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ねこだん!  作者: 藤樹
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035 寮の危機と冬支度

 祭りを過ぎた辺りから急激に寒くなって来た。本格的に寒くなる前にと大人達は忙しそうにしているようだ。

 屋内であるが沢山着込んで丸っこくなった双子は、見ている分には微笑ましいが、当人達は動きにくそうにしていた。


「いっぱいだねー」

「ん。後は冷蔵室だね」


 寮の穀物室には冬の間必要になる麦類や玄米、豆類に芋類の袋が棚にぎっしり詰め込まれていた。根菜、葉野菜はこの時期からも収穫が見込めるために、比較すれば少量あるのが見て取れる。それに対して冷蔵室には大きな肉の塊が申し訳程度に置かれていた。


「これから準備が忙しくなるわよー。覚悟しときなさいね」


 セレーネの声に首肯して、どのくらい用意するのかを聞いて双子は途方に暮れてしまう。寮生だけで三百人近く居るのだから冬の蓄えもそれだけ必要となるのだった。

 現在双子はセレーネに冬の準備のためにと寮内を連れまわされていた。まず大事なのは十分な食料と言うことで保存庫を巡っていたのだった。


「ここは薪がいっぱい。炭もいっぱい」

「ん。こっちの箱は?」

「見ていいよ」


 室内いっぱいに薪や炭が積まれ、その片隅に箱があり、開けてみれば赤い魔石が数十個詰められている。暖房の手段としては薪ストーブが主力だが、魔力を充填すれば使える暖房の魔導具も存在している。ただしストーブ程には暖を取れず、ここにあるのは魔力充填用魔石の予備であった。よく見れば形も揃い魔法陣が焼き込まれているのが判るだろう。


「これだけで温かくなる?」

「んー……たぶん無理。考えてみる」



「おじゃまー」

「ん。入る」

「待たせたかな? 補修に来たわよ」

「はーい。待ってたわ!」


 六階の角部屋の他、数部屋において隙間風が吹いていると言うことらしく、補修部材として石の粉末におが屑を持ってやって来た。外並びの四人部屋に初めて入った双子は部屋の大きさに思わず声が出る。


 窓周辺に隙間が空いていると説明を受け、確認すると確かに見える。セレーネにも確認してもらい、上部も含めて窓枠全体に及んでいると判ってくる。

 リアーネは石粉に手を触れ『石変化』の魔法で一センチ程の真球を複数作り床に置き、しばらく見てるとコロコロと動き出した。


「ん。傾いてる。他の部屋も調べるべき」

「どして、リアーネ?」

「んー……寮全体が歪んでる、かも?」

「えっ!? ほんと? それ大変じゃないの?」


 急遽始まった寮の傾斜確認のために十個程の球を追加し、手伝ってもらうことになった。

 元々の補修候補の部屋が有ったのは南東方向に偏っており、調べて行くうちにどうやら地盤が他に比べて数センチ低くなっているようだった。


「どうなってるの?」

「んー……この辺りは大昔、湖だったと言われてる。あと、川の傍だから岸の土が削れていったとか?」

「湖は聞いたことあるかも? それが今関係あるの? 川もそうね」


 湖に土砂が堆積し長い年月をかけて住み良い平地ができ上がる。しかしその地面は固い岩盤では無く土や砂が緩く積み上がっているだけの物だった。地震の多いこの地にあっては、しっかりとした基礎を作らなければ、このようなことは度々起こる筈だと、リアーネの説明は続いていく。そして、現在も少しずつ変化があるために寮ができた当時に比べて地盤が沈んで来ているのではないかと推測を述べる。


 川は元々拡張前の掘として造られた物のはずだから、可能性は低いのではないかとも付け加える。


「え……っと?」

「大変なのよね?」

「ん。大変。建築組合(ギルド)に連絡して、地盤調査をしてもらうべき」

「皆で魔法使うんじゃだめかな?」

「ん。低くか高くし過ぎて事故を起こすかも。均一にするのは難しい。専門家に任せた方が安全」

「そっか。そうだね。寮管に報告しなきゃね」


 補修は一時中断となり、寮の管理人が建築業者から人を呼ぶことになった。



 後日、建築業者が調査の結果、地盤工事を行い、外壁、構造材、屋根も一緒に修理を済ませ、酷くなる前に呼ばれて良かったと言って帰って行った。

 寮生は本格的な冬を前に、隙間風に悩まされることは無くなった。


 ◇


「たーるっ!」

「ん、お塩」

「まだまだ、あるよ……」


 食堂では大きな樽に塩と香辛料を塗した肉が詰め込まれていく。塩で隙間を無くしたら最後は蓋をする。二樽漬けてノルマは終了させたが重労働にぐったりとなった。これから冷蔵室に運ぶのは大変だからと、双子の腰鞄(ウェストポーチ)に入れて持って行く。


「作っててよかったね!」

「ん。魔法鞄(マジックバッグ)に感謝」

「私も助かったよ。この樽、転がすのも大変だからねー」


 双子以外も肉を塩漬けにする者、野菜類を塩漬け油漬けにする者が作業を終えていく。

 腸詰や燻製肉は食肉業者から運び込まれて冷蔵室に収められていった。

 これで冬の間も美味しい食事がいただけるだろう。


 ◇


「ブーツあったか!」

「ん。これで出かけられる」


 厚手の外套に帽子と襟巻、手袋までして、完全防備でお出かけする。

 錬金組合(ギルド)にやって来て、預けられている魔法陣の一覧を確かめる。


「リーネ! この魔法陣おっきいねー」

「ん。大きいだけで中身がスカスカ。これだと魔石も大きくないと焼きこめない」

「じゃあ、こっちのは? いっぱい詰まってる」

「んー……、いくつか魔法を組み込んでるけど効率が悪い? もっと簡素な構造に出来るはず。もったいない」

「じゃあじゃあ、これは? なんかひらぺったいのがあるよ」

「ん。これは良い。無理に立体で複合魔法陣にするんじゃなくて、平面で積層魔法陣にしてある。層毎に丁寧に作れるし複合化も立体より簡単だから、これ造った人は自分の実力を良く把握してる」

