028 苦い薬草と魔法薬
「ねぇ、魔法薬ってどんな味するの?」
ラウリーの疑問にやって来たのはマリーレイン錬金術工房。
飲めばたちまち傷を癒してくれる狩人や探索者の強い味方である魔法薬ではあるが、まだ幼いラウリー達は口にしたことは無い。
そもそも、どうしてそんなことを疑問に思ったのかというと……。
◇
「治癒魔法の基礎である『止血』の訓練だが、昔は指先を切って治癒術士に癒してもらった感覚を覚え、早く習得しなければどんどん出血するというようなことをやっていた………なんて言われるが、さすがにそこまでの無茶はほとんど行われていない。虫や蛙などの小動物を捕獲し、傷をつけたうえで治癒魔法の訓練をした。今では、虫を捕まえに行く手間さえ省いて、これを訓練台としている」
そう言って机に置かれたのは、肉厚な葉をもつ植物が植えられた四つの鉢植だった。卓に一つの割合で、班毎に傷をつけては治癒魔法を掛けていく。
本日の実技訓練が『止血』だけなので教室内で行っていた。
「むずいー」
「プナプラピの加護の下、癒しの力を授けたまえ。傷よふさがれぇーー! 『止血』うぅーーっ、わーーっ、傷が開いて行く!?」
プナプラピとは薬神や癒神と呼ばれる、恋愛や和合、癒しを象徴する女神の名前である。
「すぐにはできないってー」
「ふふん! 任せてなの!」
難しいと言いながらもしっかりできてるラウリーに対して、ルシアナは盛大に魔法を失敗していた。ロレットはマリーレインに教えられてできるようになっており、レアーナの方が一般的なものだった。
「先生ー、魔法が使えない時はどうするのー?」
「なんだ、もう諦めるのか? そうだな、魔法以外での治療と言えば?」
「「「おくすり!」」」
「魔法薬がお薦めなの!」
「ま、そうだな。傷薬なんかもあるがロレットの言う通り魔法薬が効果的だろう。ただ欠点がある」
「たかいの?」
「それなりにな。だがもう一つあって、これが致命的だ!」
「「「ごくり」」」
「………とてつもなく苦いんだよっ!」
「「「苦いの!」」」
「えっと………製作者と素材と作り方によります……の」
「なんだ? ロレットは詳しいのか?」
「はい! 私、錬金術師の弟子なの!」
ロレットの拳は握りしめられ、いつもののんびりした雰囲気ではなく自信を持って宣言した。
◇
「そうねー、薬の必要な成分だけを取り出してぎゅっと凝縮する。私の作る魔法薬はそれが基本だし、魔力を込める時に味の調整なんかもしてるから、苦くは無いわよ。と言っても独特の風味はあるんだけどねー」
「ロットは飲んだことある?」
「もちろんあるの。何とも表現しづらい味だったのー」
「なんと言うか、甘……苦い?」
「どっち? 苦いの? ルーナ?」
「甘くて苦いんだー」
「「あははー………」」
何とも言えずロレットとルシアナはただ乾いた笑いを上げるだけだった。
「じゃあ、甘い魔法薬って無いんだー? 蜂蜜入れてもダメー?」
「ん。できない?」
「もちろん、できるわよ」
「「「できるの!」」」
マリーレインの返答に五人は驚く。そうして甘い魔法薬作りが始まった。
「じゃーん! 材料はこれだけ使うわよ」
「「「???」」」
並べられたのは、薫衣草に斑蘭の葉、黄麦粉、岩塩、砂糖、豆乳、葡萄油だった。
「お菓子作るの?」
「ん? 魔法薬は?」
「やったー、お菓子ー!」
「もしかして甘い!?」
「姉さま、これ知らないの!」
「そうね、お菓子でもあるわよ。液体に比べると食べるのに時間が掛かるから、魔法薬としてはあまり知られて無いのよ。たいして保存も利かないしねー」
「じゃあさっそく!」
「ん! 作ろう」
「「「おー!」」」
「姉さま、まずは何から始めるの?」
「材料の下処理ね。薫衣草も斑蘭も岩塩も、粉末にしてちょうだい。粉ひき道具はこれね、ここの魔石に魔力を流しながら取っ手を回せば、乾燥も必要な魔力を込めるのもやってくれるわ」
「「「はーい」」」
ラウリーは黄麦粉を測り篩にかける。
リアーネは薫衣草、斑蘭の葉、岩塩、砂糖と魔力を込めて石臼で引いていく。
ルシアナはリアーネを補助して素材を準備し入れていく。
レアーナは豆乳と岩塩と砂糖を混ぜ合わせる。
ロレットは薫衣草と斑蘭の葉の粉を黄麦粉を混ぜ合わせ、もう一度篩にかける。
「準備できたー」
「次は、粉の真ん中をくぼませて液類を入れよう」
「んー、これくい?」
「よっし! 葡萄油と豆乳、入れるよー」
「ルーナ、いっぺんに入れないでよ?」
「そーっとなの!」
「いいみたいね。では、ザックリと混ぜましょう」
捏ねないように気を付けながら、ヘラを使って混ぜていく。
「もういいかな? じゃあ、しばらく寝かせておきましょう。その間に道具を片づけて、石窯の準備ね」
「「「はーい」」」
「次はこの魔導具で生地に魔力を流すよ。誰がやる?」
十分寝かせた生地にラウリーが魔力を流しながら一センチ程に薄く延ばしていく。それが終わればクッキー型で抜いていく。そうしたら油を薄く引いた鉄皿に並べて石窯に。両面焼いたら魔法薬クッキーの完成だ。
「「「できたー!」」」
「みんなお疲れさま。お茶の準備も終わったわよ」
そうして、お茶会が始まった。
「ちょっと刺激的な味がする!」
「ん。美味し」
「これって薬草クッキー?」
「やっぱり凄い緑色だなー」
「食べたことあるような気がするの」
「そうね、薬草クッキーと同じよ」
「「「そうなの?」」」
「違いは、下準備中に治癒属性の魔力を込めること。使った魔導具は魔力を治癒属性にしてくれるものだったのよ。あと、できてから五日程しか魔法薬としての効力もないの。だから効果の無くなった魔法薬クッキーを薬草クッキーと言うのよ」
「「「そうだったの!」」」
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




