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ねこだん!  作者: 藤樹
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186 遊覧飛行と里帰り

 すっかり夏の陽気に包まれた暑い日が続くようになってきた。

 ラウリーが面倒を見る見習いたちは夏の休みに入っており、月の半ばに四日間の集中指導の予定があるだけだった。


 リアーネは試験機としての小型飛竜機の完成度を上げるために毎日忙しくしていたが、休みと長距離飛行試験を兼ねて、久しぶりに生家のある湖畔の村へと帰って来たのであった。

 バスに比べると直線で移動できるうえに減速が遅れて飛び過ぎたことを差し引いても、半刻程で到着するという圧倒的な速度差を実感するのだった。


「すごいね! リーネ! 日帰りできるよ!」

「ん。高速飛行も安定してた。問題のあるところも無さそう」


 村の広場に『浮揚』で降り立ち、機体に問題が無いかをリアーネが確認をしている間に、集まって来た村人にはラウリーが挨拶をしながら飛竜機の説明をするのだった。


「何これ! すげー!! あ!? ねーちゃ、お帰り!」

「「ただいま、ルート!」」


 驚きの声を上げて現れた弟のルーペルトとその友人達は、双子の乗って来た飛竜機の周囲をグルグルと廻り、目はキラキラと好奇心に満ち溢れ、尻尾はフリフリと興奮していることが判る状態となるのだった。



 懐かしの実家では、変わらずミシン掛けをしていた母ユリアーナが手を止め笑顔で双子を迎えてくれて、長く離れていた時間を取り戻すようにギュッと抱きしめるのだった。


「それにしても、どうしたの? こんな時間にバスは来ないでしょ?」

「かーちゃ! すごいんだよ! ねーちゃ達、空飛んで来たんだ!」

「そうなんだー! リーネが空飛ぶ乗り物造ってね、テルトーネから一刻経たずに着いたんだよ!」

「ん。頑張った」

「乗せてもらう約束したんだー! 楽しみ!」


 そんなに早く移動できることに驚く母と、もっと頻繁に帰って来れるねと言いつつも、弟はいつ載せてくれるのかと期待の目を向ける。

 双子と母が話し始めて四半刻は、お茶とお菓子を口にしていたのでルーペルトもおとなしくしていたが、飽きてきたのかラウリーの背中にべったりと張り付いてきた。


「ねーちゃ! 早くー」

「ルート……あっついよー。離れてー」


 自分にも張り付かれたら堪らないとリアーネは距離を取り、ユリアーナは仕方が無さそうに見ているだけである。


「わかったから! 離れないと行けないよ」

「やったー!!」


 途端に離れて両手を上げたルーペルトは、嬉しさのあまりクルクルっと回ってから手を差し出して、早く行こうと急かすのだった。



「操縦はリーネがするから、邪魔しちゃだめだよ」

「わかった!」

「ん。じゃあ乗り込もう」


 飛竜機の周囲を一回りして確認してから後ろにある扉を開けて乗り込むと、中央に細い通路があってその両脇に座席が付けられていた。そこを通り抜けてリアーネは前方右の席に着き、ルーペルトには左の席に着くように言うのだった。


 先頭座席の前方は半球形の滑らかな形状をしており、座席左右の操縦桿と足元の方向舵に座席前方から迫り出してきた情報表示盤があるだけであり、極細い横長の窓から僅かばかりに外を見ることができていた。


「ねーちゃ? ほとんど外見えないよ?」

「大丈夫だから。ほら、シートベルト締めて。尻尾はここの窪みに入れとかないと飛び始めたら辛くなるよ」


 機体の状態の確認を始めたリアーネに代わり、ラウリーが正しい座り方を教えるのだった。


「ん。ラーリ、扉ちゃんと閉まってる?」


 機体の状態表示盤を見れば扉が閉まっていることは判るのだが、それでもリアーネは確認をお願いして、ラウリーも席に着いたのを見てから起動準備を進めていく。


「わっ! わぁー………!」


 リアーネが起動作業をしていると小さな窓以外に何もなかった半球の壁に、機体の各所に付けられた撮像板が捉えた機外の様子が映し出されて、驚きのためにルーペルトが声を漏らすのだった。


 ゴーグルなどにも使っている表示用の魔導具のおかげで、視界を遮る物が無い操縦席が実現できていたのだった。


「あははー。やっぱり驚くよねー。やり過ぎだよねー」


 後方の席には直径二十センチ程の丸窓から外を見ることができるようになっていたが、操縦席のように内壁に外の様子が映し出されることは無かった。

 そんなラウリーの言葉にもルーペルトは気付くことなくキョロキョロと視線を彷徨わせる。


「ん、準備良し。あー、これから飛行するから少し離れて」


 飛竜機の外に大きく声が流れると、周囲で見物していた者達が期待の目を向けながらも数メートル程、離れていった。

 離陸の声と共にふわりと浮き上がった飛竜機は上空二十メートル程から徐々に両翼中央付近に付けられた、推進器が風を吹き出し前進を始めるのだった。


「ぉぉぉおっ!?」


 地面から離れていく感覚が初めてのルーペルトは、座席の肘掛けにしがみ付くようにしながらも、目を離せないでいるのだった。


「ん、十分高度が上がったから、飛行に移るよ」

「わぁー! はやーい!! ね! ね! ルートも運転していい?」

「ん? 飛竜機はまだ、属性の違う魔法を四つくらい維持しなきゃだめな未完成品だから、操縦が難しい」


 できればルーペルトのお願いを叶えてあげたいと思うリアーネではあったが、制御用の魔法陣の造り込みのために飛行時の情報を収集している現在では、危険であるため無理なのであった。


 推進器の出力を上げると途端に景色が流れるように移動し始め、『浮揚』の魔法に頼らずに翼が風を受けて浮き上がるのだった。



 半刻程の飛行の後に戻って来た飛竜機が、元の広場に着陸すれば興奮状態のルーペルトの手を引いて家へと戻ることにした。その間に、ほかの子供達にも乗せてほしいと沢山の声を掛けられるのだった。



「ただいま。なんか凄いのが広場に置いてあったぞ!」

「「「おかえりなさい!」」」


 夕刻、父ウェイトールが帰ってくると、双子とルーペルトの三人で出迎えた。

 驚きながらも嬉しそうに出迎えられたウェイトールは祖父母の姿に目を止めて、いつもよりも夕食が豪華になっていることに気が付くのだった。


「今日は豪華だな!」

「とーちゃ! ルートも手伝ったんだよ!」

「ラーリとリーネのほうが手伝ったよ?」

「ん」

「ほれ、早うせい。ご馳走が冷めちまう」


 荷物を片付け手を洗い、手早く支度を済ませたウェイトールが卓に着くと、賑やかな食事が始まった。


「夏休みに入ってるから見習いの子の面倒を見る回数も少ないんだー」

「ん。リーネは魔導具の開発とかでずっと忙しかった。今は大型の飛竜機を造り始めたところ」

「なに? 広場の奴はリーネが造ったのか!?」


 沢山の驚きと感心と共に、双子が楽しく暮らしている様子を時おり口を挿みながら、嬉しそうに聞くのだった。


 ◇


 翌日からは日に何度か子供達を載せて飛竜機で空を飛び、魔力が尽きれば終わりを宣言。

 自然充填だけでは間に合わないため、双子が魔力を充填して翌日に備えることがテルトーネに戻るまでの数日の間、続くのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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