030 英雄の噂と試作品
「おい、お前聞いたか?」
「あれか? 聞いた聞いた! 今度の祭りにも来るってな!」
「お、それは初耳だ。盛大に祝わねえとな!」
今朝になってから街中がザワザワと騒がしい。
断片的に耳に届く話から、お祭り楽しみだねーと双子は学院へと向かう。
「……俺も絶対なってやるんだ!」
「ケイニー一人じゃ心配だね。仕方ないから、僕もついて行くよ!」
教室に着くと男子達が何やら話しているのが聞こえてくる。対して女子はいつもと変わらないようで姦しくお喋りをしている。
「「「ラーリおはよう!」」」
「ルーナ、レーア、ロットもおはよう!」
「はい、みんなおはよう。席についてねー」
「「「先生ーおはよう!」」」
「もう知ってる子も居るみたいだけど、昨日来た商隊の話をしましょうか」
「先生ー、あの話ほんとなのー?」
「ええそうよ。正式に組合に報告されたことよ」
「先生もったいぶってるー」
「何の話ー?」
「早く教えてー!」
「なんと! スヤドゥサマン迷宮が攻略されたのよ!」
「「「本当!?」」」
「攻略した探索者の一人がここの出身でね、今度の龍神祭に凱旋するって知らせがあったのよ」
「「「やったー!」」」
スヤドゥサマン迷宮とはテルトーネのある龍の山脈の南、大陸最大の湖を望む街ブハラトムーレのさらに南に位置する地中海沿岸にある街スヤドゥサマンにある迷宮のことだ。
火竜山の南の麓と海に挟まれた街アンメーア迷宮が攻略されてから実に八年ぶりのことである。
大陸西部は迷いの森の森人達の活躍もあり既に攻略済みであり、今回攻略された迷宮は中央部の要衝と言える場所である。今後の迷宮攻略にも大いに助けになるだろう。
迷宮攻略者は正に英雄と言うべき者達であり、そんな彼らが凱旋すると言われれば子供達であっても嬉しくなるものであった。
「凱旋パレードも予定されてるけど、正式な日程が決まれば教えてあげるわね」
「「「はーい!」」」
◇
「まぜまぜ混ぜてー」
「ん。ぽろぽろ」
「まーた緑色だー」
「こっちも負けるか」
「まぜるのー」
粉末茶葉に小麦粉、蒼空豆の餡子、乳酪をさっくり混ぜて伸ばしていく。一センチ程の厚さになったらクッキー型で抜いていく。石窯で焼けば完成だ。
「セレーネ姉、なんで緑にしたのー?」
「うん? 綺麗かと思ってねー」
「綺麗だよね?」
「ん。綺麗」
「いや、森人の菓子ってだいたいそんな感じだから、代わり映えしなくってさー」
「へー、そうなんだー」
「そうだった気がするの?」
「知ってるよー」
「なっ! わざとかっ!」
緑色の菓子にウンザリしているルシアナに綺麗だからとわざとそうするセレーネだった。
龍神祭になれば盾の乙女寮の高等部生も菓子の屋台を出すので、学院が終わってから寮の調理室に集まって色々と試作しているところである。双子達は試食係兼手伝いでこの場に来ているのであった。
前日に焼き上げ、当日は売るだけの物にしようとクッキーを作ることになり、試作制作班と当日の販売班に分かれ、交代要員も必要な販売班の人数の方が多く割り当てられている。
「餡子のお饅頭が良かった……」
「ん。試作は大事。色々気付かせてくれる」
蒸籠で蒸すだけなら、良いんじゃないかと準備をしてはみたが、屋台に蒸し物用のコンロを用意できないと気が付き没になったのだ。せっかく作った餡の再利用としてクッキーに混ぜてみた。
「美味しいよ!」
「ん。美味い」
「美味いけど、納得いかねーっ!」
「んぐんぐ、ルーナ要らないならもらうよー」
「美味しいのー」
「これでいっかー、みんなどう思う?」
「んーー、美味しいね。いいんじゃない?」
セレーネの声に他の試作班も同意の声を上げる。考えるのが面倒になったと思われる。
他の班の作りかけの菓子も適当に仕上げて、この日はお茶会ついでに調理手順や用意する材料の相談をする。
話のついでと迷宮攻略者の凱旋の話や他の屋台の話、武闘大会の話なんかもして楽しんだ。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




