026 甘い果実と羽妖精
「到着ー!」
「ん。採取する」
「森ならボクに任せてよ!」
「果物あるかな?」
「班行動は忘れないの」
「はーい! みんな、はぐれないでよー?」
「わかった、セレー姉ー」
「ん。心配無用」
雨季も過ぎ、様々な果実や茸が収穫できる季節がやって来た。
森に慣れること、採取できる物を知ること。果物などそのまま食べられるものもあり娯楽の面も併せ持って学院主催で森歩きは行われる。ただ、教師だけでは面倒が見切れないので高等部の生徒に引率を頼んでいる。リアーネも既に高等部ではあるが年齢が年齢であるために、初等部の生徒と同等の扱いであるのは仕方がないであろう。本人も同じ班で行動できることを喜んでいるので問題は無い。
「どっち行く?」
「ん。地図」
「えっと? 今ここだから……」
「任せたー」
「レーアも考えるの」
テルトーネの街の南西にある近くの森は、以前にもマリーレインと訪れたことのある所だ。森の奥へと進めば斜面がせり上がり急峻な山となる。北にも森はあるが灌木が多く高い山々の連なりが見える。東は耕作地や牧草地が広がっている。西は耕作地が広がり森までは遠かった。
「目指すは蒼苺!」
「んー……十七刻の方角」
「よし、方位計合わせた」
「よっし、出発!」
「え? 決まりなの?」
「あはは、他の素材も探そうねー」
「「「はーい!」」」
地図に記された収穫ポイントの中から向かう先を選んで歩き始めた。
彼女達の使っている方位計は時計の文字盤を模した物である。昼十刻、夜十刻の二十刻が刻まれており、〇刻を左端に右回りで時を刻み正午が五刻で頂点に来る、十刻が右端に深夜の十五刻は真下になる。盤面の上半分が昼の領域で下半分が夜の領域になるのは時計と同様であった方が馴染みが良いからである。頂点の五刻が北であるから南を向いている彼女達から十七刻の位置は、右斜め前方と言ったところである。
ちなみに一刻は百分に分けられているが、呼び分けるとしても十分単位がせいぜいである。
道中様々な薬草や茸を採取し一刻程した頃、ようやくお目当ての蒼苺の低木が見えた。
「あれかな?」
「ん。多分」
「あってるよ! 早く行こう!」
「やっと着いた!」
「わぁ。一杯生ってるのー!」
「みんなー慌てず沢山採取しようねー」
「ここより先は通行止めよ」
六人以外の声が聞こえ足を止めて周囲を見回してみると、沢山の実を付けた蒼苺の木の枝に羽妖精のユニータがいた。
「「「悪戯の師匠!」」」
「何よそれ? まぁ良いわ。それよりもそこに柵が見えるでしょう? あなた達が行って良いのはその柵までよ。それさえ守れば獣に襲われることも、そうそう無いでしょう」
「ここまで?」
「ん。遠かった」
「いつの間にか管理地の端っこまで来てたんだ!」
「けっこう歩いたもんなー」
「柵が見えるようなとこまで来るの久しぶりなのー」
森の浅い領域は気軽に入れるようにと簡易ではあるが柵が張り巡らされ、その外側には罠が多数仕掛けられており、危険な獣が容易に入ってこないようになっていた。この罠を確認するためにも、狩人によって巡回が行われていた。
「じゃあ、食べつくすわよ♪」
「全部取られる!」
「ん! 急ぐ」
「ボクも食べる!」
「負けない!」
「わ、私も食べるの!」
「小さい子達と張り合わないでくださいよ、ユニータ先生!」
「んぐんぐ。なに、甘い果実があるなら食べるのが礼儀だろう?」
「どんな礼儀ですか!? って、そうか、羽妖精ってそうだった………」
「理解があって嬉しいわ」
引率と言えなくもないが森歩きに参加していたユニータは、あちこちふらふらと生徒を気に掛けながらも果実を見つけたら食べているのだとか。小さな体でどこに入るのか不思議になるほどに食べるので、一緒になれば食べつくされる前にと採取競争のようになる。
「「「あまーい!」」」
「ほらみんな、食べてばっかりいないで採取もしようねー」
「「「はーい!」」」
四から五個に一個の割合で食べている子供達。収穫量には期待すべきではないかとセレーネはため息を吐き、率先して採取していく。
「一杯取ってジャムにしたかったんだけどなぁ……この分じゃ無理そうねー」
「「「ジャム!」」」
ユニータと子供達の声が重なった。
「あれ? 先生もジャム欲しかったりするんですか?」
「もちろん! そのまま食べても美味しいがジャムにはまた別の魅力があるのよ!」
「作れるの?」
「ん! 作ろう」
「なら一杯採らないと!」
「食べてる場合じゃないな」
「良かったの、まだまだあるの」
そして、ジャムを作ったらスコーンを焼いて一緒にお茶をしようなどと話しながら採取に励むのだった。その後、栗、李、蔓苔桃なども採取した。
◇
「洗ったー」
「ん。お砂糖準備できた」
「檸檬絞ったよー」
「鍋この大きさで大丈夫?」
「瓶の煮沸消毒も終わったの」
「こっちの鍋は蒼苺入れて。で、こっちが蔓苔桃ね。じゃあ、煮詰めていきましょう」
午前中掛けて採取していたので、既にお昼過ぎである。放課後にはまだ早い時間だが中途半端に授業もできず、学院の厨房を借りてジャム作りが始まった。セレーネが弱火で焦げ付かないように見ている間に、ついてきていたユニータの監修でスコーン作りも進められる。
「豆粉!」
「ん、大麦粉と燕麦粉」
「粉砂糖と粉末酵母も量った!」
「乳酪量るのめんどくさーい」
「山羊乳も用意できたの」
「量った粉は二回は篩にかけて混ぜること」
「「「はーい!」」」
ひっくり返して粉だらけにするようなことも無く、大きなボールに混ざりながら粉が振り積もっていく。リアーネとロレットが零したりしない様に気を付けているのは、ユニータの目から見れば判ることだった。甘い匂いに気を取られながらも粉を混ぜ終わったら、冷えた乳酪もザクザクと粗めに混ぜていく。山羊乳を入れてしっとり纏めれば一度寝かせて生地を落ち着かせる。
「ジャムまだー?」
「んー、まだっぽい」
「匂いが……」
「お腹減って来た」
「石窯の余熱はまだしなくて大丈夫なの?」
「生地を寝かせるのにそれなりに時間が掛かるからねー。李でも食べて待とうか」
「「「おおー!」」」
「え! ちょっと! 私、手が離せないんだけど?」
そうして、二種類のジャムもスコーンも完成し、放課後のお茶会を楽しんだ。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




