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ねこだん!  作者: 藤樹
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033 魔石不足と確保案

 龍神祭も終わった週末の朝、すぐ外の川へ行こうと南門へ着くと何やら騒がしい。


「閉まってる」

「ん。閉まってるね」


 周囲から漏れ聞こえてくる話からすると、街道に魔獣が出たらしい。秋も深まり冬眠に備えた魔獣などが餌を求めて現れたのだろう。


 沢山の大型トレーラーを擁する輸送隊が、飛んで来た飛熊(ヒグマ)が牽引車と貨物車の間にぶつかり横転したのだ。運の悪いことに、つづら折りになっている曲がり角付近でのでき事だった。中程を走行中の魔導車(クルマ)に被害があったために後続車が急停止、護衛の戦闘員が飛熊(ヒグマ)を退治したが、横転した魔導車(クルマ)をどうにもできずに後続車を置いて、救助した運転手と共にテルトーネに到着した。


 現在は横転した魔導車(クルマ)をどうにかできないかと協議をしつつも、狩人(ハンター)の巡回を増やすべく話が進んでいるという。


「お出かけ無理そう?」

「ん。外は危ない」

「じゃあ、どこ行こうか? ロットの家?」

「ん。ラーリが良いなら」


 残念そうにしながらもラウリーは手に持った釣り竿を腰鞄(ウェストポーチ)に片付けてマリーレイン錬金術工房へと足を向けるのだった。



「あら、そんなことがあったの? 困ったことにならないと良いのだけど」


 錬金術工房へ着いた双子はマリーレインに輸送隊の事故の話をしてみると、そんな返事が帰って来た。


「困る?」

「ん? 何に?」

「森に行けないのはなー」

「素材もそんなに蓄えてないのー」

「もちろんそれも困るけど、南の街道を通ってくる輸送隊は、鋼材や魔石を沢山運んでくるからね」

「それじゃあ、リーネが困るね」

「ん。レーアも困る」

「ボクは……困らないかな?」

「魔石が無いと魔法薬も魔導具も作れないの」


 管理区域内ならともかく、その外まで足を延ばす狩人(ハンター)にとって魔法薬の供給が滞るような事態は歓迎できるものでは無い。でき得る限りの安全対策を取っていようとも、油断や事故は無くならないため、保険の意味でも魔法薬を含めて薬の準備は入念にされていた。


 錬金組合(ギルド)においても魔法薬を主に作っている錬金術師はかなりの数が所属してはいるが、腕の良い者の中にはマリーレインの名前も挙がるのだった。


「ね、リーネ。魔石ってどうやってできるの?」

「ん? 魔物が死ぬと魔力器官が魔石化すると言われてる。後は魔力溜まりで採掘すると出て来ることがある、らしい。もしかしたら再現できる……かな?」

「魔石を人工的に作れるかってこと? さて、研究をまとめた本は読んだことがあるけど、成功したって話は……眉唾な物しか聞いたことは無いわね」


 魔導具関連の書物で軽く触れられてはいたが、リアーネはあまり気にしていなかったために調べたことが無かったのだ。『物質解析』などを使ってみても知識に無い物質が六方晶を形作っているように感じるだけであり、地中に同じ物質を発見することは今のところできていなかった。



 魔石自体は魔力に親和性があり魔力操作に変形結合など他の物質よりもよほど簡単に行うことができる。このことから研究者は魔力でできた仮想物質であると仮定している。迷宮氾濫(スタンピード)以降このことを研究し名を遺した者はおらず、現在において解明されていなかった。


 テルトーネ近くの採掘場で主に掘り出すのは岩塩であり、鉱石の豊富な鉱山は見つかってはいない。採石場でも調査は行ったが石材以外に採れる量が少なすぎたのだ。そのため遠隔地より資材を輸送してくる必要があった。


 魔石に関しては魔獣から得られる物以上に迷宮の魔物から得られる物の方が圧倒的に数が多く、迷宮も無いこの地では輸送してくる必要のある物だった。魔石の得られる迷宮は攻略したらそれで終わりになるのではなく、迷宮核の設定を変える魔導具によって、強力な魔物が現れないように管理下に置かれていた。


 この魔導具の開発には当時、大部隊で多くの魔導具技師と素材を迷宮核の間へと導いて、解析から魔導具作成まで行ったと伝えられる。

 魔獣や魔物から採取される魔石はそれらが持つ魔力が死後心臓の中で結晶化することが知られている。このことから、魔力は血管を利用して体を巡っているのではないかと考えられていた。

 鉱石などと一緒に採掘される魔石は魔力溜まりで見つかるが、魔力溜まりに魔石ができるのか、魔石が沢山埋まっているから魔力溜まりができるのか、未だ結論は出ていない。


 そんな魔力溜まりは魔力の回復が早いため、大きな街が作られている。このためテルトーネの地下も調査してみようかという話も無くは無かったが、元々この地にあったのは小さな集落のみであり、魔力溜まりではなかったのだ。

 魔力溜まりでは魔獣の発生量も多くなる傾向にあり、迷宮氾濫(スタンピード)以降放棄された街等の影響で魔獣発生数が上がっているという問題もあった。



「はい、ご依頼は以上でよろしいでしょうか?」


 お願いしますと辞去したマリーレインは、魔石の流通が滞るのを見越して錬金組合(ギルド)に魔石の確保を依頼したのだ。この後、錬金組合(ギルド)狩人(ハンター)組合(ギルド)や牧畜組合(ギルド)に掛け合うことになるのだろう。属性関係なく屑魔石でいいから、とにかく量を確保しておきたかった。


