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ねこだん!  作者: 藤樹
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022 礼の精神と正義観

「「「おはよーございます」」」

「はい、おはようございます」


 礼儀作法の授業が始まった。初等部では軽く触りだけだが、こんなものもあると知ってもらうための時間だった。授業を担当するのは普段は高等部で教えているという森人族の教師で、長い青みがかった緑の髪を綺麗に編み上げゆったりとした神官服を着た女性だ。


「みなさん、礼儀や作法についてはどれくらいのことを知っているでしょうか?」

「挨拶するー」「お礼はちゃんと言う!」「バカにしない」「親切にする?」

「そうですね。みなさん大変良く解かってらっしゃいますね。挨拶と礼は最も基本となるものです」


 お願いとお礼、言葉遣いに身だしなみ。そういったものに礼節は現れ、その人物のあり方となる。他者に対してばかりではなく、自分に対しても、また、動物や植物、食べ物や道具などに対しても同様だと話していく。


「ご家族や、友人には挨拶やお礼の言葉を掛けていますか?」


 そんな風に一旦言葉を途切れさせ、子供たちを見回した。


「あーー、してる?」「大丈夫!」「お礼言ってるー」「っ……今度から忘れない」


 各卓毎にできているかを聞く時間が設けられ、教室内は賑やかになる。


「ルーナはしてる?」

「挨拶ぐらいしてるってー」

「ルーナは半分くらいなの」

「えっ? そうだっけ?」

「ははは。ロットが言うんだから間違いないよ」

「あーーそっかー。気を付ける。レーアもな」

「一緒にするなよ」



 挨拶がどんなものなのか、子供たちにとって今一度考えるような時間となった。



 ◇



「いくぞー!」

「受けて立つ!」

「こらこら。お前ら、ちゃんと挨拶してからだ」

「「忘れてた」」


 戦技訓練の時間では相も変わらずケイニーがラウリーに突っかかっていた。挨拶を忘れて地稽古を始めようとした二人に対し、戦いにおいても礼儀はあるのだと説いていく。


「一人で地稽古はできないんだ、相手をしてくれる者に対して礼を尽くさねばならん。その始めが挨拶だ」

「「はい! お願いします!」」

「いくよ! ケイニー!」

「今日こそ正義の鉄槌を下してやる!」

「はい! 中止!」

「「今度は何?」」


 ケイニーの言った『正義』に対して注意が飛んで、他の子供達にも聞くように言う。



 昔々のことである。


 南方では『正義』を掲げて毎年のように戦争を仕掛けていた国があった。仕掛けられた側も守るためにも対処しなければならなくて、同じく『正義』を掲げてぶつかり合っていた。最終的には南の果ての国は迷宮核を作り出して世界を混乱に落とし込み、自身の国をも崩壊させてしまったのだ。


 こんなものに『正義』など在ろうはずも無く、どのような理由を付けたところで戦争は『悪』であると、多くの歴史家が結論を出していた。

 では、正義とは何であるのか。

 未だ明確な答えは出ていないが、現在においては「自信を律する指針である」と考えられていた。



「他の者に押し付けた時点で『正義』は『悪』になるんだ。解かったか!」

「「は……い?」」


 滾々と説明を始めたグレック戦技教官に対して、理解の追い付かない二人にとって、いつまで続くのだろうと退屈が顔に出ていたのだった。


「はぁ、不満そうだな、お前ら。地稽古は中止。運動場を五周走ってこい!」

「「……っ! はーーい」」


 ぶちぶちと文句を言い合いながらも体を動かせること自体は歓迎している二人であった。どちらが早く走り終えるかの競争になるのも彼女達のいつものありようであり、それを見ている者達は、またやってるよと呆れているのだった。


 走り終わった頃には遊びで体力を付ける時間になっていた。



「どうした? そんな真っすぐ攻撃を受けたら、腕が折れるか痺れるぞ! 引いて流して威力を直接受けないようにしろっ!」

「「はい!」」


 ラウリーは二本の模造短剣を持ち、ケイニーは模造剣を持ってようやく地稽古の訓練だ。

 教官の声に返事を返しつつも、二人の攻防は続けられる。


「武器だって盾だって真正面から受けていたら、すぐに使い物にならなくなる」

「「はい!」」

「避ける時はギリギリじゃなくて良いんだ。反撃に転じられるだけの間合いを意識しておけば、大きく避けても問題ない」

「「はい!」」

「時には味方の魔法なんかを通すために大きく距離を取ることも必要なんだ」

「「はい!」」


 砂時計で三分経てば、そこでいったん休憩に入る。一分休めばまた三分の地稽古訓練が続くのだ。休憩中は水分の補給に汗を拭き、少しでも体調を整えることを考える。


「「「ありがとうございましたっ!」」」


 都合五回の地稽古を終え、くずおれる様に体をほぐしていく。


「魔獣はともかく魔物との戦闘になれば、相手が状況を見て引くことは無い。こちらが引いても執拗に追いかけてくるからだ。そんな時のためにも長時間の継戦能力と言うのは重要になる」


 何人かは倒れたまま動かないため、注意を飛ばしながらも解説が続けられる。

 しっかりと体を作って大きな声で挨拶をすれば、どんな職に就こうとも、どんな問題でも解決できると、脳筋な言葉が続いていく。それをそのまま受けるケイニーのような一部の者以外は、また言ってるよと聞き流していた。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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