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ねこだん!  作者: 藤樹
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038 お見舞いと冷菓子

「おはよー」

「はよー、ラーリ」

「おっはよう!」


 学院の教室に着いたラウリーはストーブに近づきながら挨拶し、友人達も挨拶を返す。


「ルーナ、ロットは? トイレ?」


 いつも一緒に登校しているはずのロレットの姿が無いことに、教室内を見回した。


「いやー、なんか熱っぽくいらしくて、今日は家で寝てるんだ……」


 昨日の夜から熱を出して休んでいると聞いて、心配する気持ちが伏せがちになった耳に表れる。


「そっか、心配だね」

「マリー姉さんが付いてるし大丈夫だよ」

「帰った頃には、薬飲んで元気になってるかもしれないしね」


 そして、担任のシスティナ先生がやって来て、朝の挨拶が始まった。


「はい、みんなおはようございます。今日は三人お休みの連絡があったわ。熱を出して寝込んでいるそうよ。風邪が流行っているって話も聞くし、あなた達も体調が悪いようならすぐに言うように」

「「「はーい」」」


 ◇


「ん? ロット熱出したの?」

「そう、工房には病気の人も来てたのかも」


 放課後になり、リアーネと落ち合ったがロレットの姿が無いことに、何故なのかをルシアナが説明した。


「リーネの作った口面は?」

「効果なかった?」

「効果無いの?」

「んー。口面をつける前に病気に罹ってたらどうしようもない」


 リアーネは申し訳なさそうに、しゅんとしながらそう言った。

 この後は図書館に寄らずにお見舞いに行こうと、声がそろった。


「おかえりなさい」

「ただいまー」

「「「おじゃましまーす」」」

「マリー姉、ロットの様子は?」

「まだ寝込んでるわよ。医師の診断では風邪じゃなかったみたいでね、薬を飲んでも良くなるまでに一週間程かかる筈よ。ここのところ、ここで薬を買っていく人も多かったから……うつったのかもしれないわね。学院の方は大丈夫かしら?」



 錬金術師であり薬師であるマリーレインには調薬技術はあっても大雑把な診断しかできないため病気の時は医師に頼ることになる。


 ここで言う医師とは、診察、調薬、治癒魔法などが使える者のことを指し、病気の治療には主に魔法薬を含む薬が使われ、診断結果によって薬を選別できる能力を有する者のことを言う。


 ちなみに病気治療においては『解熱』を使うことはしばしばあるが、『病気治療』を使うことは少ない。これは、免疫の獲得ができないことや、それに伴い体力の衰えた状態ではまたすぐに病気に罹ってしまうことが多いためである。よほど重症であれば一旦『病気治療』を使い重症化することを防ぐこともある。



「一週間………そんなに?」

「ん。何の病気?」

「風邪じゃなかったんだー、でも一週間ってもしかして大変な病気だったの?」

「相変わらず、ルーナは適当だなー」

「風疹って言ってたわね。一度罹ればもう罹ることはほとんどなくなるような病気でもあるけど、あなた達はもう罹ってるの?」

「どうだっけ、リーネ?」

「ん。一緒に罹った。水疹と火疹も。あとは土疹と雷疹がまだ」

「かかったの去年だったっけ?」

「うちも、かかったことある。周りで何人もかかってたよ」

「そういえばそうね。去年は風疹の薬、結構作ったわね。みんな済ませてるみたいだし、お見舞いして来ても大丈夫そうね。でも咳が酷くて話すのは辛い筈だから少しだけね」

「「「はーい」」」



 風疹とは、風属性に適性を持つ者を中心に罹る急性熱性発疹性の魔力異状症である。

 数日の微熱に頭痛、倦怠感、咳などの症状が現れるが、これだけならただの風邪と一緒であるが、もちろん違う症状として全身に発疹が広がって行く伝染性のある病である。

 一度罹ればよほど弱って無ければ再発することの無い病でもあった。



「入るよー」


 と、ルシアナが声を掛けロレットの部屋に入っていく。

 ロレットの部屋は三・五メートル四方程の広さに座卓が置いてあるくらいで物が少なく寒々しい印象を与えかねないが、押し入れの前には沢山のぬいぐるみが賑やかさを演出している。


「寝てる」

「んー、ちょっと寒い」

「仕方ないんじゃない?」

「だよね?」

「んー……寒いと体調崩しやすい。あと、部屋の空気が乾燥してるのも良くない」

「さすがリーネ」

「えへん」

「そういうもの?」

「そうなんだ?」


 一度戻り小型のストーブがあるかマリーレインに聞くとちょうど良さそうな物を渡された。ロレットの部屋の隅に置き、上には水を入れた薬缶を掛ける。これでしばらくすれば、室内も温かくなり、乾燥も防げるだろう。



「病気の時は?」

「ん。冷たい果物!」

「軟らかいのが良いよなー」

「うちはツルツルよりプルプルが好きだな」


 と、言うことで菓子を作り始める。


「桃の瓶詰はどう? 夏の間に浸けておいたやつ」

「いいの?」

「ん。桃好き」

「いいね」


 ルシアナの提案で用意したのは桃の瓶詰だ。砂糖を煮詰めたシロップに浸かった桃は、程よい軟らかさになっている。


「シロップこれくらい?」

「んー、もう少し入れてよし」

「これは……山羊乳? いや醗酵乳(ヨーグルト)か。入れて良い?」

「ん! かなり良い」

「後はこれを入れればプルプルだよー」


 レアーナの発言に醗酵乳(ヨーグルト)が追加されることになり、シロップと醗酵乳(ヨーグルト)を量り入れて混ぜたところに入れるのは、ルシアナが棚の奥から取り出したゼラチンだ。

 湯煎でゼラチンを水に溶かし入れて、よく混ぜたら果実と一緒に器に入れて冷蔵庫で冷やして固まれば完成となる。


「どれくらいで固まるかな?」

「んー、一刻程?」

「じゃない?」

「何度か様子見すればいいって」


 ◇


「あら、目が覚めたのね。何か食べれそう?」


 夕食後、ストーブに掛けた薬缶の様子を見に来たマリーレインは、ロレットが目を覚ましたことに気が付いた。


「コホッ、ンン。のど……乾いたの」

「ちょっと待っててね」


 そうしてマリーレインが、白湯に蜂蜜を少し溶かし入れたものと桃ゼリーを持って来た。


「起こすわよ」


 まずは白湯で喉を潤したロレットは、トレーにあるもう一つの器に視線が囚われる。


「これは?」

「ルシアナ達が作ってくれたのよ。ラーリちゃん達はもう帰っちゃったけど」

「そっか……美味しいの」


 匙で掬い口に入れると軟らかく、つるんと喉を通り過ぎるゼリーが心地よい。そして桃のシロップ漬けは青果には無い甘さと軟らかさに嬉しくなる。



 三日後には熱も下がって元気になったが、うつしてしまうこともあるからと、さらに五日間外出させてもらえずに、少しばかり不機嫌なロレットだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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