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ねこだん!  作者: 藤樹
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189 基礎工事と作業場

 ノィエトゥア周辺では現在、拡張のための基礎工事が始まっていた。


 運輸組合(ギルド)は各工事現場へ物資を送るために、仮設道路と駐車場を兼ねた建築資材の集積場を準備しているのだった。

 新しい街壁は建設が始まったばかりで一割もできていないが、尽きることなく物資の搬入があるために、順調に作業が進められていた。


 同時進行で外周付近から上下水道用の地下通路が掘られているのは、空堀の役割を担うことができるためでもあった。


 地下通路の壁や床を圧縮して強化をしても、掘り起こした土石を使い切るわけでもないので天井用の資材として積み上げられていた。その周辺の上下水道の敷設予定地には浅い溝が縦横に掘られていて、歩くだけでも気が抜けない状態になっている。


 外へ行く狩人(ハンター)達は、まだ掘の無い場所を選ぶか、魔法で飛び越えるか、わざわざ板を架けて橋にしているのだった。

 そんな中では浮揚車(エアーバイク)を使って移動する者達は、羨望の目で見られることになる。


 工房が毎日何台と造っていても、欲しがる人数が多すぎるためである。

 探索組で使っていた分は数台を残して狩人(ハンター)組に回しているが、狩人(ハンター)の人数分あるわけでもないために班に一台割り当てられるだけである。



「うーん。みんな見てくるねー」

「仕方ないでしょー」

「だな。一人一台浮揚車(エアーバイク)使えるのなんて、俺達くらいだよ」

「リーネには感謝しかないよ」


 ラウリーとルシアナ、ルードルフとローラントの四人が浮揚車(エアーバイク)で柵を作るために移動していた。


 ラウリー達の使っている浮揚車(エアーバイク)は、元は様々な形状を試していたときに造った試験機を実用に耐え得る状態にまでリアーネとレアーナの祖父ヴィヒトリが遊び心を込めて仕上げたものであるために、工房から出荷される浮揚車(エアーバイク)と比べると個性的な見た目が更に目を引いているのだった。


 見てくる者達は「偶にはこっちの手伝いをしてくれ」や「俺にも貸してくれ」という者のほかにも「俺の浮揚車(エアーバイク)も格好良く改造してくれ!」という声も聞こえてくるのだ。


 あっという間にラウリー達は通り過ぎていき、見送った作業現場の者達は地下通路を掘る作業へ戻って行く。


 彼らが額の汗を拭く程度でいられるのは夏の盛りを過ぎたからだけでは無く、個人用の冷房魔導具を身に着けているからだった。狩人(ハンター)の外套に近いとはいえ作業服に機能を持たせたために、出力の調整に一番時間が掛かったと失敗談を交えて森人のユスティーナが語っていた。



「お届け物だよー!」


 高速で移動していた浮揚車(エアーバイク)が急制動を掛けて停止して、テルトーネの工房からきたレアーナが責任者の姿を探すのだった。


「おぅ、ご苦労さん。運送の連中はどうしたんだ?」

「あー、今はどこも人手不足らしいから、うちが直接運んだほうが早かったんだよ」


 浮揚車(エアーバイク)の圧縮庫から金属製の部材の入った箱を取り出しながら事情を話すと、どこも大変だなと溜め息を吐く。

 部材と受領書を確認して署名をすれば、レアーナは慌ただしく次の配達先へと向かっていった。



「何かあった?」

「あー、いえ。レーアの浮揚車(エアーバイク)が飛んで行ったのが見えただけなの」


 見覚えのある浮揚車(エアーバイク)が視界に入りロレットが目で追っていると、マリーレインが聞いて来た。


「そういえば姉さま、錬金工房を急いで建てる必要ってあるの?」

「無いわよ。ほかの組合(ギルド)に後れを取るのが嫌なだけじゃないかな」


 マリーレイン以外はロレットを含めて皆、自身の工房を持たない者達であり組合(ギルド)の依頼で普段受けている魔導具作成ではなく工房の建設に出向いているのは、工房開設の機会があると期待してのものである。


「えーっと、ここかしらね。場所あってるかな、ティカ?」

「えぇ、大丈夫。ここと隣の区画が錬金組合(ギルド)の割り当てだよ」


 四方に杭が突き立ち、縄でぐるりと囲われた場所を前にして、錬金組合(ギルド)側の監督として来ているマリーレインが建築組合(ギルド)側の監督である竜人族女性のティカに確認を取る。


「じゃあ、まずは地盤の調査から始めてちょうだい」

「溝の掘ってあるところは上下水道の敷設場所の目印ですから、消さないように気を付けてください」


 水道組合(ギルド)から出向いている鼠人族のルハイーンが、地面の溝を示して注意を促した。


「ふーむ。ここらは岩盤まで三百メートルはありそうじゃのぅ。砂に礫に水も多い。テルトーネの辺りと変わらんか。長杖六十本準備!」


 地下構造を調べていた髭小人のミエスが声を上げると、ティカが魔法鞄(マジックバッグ)から一本五メートル程の杖を取り出していく。

 杖と言っても端から端まで太さの変わらない棒状のもので、両端にはほかの杖を接続するための仕掛けが付いている地盤改良用の魔導具だった。


 杖を保持する三本足の台座を設置し、中心に差し込み杖の先端が地面に着けば『土変形』や『石変形』などが使われながらゆっくりと杖を沈めていく。

 杖の先端を中心に土や石が周辺へと離れていき、直径四十センチ程の穴が開いていく。

 穴の周囲は継ぎ目も無い硬い石に変わっており、杖を継ぎ足しながら深くなっていく。


「おっ? よーし! ここは終了だ! 引き上げるぞ!」


 ティカが六十本目の杖を手渡す直前に岩盤層に到達し、一息つく間もなく台座の把手(グリップ)をグルグルと回して引き上げては杖を一本ずつに取り外していく。

 それも終われば、ほかの場所へと移って、同じ様にいくつもの穴を開けていく。


「じゃあみんな、穴を埋めるわよー」


 マリーレインの号令で敷地の一角に山を作っている砂混じりの小石を運んで、空いた穴を埋めていく。そうして基礎の支柱が完成するのに数日を要することになるのだった。


「姉さま。街壁も同じように基礎を造ってるの?」

「え? えぇ、そのはずよ」


 石切り場から街壁の建設場までの資材の運搬にこそ時間が掛かっていることを知らずに、ロレットは街壁建設に時間が掛かる原因が基礎工事にあると誤解するのであった。


 ◇


 基礎が完成した頃には水道組合(ギルド)から来ていたルハイーンは上下水道用の管を埋設し終わっており、既にこの場には来ていなかった。

 その頃からロレットは浮揚車(エアーバイク)を使って建材の運搬を手伝っており、資材集積所と往復を続けていた。


「戻りましたのー!」

「おぅ、嬢ちゃん、待ってたぜ。こっちに積んでいってくれ」


 ミエスは髭小人であるからか、すっかりこの場の指揮を執るようになっていた。

 既に三階の外壁を造っているところで、石材が積まれる端から位置を整え結合していく。

 一階ではマリーレインを中心にして照明の魔導具用の魔銅線などを含めて内装に手が入れられ始めていた。


 二週間後には大きな六階建ての工房が完成し、工房を持たない薬師や魔導具師が場所を借りて足りない物を中心に作成し始めるのだった。

 上下水道はまだ使えない状態のため、迷宮用の簡易トイレなどが使われていた。


 隣の敷地では錬金組合(ギルド)の建物の建設も進められ、徐々に賑わい始めるのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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