れしばし見とれる。

 花を背景に順に撮ってもらい、気が付けば中心の泉にまで着いていた。



 その後は、露店街まで移動して、お気に入りの茶屋で休憩。


「あまーい!」

「ん! ここが一番」

「こっちのが良くない?」

「それはルーナだけー」

「甘いのが良いのー」


 順に乾酪焼(チーズケーキ)、人参プリン、パイ包み焼き、蜜ドーナツ、乾酪(クリームチーズ)団子を食べていた。

 食べ終わってから、撮っておけばよかったかもと気が付くルーナ。撮影者(カメラマン)失格である。



 工房街を通り過ぎ、南東側の街壁門に到着した。


「門も良いけど」

「んー? 登れないかな?」

「ボクが聞いてくる!」


 気の早いルシアナは反射的に行動する。門衛についてる牛人族の男性に駆け寄り話し始める。ごつい見た目に反して優しい質で少女の頼みを快く了承してくれる。


「おぉーっ!」

「ん。収穫終わってる」

「もう無いねー」

「あの辺なんだろ?」

「もう少し早かったら良かったの」


 見渡す先は小麦畑で収穫作業を終わらせて、刈り取った後が広がっていた。

 そろそろ空は茜色に染まり、暗くなる前に帰ることにした。


 ◇


 新年初めの日が顔を出した。街は既にお祭りの雰囲気に包まれている。


「炬燵最強ー」

「ん。勝てない」


 早くに起きていた双子だが、着替えてすぐに炬燵に潜り込んで(トロ)けていた。


「またあんたらはー」

「えーいっ!」

「懲りないの」

「「にゃーーっ!」」


 寮に迎えに来た三人に炬燵布団を捲り上げられ、尻尾の毛を逆立てて抗議の悲鳴が響き渡った。


「みんなひどい……」

「ん。ぬくぬくしてたい」

「ほら、諦めて」

「新年祭なんだから」

「楽しむのー」



 神殿に新年の挨拶に向かった後は、近くの屋台を梯子して、五人で少しずつ分けて味わっていく。そんな中でもチョコドーナツは一人一つ買っていく。


「これ食べると。んぐんぐ……」

「ん。新年」

「やっぱり、そんな気分になるよねっ!」

「んぐんぐ、ごくん。甘ーい」

「なるの!」



 新しい年が来たと、小鳥も独特の節をつけて競うように鳴いている。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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