041 未来の夢と終業式
高等部の最高学年を終えるセレーネは、もうすぐ卒業を迎える。
卒業後の住居や見習い期間を終えて本格的に仕事に就くための準備が整えられていた。
「セレー姉!」
「セレーネ姉」
別れることが寂しくて、双子は寮の玄関先でギュッと抱き着いた。
「ほらー、それじゃあ歩けないよ?」
そう言って優しく頭を撫でると手を取って、学院へと一緒に登校する。
「この度、本学院を卒業する皆さん。ご卒業おめでとうございます」
講堂には卒業生に在校生、教職員に保護者、組合員など大勢が列席している。
そんな中、舞台の壇上では学院長が卒業生への祝辞を贈っていた。
「………初等部を卒業する皆さんはこれから街の中で様々な職に就き、生活を支える存在へとなるのでしょう。初めは何事も上手くはできないでしょうが、誰でも同じなのです。諦めることなく自分の進む先を見定め自身を技術を高めていく努力を続けてください」
一度、言葉を途切らせ卒業生全員を見渡すように視線が動いていく。
「高等部を卒業する皆さんは、多くの人を導く立場であったり、守護職や狩人などの街を守る立場になることでしょう。先人の言葉によく耳を傾け、足元を固め、逸る心を抑えなければならない時もあるでしょう。何が間違いで何が正しいことなのか、考えて行動できる力を、この九年の学院生活で身に着けていることでしょう………」
淡々とした語りながらも力がこもった言葉に、卒業生の精神が昂っていく。
「………あなた方のこれからの活躍を皆が期待しています。最後にもう一度。卒業生の皆さん。ご卒業、おめでとうございます」
拍手の音が場を満たした。
式も終わり講堂を出て、セレーネを見つけた双子は手に一輪ずつの花を持ち駆け寄っていく。
「「卒業、おめでとう!」」
「ありがとう」
瞳を湿らせ、それでも笑顔でセレーネは答える。
双子は寂しさを隠せずに、それでも笑顔を見せ、祝いの言葉を贈った。
「セレー姉はこれからどうするの?」
「ん。狩人?」
「ええそうね。村に帰って、まず最低一年間は狩人ね」
「一年?」
「ん? まずは?」
「探索者になるには一年以上の狩人の経験が必要でしょ」
「おおー! 探索者になるの?」
「ん、探索者……」
「今のところは、そのつもり。一年の間に気が変わるかも知れないしね? それに何より仲間を見つけないとね」
「「そっかー」」
迷宮攻略を目指す者を『探索者』と呼んだ。
探索者となるには魔物と戦う術を身に着けるために、狩人としての経験を義務付けられていた。魔力を扱う獣の魔獣と迷宮由来の魔物では様々な点で違いはあるが、それでも戦うための多くの知識と経験が得られるために、そんな規則が作られた。それ以前と以降では、迷宮へ挑む者の生還率が明らかに変わったのだった。
「ラーリもなるー!」
「じゃあ、リーネも」
「そっか。じゃあ、いつか一緒に迷宮に行くことになるのかもね」
「「目指すは一緒に攻略!」」
「あはは! そうね! 頑張るわ! 二人もね?」
「「うん!」」
その日は卒業生が寮での最後の日になった。皆が笑顔で寂しさを隠して、祝いの言葉を贈り、お祝いのご馳走を一緒に食べたのだった。
◇
「アルヴィくん、エーリクくん、ロレットさん。この三人は成績も優秀なので、来年度から高等部へと移ってもらいます。オイヴィ、ヴァルト、イルマリ、イリニヤ、ヴェルナさんは三年次生。ラウリー、レアーナさんは四年次生よ。みんな優秀で先生嬉しいわ。他の皆さんは来年度は二年次生として教室も変わるので、間違えないようにね」
「「「はーい!」」」
翌日、終業式を終えて教室で担任からの連絡だった。
「十日と短いですがお休みの間、親御さんの所に帰る人もいるでしょう。みんな気を付けてね。それから、課題もあるので忘れずに」
「「……はーい」」
「ロット凄いね!」
「ありがとうなの!」
「ん。来年度は一緒」
「リーネと頑張ってな! うちも追いついて見せるから! ルーナはもっと頑張れ」
「ロットに先こされたなー。ってか、ボクだけ置いて行かれた……」
図書館に寄らずに露店街をぶらぶらと、お喋りしながら帰っていく。
「ね、高等部の勉強ってどんな感じ?」
「んーっと、読み書きは古語が入ってくる。計算に歴史、地理、武術、魔法は初等部より詳しく教えてくれる」
「やっぱり難しくなってるの?」
「んー、覚えることが多い。それから必須科目に礼儀作法が追加されてる」
「うわー……」
「そっかー」
礼儀作法の先生の堅苦しさを思い出し、ルシアナとレアーナから嫌そうな声が漏れてくる。
「話し方で注意受けたりなの?」
「ん。酷いと怒られるのは今までと変わらない……よ?」
その後はリアーネによる選択科目の説明だ。
「んー……農業、漁業、牧畜、騎乗、林業、木工、建築、石工、鍛冶、硝子工、服飾、魔導具、調薬、料理、どれが聞きたい?」
「お魚! だから、漁業?」
「ん。漁業は、この辺りだと川魚のこと、川のこと、養殖のこと、漁の道具のことが中心。休みに入ると湖に行って船でおっきい網使って漁をするって言ってた」
「お、おっきい網! それにお魚、育てるの!?」
「んー……まだ、方法の確立したお魚は少ない」
まずはラウリーが興味を示したものの話をし、次はルシアナの番になる。
「その中なら、ボクは騎乗かな?」
「ん。騎乗は、馬を代表する騎獣に乗ったり、世話したりかな? 魔導車の運転も教えてくれるらしい」
「おぉー! 魔導車! そっかー、そっちは考えてなかったー。でもいいな!」
「うちは鍛冶で決まりだね!」
「ん、鍛冶は魔法を使わないのが中心。実際に作って調べて金属の性質を知るのが大事だって言ってた。基礎ができてないと、魔法で形を作っても外見を真似ることしかできないって。リーネのことは何か変な奴って目で見られた。なぜ?」
「あー、魔法だけであれだけの物作られたらなぁ……でも、そっか。粘土以外もさせてもらえそうだねー。言ってることは父ちゃんと一緒っぽいけど」
「調薬と、魔導具と、料理が気になるのー」
「んーと、調薬は、病気や怪我、毒のことと、それぞれに必要な薬のこと。薬草の効能を抽出、薬を作る、器具の扱い、薬の歴史なんかがある」
「思った以上に詳しく教えてくれそうなの!」
「ん、でもロットはマリー姉の弟子だからそれ以上のことは教えてないかも?」
「同じことでも教え方が違ったら、新しい発見があるかも知れないの」
「ん、そうかも。で、魔導具は魔法陣のこと、作り方、転写の仕方、魔石の扱い、魔物素材でどんな性質を持つのかとか、教えてくれる。料理は、包丁の使い方から、いろんな調理道具使わせてくれる。家庭料理からよその地方の料理、お菓子とかいろいろ作れる。おすすめ!」
「授業でお菓子! いいなー」
「ボクも受けたい!」
「高等部。いいなー」
「楽しみなの!」
色々聞いて結局お菓子に落ち着いて、来年度の学院も楽しみだねと、お菓子の話でお腹の減った五人は買い食いしながらのんびりと帰途についた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