「お嬢ちゃーん……、さすがというか言うことが厳しくないかなー?」


 魔法陣を見せてもらうために通された部屋で待ってる間に、室内に展示されていた魔法陣を見てリアーネが批評をしていた。そこに保管庫からいくつかの魔法陣を持って来た受付のお姉さんが、冷や汗を浮かべながらそんなことを言う。


 目的の暖房に関する物を選んで見せてもらうが、どれも大掛かりな物しかなかった。例えば室内暖房魔導具に炬燵、ドライヤーや魔導具の石窯、コンロなども有るが出力が高すぎたりと用途の合わない物だった。

 それでも参考にはなるだろうと、それらの魔法陣を見せてもらった。


 一通り魔法陣を分析して満足したら、魔導具作成費用のために著作権料を受け取る時に、依然として売り上げが伸びているのか残高が増えているのを確認し、これなら新しい魔導具を作る資金にも困らないと、次の目的地へと足取り軽く歩いて行った。



 学院の図書館へと場所を変え、『加熱』『暖房』関連の魔法、魔導具を調べて行く。

 必要な本のある場所も概ね把握しているので探す時間はたいして掛からず、考察の助けとして魔法陣を形成していく。


「難しいねー」

「ん。練習あるのみ」


 ラウリーがリアーネを真似て魔法陣を作ろうとするも、光の線が安定せずにガタガタと歪んだものしかできていなかった。


 納得行くまで『持続光』で作った魔法陣を調節し、『暖房』の魔法を疑似発動させる。リアーネ自身は火の中級魔法を習得自体はしていたが、まだ使えるようになったばかりで得意という訳ではなかった。そのため安定した形状へと戻ろうとする『暖房』の魔法を直接使うよりも、慣れた『持続光』の方が正確な操作が出来たのだ。それでも最適な形状にするのに随分と時間が掛かってしまった。



 図書館で魔法陣の確認を終え、黒銀の槌工房へやって来た。


「おっちゃん久しぶりー」

「ん、また来た」

「おう。今日はなんでい? レアーナ呼ぼうか?」

「いいのー?」

「んー、リーネは作業する」


 真銀(ミスリル)の錬金粘土を買ってザックリとした形を作れば『金属変形』で魔法陣を成形していく。乾燥機の魔導具を作った時に錬金粘土を『金属変形』『乾燥』『不純物除去』で完成させられることを教えてもらったからだ。焼成の必要が無いため随分と早くできる。


 白鋼(ステンレス)の金属粘土も購入し、手早く変形させて『成分均一化』を掛けて品質も高めた三つ分の入れ物を作り上げる。およそ、六×十×一センチの大きさで角は丸く外縁部は薄く仕上げた。

 錬金粘土を使う理由は、金属塊を変形させるよりも時間も魔力も少なくて済むからで、金属粉を零す危険もないからだった。


「随分と手慣れたもんだ。もう立派に魔導具師でやって行けるんじゃないか?」

「リーネ凄いよな!」

「えっへん! リーネは凄い!」

「ん? 専業にする気はないけど?」



 次に来たのはマリーレイン錬金術工房。


「いらっしゃい。今日は何?」

「魔法陣ー」

「ん。また作って来た」

「あらあら、よく色々と作るわね。今度は何かしら? 楽しみね」


 双子が来たとロレットを呼んでリアーネの作業を見学させる。ついでにルシアナも来て、ラウリーとお話が始まった。


「ん、『暖房』と『魔力量調整』『魔力充填』の魔法陣これで大丈夫?」


 魔法陣を取り出してマリーレインに意見を聞いた。


「うーん……ここと、ここ『暖房』部分ね。もう少し外側に。うん。それで大丈夫そうね。でもどうしたの?」

「ん。火の中級魔法はまだ苦手だから」

「……本当に苦手なの? 全然そうは見えないできなんだけど」


 魔法陣のできを見て苦手発言を疑問に思ったマリーレインだったが、リアーネだからと気にしないことにしたらしい。


 リアーネは『持続光』で再現した魔法陣をマリーレインに確認してもらい、魔法陣を微修正。その後、慣れて来たのだろうと言う手際で手早く魔石の処理も行っていき、作って来た入れ物の魔法陣と接続させて二つの懐炉を完成させた。


「リーネできたの?」

「ん。完成」


 魔力を流して起動すれば、仄かな温かみに包まれて、嬉しい気持ちで尻尾が揺れる。

 調整摘みを捻って行けば、ある程度の温度調節ができるのも確認した。


「ぬるい?」

「ん、外套の中にずっと入れるから、それで大丈夫」

「なにそれ?」

「温かいの?」

「へー、良さそうね」



 錬金組合(ギルド)で現物を見せ、魔法陣に説明書き、入れ物の見本を預ければ、「もう少し早くから欲しかった」と、受付のお姉さんに言われてしまった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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