037 病の流行と予防法
明け方は霜柱が立つこともある程に随分と寒くなった。
「冬になると体の節々が痛くなってねぇ。つくづく歳を感じさせるよ」
「子供が熱を出しちゃって朝からずっとうなされてるのよ」
「錬金組合が魔法薬を催促してますができてますか?」
マリーレイン錬金術工房に来てみれば、何やら忙しそうにしている。
「ごめんねー。寒くなってくると古傷が痛むんだとか風邪引いたとか増えてくるんだー」
「そっかー」
「ん。仕方ない」
ルシアナが双子の相手をするが、マリーレインと手伝いのロレットは相手をする暇もないような状況だった。
「速達でーす!」
「はーい! 今行きますのー」
運送業者の声が響きロレットが応対に出る。受け取ったのは抱える程度の大きさの箱だった。中身を確認し受領書に署名。ありがとうございましたの声に慌ただしく去って行った。
「姉さま! 菴摩羅の種、届きましたの!」
「ほんと? すぐ準備に掛かってちょうだい」
「はいなの!」
ロレットはすぐさま調薬の準備を始める。菴摩羅の種をサッと水で洗って、力いっぱい種殻を切って割り『乾燥』させて、魔力を流しながら擂鉢で種の中身を擂っていく。棚から取り出した紫魔石を粉末にし漆藜子の葉、鹿茸に、大釜に満たされた活力水を小鍋に取り分け作業台へ。各素材を量って小皿に分けて行く。
そこから続きはマリーレインが作業を引き継ぎ硝子製の調薬装置の各所に入れて行き、火を点ければ後は薬液が溜まるのを待つだけになった。
「ロレット、こっち見ててね」
「分かりましたの!」
治癒魔法のある世界であり、病気を治療する魔法もあり魔法を掛けた時には確かに原因が取り除かれて回復はする。ただし、体力の低下した状態であったり抵抗力も獲得していないため、またすぐ病気に罹る者が多くいる。このため病気の治療に魔法は、あまり役に立たないと考えられていた。
もしも清潔を保った施設があれば、病気の治療も簡単にできるのだが、この世界の住人はそのことにまだ気付いてはいなかったため、薬や魔法薬に頼ることになる。
「何がいい?」
「ん。美味しいの」
「当然ね!」
忙しそうな様子に直接手伝えることも無いと考え、双子とルシアナは昼食を買いに行くことにした。露店街についてみると馴染みとなったいくつかの屋台が出ていない。聞いてみると風邪が流行っているらしく休んでいる人が多いという。お礼を言って買い物をして、錬金術工房へ戻った頃には少し早いが昼食には良い時間だろう。
「お昼だよー」
「ん。戻った」
「落ち着いたみたいだねー」
「みんな、お帰りなのー」
「ご苦労様。みんな昼食に帰って行ったわ。私たちも食事にしましょうか」
手早くスープだけ仕上げると、買って来たパンなどと一緒にいただく。
食事中の話題は客の多さと風邪の流行。今年の風邪は感染力が高いのか看病していた家人も風邪を引いた話を聞くと言う。
「みんな気を付けてね。温かくして、良く寝てよく食べ、清潔を保つ」
「やってるー」
「んー、鼻と口を覆った方が良い?」
「それって、どういうことなの?」
ロレットの疑問にリアーネは耳をピコピコさせながら答える。
「口や鼻から病気の元が入り込むから、入らないようにする。病人がするくしゃみや鼻水、嘔吐、下痢なんかは、病気の元を外に追い出そうとするから起こることだし、熱が出るのは、病気の元をやっつけるための反応だから、安易に熱を下げたら病気が長引く」
「リーネちゃん詳しいわね。そんなのどこで知ったの?」
「リーネだったら本だよねー」
「ん? たぶん?」
「なんだそれー? 覚えてないのかよー」
「え? えー??」
「まぁ、いいわ。なら、口元を覆う何かを作れば風邪の予防とかできるのかしらね?」
「おおーそうなの?」
「ん。たぶん」
食事も終わり早速作業。木片をもらい『木材変形』で形を作る。『接着』で固定化し紐を通して後頭部で止められるようにする。顔との接触部には布を当て、空気穴の前にも布を複数層になるようにして当てて行く。そうして口面が完成した。
ラウリーがつけた口面は見た目が猫の口元になっていた。
「息苦しいー」
「んー……仕方ない?」
それならと改良を始める。錬金粘土を分けてもらい、作った魔法陣は『空気浄化』を元にして、威力の調整と『魔力充填』を組み合わせたものだった。魔石に焼き付け、口面の空気穴の近くに取り付けて、口面の鼻から魔力を流して起動させるようにした。
「おおー苦しくなーい」
「ん。可愛い」
「あら、もうできたの? 随分手際が良くなってきたわね」
マリーレインに構造や機能を見てもらい、効果がありそうだと太鼓判を押される。
「じゃあ、私達の分も作ろうか」
「お仕事平気?」
「ん? お仕事終わった?」
「うん。納品分はできたから、運送屋さん待ちなの」
マリーレインとロレットを交えて追加で六つの口面を作り上げ、各々口元を覆っていく。
マリーレインは材料を提供しているが金銭の受け取りはしておらず、新しい物を自分で試すことができるのだから、それだけで良いと言ってくれた。
そうして錬金組合へとやって来た。
「お嬢さん達、可愛いの着けてるわね。今日は何の御用でしょうか?」
「これ預けに来た」
「ん。お願いします」
魔法陣と説明書き、見本を渡して、期待できる効果を説明する。よく解かっていないながらも「承りました」と保管する。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




