020 上級魔法と魔法鞄
「ルーナ!」
「ロット!」
「「来たよー!」」
錬金術工房に来た双子は、お土産を渡していく。
「久しぶり! これありがとう」
「ありがとう。こっちもお土産なのー」
そうして出てきたのは森人族の村の名菓、薬草クッキー。
「「………」」
苦そうな印象を受ける鮮やかな緑色のクッキーは、何とも言い難い印象を与える。干し果物が加えられ微妙さ加減が増して思える。
「まぁ、そうだよなー……。大丈夫だって。美味しい……よ?」
「なのー……」
大丈夫と言われても、余計に不安の増す双子の耳は萎れてしまっている。
「なぁ、課題終わってる?」
「おわったー!」
「んー、最後の追い込み?」
「え? リーネは終わってると思ってたの」
「ふふー」
「ん! 昇級課題」
話を変えようとしただけではあったが、切実なのかルシアナは教えてほしそうにしていて、ロレットは昇級課題の声に納得する。
ルシアナはラウリーに課題を見てもらうことになり、リアーネはマリーレインに教えを乞うためにできたばかりの魔法陣を箱から取り出した。
「うわーー、凄いわね。ここまで細かいの始めて見るわ……図面はある?」
「ん。どうぞ」
「わーーーー………」
マリーレインは、しばし図面を見分し魔法陣の確認を行う。
ロレットはその複雑な構造物にただただ感嘆の声が漏れだすばかりだ。
「最近はここまで詰め込んだ魔法陣って見ないわね……ロレット判る?」
呆けた顔で、判らないと横に首を振るロレットに対して講義が始まる。
『空間圧縮』『時間遅延』『重量軽減』『時計』『魔力集積』『内容物保持(浮揚、位置確認)』『整頓(空間測定、念動)』『一覧認識(空間測定、幻影、思念転送)』『取り出し補助(念動)』。『内容物保持』以下の四つに関しては、括弧内の既存の魔法を改変し新しい魔法を作ってもいて、およそこれだけの機能を詰め込まれていた。
ロレットは頭から煙を吹くんじゃないかという状態で聞いている。
「上級の風魔法に光魔法、それから無属性魔法。機能を分割して組み合わせるのが主流だから、複数の魔法を一つの魔法陣に詰め込まれているのなんて、なかなか見ないわよ。特に魔力の取り込み用の魔法陣を焼き付けた魔石は安価で売ってるしねー」
「へーーーー………」
「ん。がんばった!」
「こんなに上級魔法が使えるなんて、ちょっと頑張り過ぎよ。いつ練習してるの?」
「んー……暇な時?」
「無理しちゃだめよー。保有魔力が増える訳じゃないんだから」
「増えないですの?」
ボーっとしていたロレットも、理解のできる話題に反応を示した。
「ん。熟練すれば消費量が減る」
「あら! 良く知ってたわね。魔力操作に各属性魔法各級それぞれに習熟すれば、ほとんど消費しなくなるんじゃないかな?」
リアーネはマリーレインに頭を撫でられ、尻尾を揺らしながら嬉しそうな声を出す。
基礎となる下級、並びに中級の魔法に習熟しないことには上級魔法も上達できないことから、どれほどの修練が必要であるかと途方に暮れ、一足飛びに習得ができないものかと夢想する者は多いだろう。
リアーネは魔法鞄を作るために、必要になる属性魔法を集中的に練習していた。
「気を取り直して、始めましょうか」
「おー」
「あー……はいなの」
棚から取り出した甕の中には真っ黒な液体が入っている。他にも白と黄、緑の液体の入った甕を用意。まずは黒い甕の中に魔法陣を浸して魔力を流し取り出すと、ぽたぽた落ちる雫を払い液体を全て定着させる。同じ手順で白、黄、緑と繰り返し、もう一度黒の液体を定着させる。その頃には真銀の魔法陣は濃緑色に染まっていた。
この液体、色によって各属性を持っている。魔法陣が必要とするだけ定着させなければならず、簡便な方法として属性魔石に無属性の液体によって定着させるのが主流となっている。その逆に無属性魔石に各属性の液体を使うと、少しではあるが効果を高めることができるのだ。
真銀製の転写台の上に魔法陣を乗せて魔石はどれが良いか相談される。
「『不純物除去』と『形状操作』『結晶化』までやってみたい」
「じゃ、この辺の安めのやつにしましょうか。ロレットよく見ておきなさい」
そう言って渡されたのは、屑魔石などと呼ばれることもある小粒で形がいびつ、物によっては割れている物もあった。
気合を入れてリアーネは向かう。
それというのも今から使う魔法は全て上級の土魔法ではあるが、『不純物除去』は土魔法中級の『物質解析』と無属性魔法上級『魔力分析』、『結晶化』は火魔法中級の『加熱』と『冷却』に加え風魔法中級の『加圧』も同時に使えば品質を高めることができるからだ。
魔石は赤や青と別々の属性の物から不純物が取り除かれ、透明度の高い物になる。
そして、魔力の流れや澱みを頼りに欠けやひび割れ不揃いな大きさだった物が合成され、同じ大きさ同じ形状に整えられていった。
「ふぅ……」
「お疲れさま。ロレットのいい目標になるわ」
「えぇ……私にはまだ無理なの………」
お茶と薬草クッキーをお供にちょっと休憩。せっかくだからとラウリー達にも声を掛ける。見た目に反して苦くはないが香辛料の効いた刺激的な味に驚く双子。
「おいひー!」
「ん。美味しい」
「でしょー。つい手が出ちゃう」
気合を入れ直して、作業を再開。
転写台の手前に魔石を置いて無属性魔法中級の『魔法陣転写』を使う。一つでき上がるまで一定の魔力を一分近く維持しなければならず、休憩をはさみつつ残り十五個も転写し終えてようやく作業が終了した。
「魔法陣はどうするの?」
「ん、錬金組合に預けると良いって聞いた」
「じゃあ、付き添うわ。ロレットも行きましょう」
そうして、ディカリウス皮革工房に魔石を届けてから、服飾組合に続いて錬金組合でもリアーネは登録し、図面や使い方の説明と共に魔法陣を預ける。
「利用料を払えば組合に預けられている魔法陣を使うことができます。手数料、預け賃を引いた残りがお嬢さんの取り分となります。魔法陣のご利用の際にもいらしてくださいね」
「いっぱいあるのー?」
「ん。今度見に来る」
◇
数日後。ディカリウス皮革工房から鞄ができたと連絡があり、早速とばかりにおもむいた。
各種魔法を使って魔法陣の刻まれた取り付け具に、魔石を魔法陣と連結する。そうして魔法陣を起動させ、三百リットル程の容量がある小さな腰鞄を二つ完成させた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




