002 魔法適性と属性石
「みんな自分の魔法の適性は把握したな?」
「「「はーい」」」
魔術教師グレックの声に皆返事をする。
魔法の適性を知っていれば、得意属性を中心に訓練した方が早く簡単に魔法を習得できるため、適正を調べる魔導具を学院でも所持しているのである。
魔法の初めの授業では入学前に検査をしている者も含め、全員が検査を受け教育方針を決めるために教師によって記録されることになる。
「なら、どんな属性があった?」
属性については日常の様々な物にも使われており、教師の質問に子供達は答えていく。
「ひ!」「かぜー!」「ゴロゴロ!」「みず!」「くすり?」「つちー!」「ほのおだっ!」「ひかり」「よる」「いしー!」「くさ!」「こおり?」
火、水、風、土、光、闇、樹、癒し、雷、そして無属性。
これら十の属性に分けられている。
人の髪や瞳の色は適性に左右されると言われているが、実際には三種以上の適性持ちが多いために、その傾向があると目安にされるにとどまっている。
対して、魔物から取れたり採掘されることもある魔石には、火は赤、水は青、風は緑、土は橙というように属性が色味に現れる。また、魔法発動の補助具である杖、現在においては腕輪型が主流となっているが、それらには属性ごとの魔石が埋め込まれており、皆の腕には十色の魔石のはまった腕輪が着けられていた。
この世界、一年のうちに月が十度、満月を迎えることから『十』は特別な数字としてとらえられ、主神の数、属性の数、時の刻みなどに影響を与えている。
ちなみに年始は春であり入学の時期とも一致して、多くの地域で共通している。
「普段使うような物事にも属性の名は使われているが、知ってるか?」
「ん。光の月、赤の週、火の日」
「今日は一月八日だが、全部言い換えると分かり辛いぞ。えーと、リアーネか。では雷の日は?」
席順表を見てリアーネに返された質問の、赤の週や火の日というのはよく使われる表現のために耳にする機会があったが、雷の日なんてあったかと教室内にざわめきが起こる。
「ん。闇の月、橙の週の最終日で十月三十八日。六年に一度やってくる」
得意げと言うよりも、これぐらい知っていて当然と言った風に答えるリアーネ。
「このように暦も属性で言い換えることができる。それで今日の主題はこれだ!」
と、教卓の陰から取り出したのは二十個の魔石が入れられた箱。無色透明で輝いて見える。
「うでわのより大きい!」「まん丸!」
「この魔石には基礎魔法と補助する魔法陣が組み込まれている。頑張って魔法を習得しよう!」
「「「はーい!」」」
「魔法を使いっぱなしだと、体の中の魔力を使い切って倒れることになるから、うまく出来なくても無理して使い続けるんじゃないぞ! じゃあ、まずは『送風』の魔法から始めよう!」
不純物を含まない魔石が無属性となり、他の属性魔石よりも若干ではあるが効率の良い魔法発動の補助具となるため、訓練用にも適していると言える。
魔法の適性とは習得しやすい属性のことを指し、適性の無い属性魔法も習得できないわけではない。そのため各属性の習得難度も危険度も低い魔法を基礎魔法としてまとめられ、幼い頃から習得させるよう授業に組み込まれている。
世界には魔力が満ちており、それを一旦体の中に取り込んで、自分の使いやすい性質に変質させる必要があった。そのため魔法を使って減ってしまっても、しばらく休憩していれば体内の魔力も元に戻っていくのだった。
威力の低い魔法ばかりだが、何を起こすか判らない幼児が相手であるから、訓練は屋外で行われている。
「じゆうなかぜ、あらわれよ。やさしくわたる、かぜよふけ。『そうふう』!」
子供達が腕輪の辺りに魔力を集め呪文を詠唱し始めると、魔石からうっすらとした光が漏れだすように輝き始める。
この光は魔石が無くても起こる現象であるが、魔力操作に長けた者なら完全に発光させずに魔法を使うことができる。このことから、無駄な魔力が光となって消費されていると言われている。この光は魔法によって別々の決まった図形が現れるため、ここから魔法陣が考案されている。そのため魔法陣に詳しい者が近くでじっくり観察できれば、何の魔法を使おうとしているか知ることもできる。
「ロレットすごいね!」
「ん。ロレットは火が苦手?」
「うん、そうなの。リアーネは全部上手でびっくりなの!」
金の瞳で赤金の髪色をした狐耳でふかふかの尻尾をした幼女に、双子は声をかける。
狐人族のロレットは凄い凄いとリアーネを誉め、ラウリーの尻尾は嬉しくなって揺れ動く。
「リーネは魔法すごいんだよ!」
「ん。得意」
「おお! すごいね! もしかして全部?」
「リーネはぜんぶ」
「レアーナも得意?」
「うん! 六属性あるからね!」
「いっしょだね!」
「ん。ラーリと一緒」
「勝った。七属性。でもリアーネとロレットには負けるかー」
髭小人のレアーナも加わり話している所に声をかけたのは、蒼い瞳で薄く緑がかった金の髪を短いながらもポニーテールに結っており、シャツにジャケット、ショートパンツという活動的な格好をした森人の幼女だ。
この五人は教室の卓が一緒になって、お話をしているうちに仲良くなった。
「えっと、るーるー? だったっけ?」
「んー、るな?」
「ルシアナなの」
「そそ、ボクはルシアナ。ルーナでいいよ。よろしくね!」
ロレットとルシアナは知り合いであるらしく、双子に教えるように訂正した。
◇
「ねぇ、ねぇ。気になってたんだけど、その鞄、どこのお店の物なの?」
午後の授業も終え、リアーネが教科書の未読部分を読み始めたため、ラウリーとレアーナが話しているとロレットが話しかけてきた。
「ディカリウス工房で買ってもらった。一目ぼれしたのー」
「リーネが考えた!」
「ディカ……え、リーネちゃん考えたの!?」
リアーネが考えた鞄と聞いて、ラウリーと同じくリーネと呼んでしまい少しばかり照れ臭くなりながらも、ロレットの尻尾は驚きに膨らんだ。
「そうだよ! 後は、猫、犬、雀、羊、お魚の鞄も作って村の友達にあげたんだ! 熊とお魚すっごく迷ったんだよー!」
リアーネは頷くだけで返事もせず、抱えた教科書に目を通していたが、ぽそりと一言。
「ほしい?」
「私も欲しいの!」
元気のいい返事に隠れるように、ルシアナとレアーナは「お魚?」と首をひねっていた。
学院の休みの日に工房へ行ってみようと約束して五人で帰途につく。その途上の会話はもちろん鞄のことが中心となる。熊と兎は現物があるが、他は絵にして持って行くから心配するなと言い聞かせる。どんな動物の鞄が良いかと意見を求めるリアーネは、新作も考えるつもりのようである。
双子は寮へ、後の三人は自宅があるからと「また明日」と手を振り別れて行く。
◇
「ね、お魚は描かないの?」
「んー……いる、の?」
「もちろん!」
そんな会話もしながら熊、兎、猫、犬、雀、羊、お魚に追加して新規に鼠、狐、狼、猪、虎、獅子、牛、梟のイメージ図と制作用の図面が休日までに完成する。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。