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ねこだん!  作者: 藤樹
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019 錬金粘土と魔法陣

 短い夏も終わり雨季が来た。プレバンティーン聖王国のある北側は随分と多くの雨が降るが、テルトーネのある側はそこまで極端な降り方をせず、天の恵みと考えられている。それでも陽が射す日数が少なくてジメジメとした日が続くのである。


 交通の便も悪くなるからと早めに村を出て、テルトーネの街にある盾の乙女寮の『猫のかぎ尻尾』の部屋に帰って来た翌日、休みが終わる前にと双子は第三学院の図書館にやって来た。


「んーふふ♪」

「ふむふむ……」


 ラウリーはご機嫌な様子で絵本を読み鼻歌が漏れている。

 リアーネは魔法陣や魔導具の本から魔法陣を描き写している。ゆったり動く尻尾からご機嫌だと伝わってくる。

 時おり魔法を待機状態で魔力の流れを観察し、魔法陣と比べているようだ。

 魔法書、魔導具作成指南書と何冊も積み上がった本は、既に目を通し終わったものばかり。


「終わった?」

「んー。お腹減った?」


 お腹を押さえて訴えるリアーネに同意して、さめざめと雨の降る中ポンチョを着てお気に入りの傘をさし、露店街の屋台で肉饅を両手に空腹を癒す。

 お昼を済ませてまた図書館へ行き、午後も変わらずリアーネは本とにらめっこ。



 ◇



「レーア! 元気だった?」

「ん! 来た」

「久しぶりー! 元気元気! 早く入って」


 日が明けて、レアーナの実家でもある黒銀の槌工房にやって来た双子は、雨具を脱いだら再会した友人と抱き着きあい、会えて嬉しいと気持ちを伝える。


「お土産ー」

「ん。食べごろ」

「梨はともかく、なんで味醂干し?」


 それぞれが選んだお土産は、双子の好みが反映していた。

 今日は何するの声に、粘土細工と答えるリアーネ。もしかしてと尋ねれば錬金粘土と返される。


「リーネが何か? 作るって」

「ん! これ作る」

「うっわ、大物だねー。えーー?」


 見せられた紙にびっしりと描かれていたのは、前日図書館で調べていた魔法陣だった。



 錬金粘土とは、魔石に魔法陣を刻むための金型を手軽に作れるようにした物だ。真銀(ミスリル)とも呼ばれる魔力を帯びた魔銀や魔金、魔銅などの粉末を油を含んだ樹脂で粘土状に錬金術で加工した物であり、容易に成形し窯で焼くだけと手軽に複雑な形状の細工を作れる優れた素材である。


 ただし、焼結時に気泡が入り鍛造はもとより鋳造にも強度で劣るという欠点がある。

 その点、魔法陣の金型は乱暴に扱うことが無いので問題とはなりにくい。



「どれくらい使って、費用が掛かる?」

「うーーーん、多分これだけ使うと、小金貨二枚くらいかかると思うけど……父ちゃんに聞いてみる!」


 ラウリーは持って来ていた普通の粘土で遊び始め、レアーナは父を呼びに行く。


「大したもんだな。これだけでも金が取れるぞ」


 しばらくしてやって来たレアーナの父ウォルガネスが図面を見て唸りを上げる。

 そして、指導を受けながらレアーナを補助にリアーネ自ら作成する。


 よく捏ねた錬金粘土を魔法陣の中心から作り始める。時おりリアーネが待機状態の魔法で光と魔力の流れと粘土を重ね、微修正を加えていく。小さな細工であるために何種類もの専用のヘラなどを使い滑らかに整えられていく。立体的に一重二重と重ねられ複雑さに目が眩みそうになる。最後の仕上げと、魔力の流れを見ながら土魔法の『金属変形』で形を整え、粘土の造形は終わりを迎える。


「複合魔法を待機させたまま上級の土魔法まで使えるたぁ、既にいっぱしの魔導具師を名乗れる程の腕前だな! お前も負けてられんぞ!」

「痛いって父ちゃん」


 リアーネの魔法の腕に、ウォルガネスはレアーナの背中をバシバシたたく。



 風魔法で『乾燥』させた後、魔導具製の窯に入れて焼き始める。

 その間にと双子は服飾組合(ギルド)へ口座からお金を受け取りに行く。

 ウォルガネスはレアーナの修練を兼ねてなら材料費だけで構わないと小金貨一枚と銀貨三枚にまで負けてくれていた。魔法陣を焼き付けるのに必要な魔石を合わせても小金貨二枚に収まる値段となる。


「いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「鞄の? 何だっけ? お金ー」

「ん。著作権料もらいに来た」


 さすがに売り上げ数も鈍り始めるだろうとリアーネは考えていたが、どうしたことか売れ続けているのが口座の残金に現れていた。


「すごいねー!」

「んー? なぜ?」


 予想外の金額に首をかしげて不思議そうにするリアーネと、ただただ凄いと喜ぶラウリー。


「他の街に伝わるのも時間が掛かるから、遠くの街からの売り上げが、やっと入ってきてるのよ。この街での売り上げはだいぶ落ち着いてきたみたいだけどね」


 作る物を考えて金貨三枚分を受け取った。


「リーネ、これ美味しそう!」

「ん。いい匂い。確保する」


 昼食用にと串焼きに揚げ物を買い鍛冶工房に戻って来た。


「お昼ー!」

「ん! ご飯だー」


 双子の掲げる美味しそうな匂いを放つ袋を前に、レアーナは空腹であることに気が付いた。


「そういや、お腹減ったね。こっちは徐冷してるところだよ」


 そうしてレアーナに招かれて、一緒に昼食を摂ることになる。スープにパンを振る舞われ多めに買った串焼きなどを皆で食べて、お腹を抱えてしばしの休憩。



 焼き上がった魔法陣の徐冷も済んで窯から取り出し、本来ならブラシで磨いていく作業がある。ただ、内部構造までブラシが届かないため、ここは魔法を使うことにする。金属部分に付着した樹脂汚れなどを基礎魔法の『浄化』で取り除き、歪みが無いかを確認し、あるようなので『金属変形』で修正する。


「できた? かんせー?」

「ん。できた」

「おつかれー。こんな大物初めてだよー。リーネ、ありがとねっ」


 色々教わったのは自分もだから気にすることは無いと、リアーネの表情も軟らかくなる。



 ◇



 午後になり、レアーナと別れてからディカリウス皮革工房へやって来た。


「おっちゃん、久しぶりー!」

「ん。新しい鞄、作ってほしい」

「どれ? 変わった構造しとるのぉ……ふむ。面白いなっ!」


 リアーネの持って来た図面には、厚みのある丸い鞄が描かれていた。丸みに沿ってクルリと回せば上三分の一程の蓋が開くことを想定している。

 中に付ける魔石を嵌め込むための魔法陣の刻まれた真銀(ミスリル)製の固定用の枠も二つ渡しておく。

 これもリアーネとレアーナで作っていたのだ。


「ん。魔石が用意できたら持ってくる」


 任せておけと嬉しそうに請け負ってくれた。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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