 マリーレインに頼まれて資材店に向かった五人は、注文票を渡して配送をお願いした。

 ついでにリアーネも魔石の他に錬金粘土などを買っていく。



「ん。実験してみる」


 工房に戻ってから、リアーネはそう言って腰鞄(ウェストポーチ)から魔石をいくつか取り出した。


「世界に満ちる魔の源よ、その脈動を示せ………『魔力感知』………『魔力分析』………『物質解析』………『構造解析』」


 『持続光』を操作し魔石の結晶構造を再現しようとするも『持続光』の本来持つ魔法陣と干渉するためか魔法の維持ができずに霧散してしまう。『燐光』や『聖光』、『暗闇』などと試すが同様の結果であった。

 その後も二つ、三つ、四つと魔法を合成してみても魔石の結晶構造は再現できなかった。


「リーネ無理?」

「ん。できそうにない」


 リアーネの耳はぺたんと悔しそうに倒れてしまっている。


「うちにある魔石の研究書はこれだけね。読んだことは?」


 実験中に姿が見えなかったマリーレインであったが、三冊の本を用意していたようで、その内二冊はリアーネも読んだことがあった。


「『魔導具失敗学』と『無属性魔石の真実』は読んだことがあるのね。なかなかおもしろかったでしょ?」

「ん。『不純物除去』とか、それで知った」

「なるほど。で、こっちの『魔石の波動』は読んだことが無いと。まぁそうでしょうね」

「どーして?」

「ん? なぜ?」

「これは、著者エーベルト・カリム・アルブリヒトが魔石を作り出すまでの研究書とされてるのだけど、誰も再現できなくて偽書とされてるからねー。図書館に置かれることはまず無いのよ」

「ぎしょ?」

「ん? 似非魔導学?」

「なんでマリー姉は持ってるんだ?」

「姉さま?」


 マリーレインによって簡単に内容が話された。


 それによれば著者は迷宮氾濫(スタンピード)以前に、様々な魔導具の開発を行った天才として知られ、魔導具関連の書籍では度々名前の挙がる人物であった。問題の本による魔石を作り出すという研究に関しては他の誰にも再現できなかったためか、いつしかその地位を羨んだ者達によって排斥された人物でもあった。


『物質と光と魔力は等価の物であり、理論上は変換可能である』


 と、言うのが著者の主張で、そのための考察や実験の記録が『魔石の波動』という本であり、最終章では制作の手順が詳細に書かれていた。


「作ってみたの?」

「ん。できなかった?」

「まったくー。マリー姉らしいけど」

「難しそうなの」

「そうね。私も良く解らなかったわ。でも魔石を理解するのには良い本なんだけどねー。最終章だけ未掲載にしてでも図書館に置くべきなのよ!」


 そして、リアーネがその手順通りに三つの魔法を合成していくと、机の上には米粒程の結晶がコロンと残されていた。


「「「………え?」」」

「リーネちゃん……あなた、何したの?」

「リーネ。え? リーネこれ?」


 驚きすぎて目をまん丸にして米粒程の結晶に視線を注ぎ続ける。どれほどそうしていたのか、ロレットの膨らんでいた尻尾もすっかり平常に戻った頃にリアーネが手を伸ばす。


「世界に満ちる魔の源よ、その脈動を示せ………『魔力感知』………『魔力分析』………『物質解析』………『構造解析』……無属性の、魔石?」

「リーネ、ほんと?」

「ん。ほんとに、できた」

「魔石……」

「これ、魔石……なの?」


 マリーレインも手にして解析するが、その結果は本物の魔石であることを示す物だった。


「まったく………。凄いわね、リーネちゃん」

「リーネ、どうやるの? ラーリもできる?」

「ん……難しい、よ? 魔法陣の合成、できる? 逆写像は? もう一つ追加で合成するし?」

「ん? ……んー? どゆこと?」

「んー、教えるのも難しい。ここに書いてる通りやっただけだし?」


 リアーネは『魔石の波動』の記述個所を指さして言うが、これ以上に何をどう説明すれば良いかは判らないようだった。


「ボクには無理。解んないっ!」

「えっと? ……え? ギャクシャゾーってなんなの?」


 例えるならば穴を開けずにゴムボールを裏返すようなものだった。他の者も試してみるが反転する過程で魔力が霧散してしまい、成功の兆しは見られなかった。


「やっぱり難しいわね。どうやったら反転なんてできるのよ……。それにしても、偽書ってわけじゃなかったのね。はぁ、報告しとかなきゃいけないわよねー………」

「おっきいのは作れない?」

「ん。やってみる」


 本に書かれた通り最初の二つの魔法の魔力を増やせばでき上がる魔石は小さくなり、三つ目の魔法の魔力を増やせば魔石は大きく作ることが出来た。


「ん……今は、これが限界」

「魔力大丈夫?」

「んーん。ギリギリ。もうだめそう」


 直径一センチを超える大きさの無属性の魔石が生成されていた。


「凄いね……」

「うん。ちゃんとした魔石なの」

「小型魔獣の物くらいの大きさはあるわね。それでいて高品質の無属性魔石。これなら十分実用にできるわよ」



 その後リアーネは、魔力に余裕のある時に限り寝る前に魔石を作成するのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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