042 新聞記者と写真機
資材店で買った硝子、蛍石、軽銀、炭を五キロ程ずつ、屑魔石は一掴み程の量と他にも木材、おが屑、鉄紛、銅紛などが寮の自室の一画に、工房を思わせる棚に収められている。その前には実験装置などが散らかっていた。
木材製の架台に硝子から作ったレンズを乗せて、形状や焦点距離の調整を行っていた。特に神経を使うのは、近景と遠景の焦点距離を調整する作業だろうか。高純度化した蛍石をレンズに加工した物で色収差特性も向上させていた。
撮像面は硝子を基盤に魔石を均一に塗布して、裏面には真銀粉末で魔法陣を形成する。
本体は軽銀で構成し撮像版に光量調節用の羽を操作するレバーを取り付け、レンズの取り付け部分を仕上げて行く。取り付け部の円周には発光用の魔石を付けて、暗い場所での撮影時に光を調節するようにした。握りの部分には処理用魔石と画像保存用魔石を納める空間を、その上部に撮影ボタンを埋め込んだ。レンズとは逆側には画像表示版を取り付ける。表示版は撮像版と同じような物ではあるが用途が違うために使用している魔法陣が別の物であり表面保護に硝子で覆われている。
それらの隙間を埋めるように魔力充填用の魔石を埋め込んで行く。本体の握りの周りは木材で覆っていき、軽銀に埋め込むように一体化させる。底部には白鋼で三脚用のネジ穴も用意している。肩掛けベルトを取り付けて、取り外しができる構造にし、フォーカスリングを備えた取り外し可能なレンズ部分を嵌め込んだら完成だ。
見た目としては接眼レンズやモードダイヤルを廃した、コンパクトデジタルカメラのような物に仕上がっていた。
画像保存用魔石、長いので撮像札とリアーネは名前を付ける。
撮像札は沢山の魔法陣を焼き込んだもので魔法陣一つに一枚の画像を保存し、簡単に交換できるようにした物だった。
壊れた写真機を買ったのは、画像の保存方式や基本構造が知りたかったからだった。
レンズ周りに撮像版と手を入れたために、元の写真機よりも高画質になっている。何より小型化と高々三倍だろうと拡大機能は今までには無かったものだった。
それからもう一つ。二十×三十センチはあるだろう大きさの表示板を軽銀の筐体に収めた物を作った。それには撮像札を納める場所も用意して、印刷せずに写真の確認ができるようにした。
終業式を終えてまとまった時間が取れたので、秋の収穫祭から少しずつしていた作業が、ようやく形にできたのだった。
「完・成!」
静かにずっと作業をしていたリアーネができたばかりの写真機を手に立ち上がった。
「リーネ?」
「んー、動作確認」
パチリ! と、微かな音を立て、訝しげなラウリーの表情が撮影された。シャッターが無いのでボタンを押した軽い音がするだけなのだ。
撮像札を取り出して、大型表示板に挿入する。小さな一覧が表示されるが、記録されるているのは当然一枚だけであり、画面に触って拡大表示をさせる。
「ラーリだ! これラーリだよね!?」
「ん。綺麗に撮れてる」
「凄いよ! リーネ! ラーリも使える?」
「ん。簡単」
撮像札を写真機に戻し、撮影ボタンを押せば表示板に映った景色が撮影できると説明してラウリーに渡せば、ベルトを引っ掛け表示板を確認すると、リアーネを中心にパチリパチリと撮り始める。
「これで良いの?」
「ん。ここでも確認できる」
と、写真機の表示板に指を触れると小さく一覧が表示される。そのうち一枚にトトンッと触れれば大きく表示されている。
「おおーーっ! さっきのリーネだ!」
「ん。上手に撮れてる」
「お出かけしよう!」
「ん! 用意する」
防寒対策もしっかりと、腰鞄には錬金組合に持ち込む見本などを詰め込んでからお出かけだ。
まずやって来たのは錬金組合。
「いらっしゃい。今日はどんな御用ですか?」
受付のお姉さんはにこやかに対応してくれる。写真機と大型表示板を見せると大いに驚かれたのだった。奥の一室に案内されて、使い方を中心に説明していく。それから木製の構造見本と撮像版、表示板、撮像+表示処理用魔石、撮像札、レンズ群に構造図、魔法陣とついでに折り畳み式の三脚とレリーズボタンを錬金組合に持ち込んで、一式まとめて預けておく。
特に大型表示板は受付嬢にも絶賛された。
今回は各魔法陣だけではなく、レンズ群に撮像札、表示板、折り畳み三脚、レリーズボタンに対して著作登録されることになり、契約書に署名していく。
そのあとは、気ままに街中を撮影しながら散歩する。合間に屋台で肉饅頭や菓子を買って食べながら、店の親父と撮影したりする。
「お嬢ちゃん! それ! それ、もしかして写真機じゃないか?」
「え? そうだよー」
「ん。よく判った」
双子に声を掛けてきた人物は、頭部から渦巻き状の角の生えた白髪の羊人族の男性だった。かっちりとした濃灰のジャケットにスラックス、黒の外套と帽子をかぶって、手にはリアーネが買った壊れた写真機と同型の物を持っていた。
「どうしたんだこれは!? 小さい! それに覗き穴が無い!」
「ここー」
「ん。見やすくした」
裏側の表示板を見えるようにすると、男性はさらに驚きの声を上げる。
「私は、ヘンリクと言う。リレーション出版の記者なんだが、この写真機についてぜひ話を聞きたい。あー、と……そこの茶屋で、構わないだろうか?」
と、近くにあった茶屋を指さし言ってくる。
「リーネどうする?」
「ん? 構わない」
「おお。ありがとう!」
山羊乳で煮だし砂糖たっぷりの甘いお茶と皿に盛りつけられたクッキーを前に、双子は笑顔でいただきながら、記者の質問に答えて行く。
「これは、素晴らしい! この表示板があれば、その場で写真の確認ができる。何より画像に色が付いている! 新聞に載せる分には白黒で十分だと思っていたが! これはもう別物じゃないか! この表示板との組み合わせでなら欲しがる人はいくらでも居そうだ! 新しい価値がここに生み出された! それに、この撮像札だ! 記録できる枚数は同じ程あるのに小さくなっている! 形状が決められているのも収納箱を統一できるし、いいことづくめだ! この小ささに収めながらも、この機能! 遠方を大きく映し出す仕掛けなど素晴らしすぎて言葉もないよ!」
一通り説明し、錬金組合にも登録、預け入れしてあるので、魔導具師に頼めば手に入れることは可能だろうと答えている。言葉も無いと言いながらも、さすがは記者と言うだけはあり、リアーネの作った写真機がいかに素晴らしいかを並べ立てる。
「クッキー無くなった……」
「ん。話が途切れない」
話を聞いていて疲れることもあるのだと、耳を萎れさせて初めて知った双子だった。
ああ、すまないと言って、写真機と表示板の写真を撮影してから男性は去って行った。
翌週の週刊新聞に写真機の記事が掲載され、多くの記者が錬金組合を通じて制作の依頼を出すことになり、後に、リアーネの登録した写真機を基本とし、望遠性能の高いレンズの開発が始まったりもして、新聞記者の標準装備となっていく。
この新聞、およそ六十×八十五センチの紙面の裏表に印刷された物を二つ折りして紙面が構成されていた。
後に、印刷機の改良はできないかと相談されて、研究を始めることになる。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




