031 龍の使者と祭の鐘
街中では大勢の人達がランタンを吊るしている最中だった。
春、夏、雨季、秋、冬と季節毎にも祭りは行われているが、秋の節目の祭りは収穫祭の他に迷宮氾濫による慰霊祭を兼ねており、街中を灯りで満たして迷宮氾濫から逃れてきた者達の心を癒し、亡くなった者達を弔うための物であった。
これがランタンが祭具であることの由来であり、沢山のランタンを吊るす理由でもあった。
寮の周辺にも吊るすために寮生達がお手伝い。倉庫に仕舞われていたランタンを明かりがつくことを確かめ、磨いて綺麗にする。吊るすのは上級生にお任せだ。
「ランタンいっぱい」
「ん? 壊れてるのあった」
「屋台は大丈夫そう?」
「埃かぶってるけど、たぶん大丈夫!」
「たぶんって何よ。で、寮長はどこ行ったの?」
「クッキーの材料、注文しに行ったよー」
他の寮生も準備と言う名の掃除をしている。
双子は一通りランタンを確認し、ラウリーは磨いて、リアーネは修理を始めた。
「あら、器用なものね。こっちの傷も直せたりする?」
「ん? 大丈夫」
様子を見ていた上級生にリアーネは声を掛けられ、二つだけあった壊れたランタンの修理をすぐに終わらせ、ついでとばかりに火屋の部分に子猫を描いていたところだった。すぐに終わらせ屋台の状態を確認する。『金属抽出』の応用で構造材から錆を取り『金属変形』で表面を整形『成分添加』で保護すれば、『木材変形』で化粧板の傷を手早く修復し塗装面も綺麗にしていった。
「あら、ずいぶん綺麗になったわね。ありがとう」
◇
取り巻く空気が近頃は冷えてきたと実感できるような朝、三体の龍が空高くを泳いでいるのが見られた。龍の山脈には数か所に分かれて龍が生活をしており、祭りの時期は聖樹とされる生命樹の元に集まってくるのだった。普段は街の周辺を見回るような経路を通るが、この時期に限って街の上空を行くので祭の始まりを知らせるものとなっていた。
神殿の入り口に祭具のランタンが設置された。
十の主神が祀られている、神を象徴する紋章が属性にならい十色で表されている。ここまでは各神殿で同じであるが、建築様式などは地域によってさまざまであり、ここテルトーネの街においては石材が豊富に取れるため石造りの大きな神殿である。
設置作業を見ているマリーレインに五人は付いて来ていた。
神殿前には祭りの間、歌舞の奉納をするための大きな演台が設えられている。
他にも何やら催し物があるとかで、双子は楽しみになってくる。
「ラーリも踊るー」
「ん、リーネも一緒」
「飛び入りってできたんだっけ?」
「えー? どうだったっけ?」
「みんな周りで一緒に踊ってるのー」
「そうね、毎回そんな感じかしら。舞台に上がらなきゃ大丈夫よ」
「上は駄目なんだー」
「んー、そこまではいい」
「神殿の手伝いをしている子達が普段から練習してるからね。みんなもやってみる?」
「うーん、やっぱりいいやー」
「ん。いらない」
「わはは。ボクも無理」
「うち、太鼓なら叩いてみたいかも……」
「合わせて踊るなんて無理なのー」
そんな話をしていると、ざわざわとした声が耳に届く。周囲を見ると上を見上げているようだった。何だろうと見上げようとしたとき、陽を遮って影が落ちた。
「おぉーーっ! おっきー」
「ん? 龍神様の使いだ」
「わー……」
「近い……凄い……」
「えぇーーっ?」
全長二十メートルを超える青い龍が静かに降りてくる。
神殿前にいた神官の司祭様を呼ぶ声が響き、しばらくしてからやってくる。
「遥々よくお越しくださいました使者殿」
「これは土産だ、受け取るがいい」
立派な髭を蓄えた犬人族の老司祭が龍神様の使者を歓迎すると、ビリビリ響くような大きな声で返答があった。この後は収穫物の一部が龍神様に収められるため、降りてきていない二体の龍も含めて、蔵へ向かうという。
ここ最近の魔物の動向、攻略された迷宮のこと等も話されたが、各地の被害は例年よりも抑えられているという。一安心ではあるが気を緩めぬようにとの言葉が掛けられる。
「おっきかったー」
「ん。初めて見た」
「あんな近くで見るのはボクも初めて」
「だねー」
「凄かったのー」
神殿での用事も終わって帰り道。先程の龍の大きさに圧倒された五人だった。
「村の爺様辺りなら龍に乗せてもらったことのあるような人もいるわよ?」
「「「ほんと!?」」」
「大陸の地図を作る時、龍や竜に乗って上空から写真を撮った……って、知ってるわよね?」
「んんーー?」
「ん。そういえばそうだった」
「そうだっけ?」
「たぶん、そうじゃない? リーネも言ってるし」
「歴史の勉強で言ってたの! これくらい覚えておくの」
そんな話をしていると、ゴーーン、ゴーーン、と、祭りの始まりを知らせる神殿の鐘が鳴り響く。
振り返ると龍が三体、遠くの空を泳いでいた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




