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ねこだん!  作者: 藤樹
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183 周辺調査と熱い泉

「向こう! 警戒の魔導具、鳴ってる!」


 耳をピクピクとさせるラウリーの声に頷いて、ルシアナとルードルフ、ローラントの四人組は気付かれないように静かに、しかし急いで音の発生源へと向かっていく。



 ノィエトゥアの街の開発が続いているのは、思った以上に人が集まり続けているためだ。

 当初考えられていた規模では、街に滞在できない者がでることになるという予測の元に、外側にもう一つの街壁の建設が始まったばかりだった。


 道を通すために大きく切り開かれる場所もあれば、見通しをよくするために間伐程度に抑えられる場所もある。そして壁の建設予定地は、伐採が進められているところであった。

 ラウリー達は見習いの指導の無い日に、伐採の作業者達の安全確保のための、見回りを兼ねた周辺調査などを行っていた。



 獣の叫びが聞こえる騒音の元へ接近すると、罠に掛かって暴れている金華猪(キンカジシ)であると判ったために、気付かれる前にローラントが手早く射撃で仕留めたのだ。


「……、猪ってこんなだった?」

「うーん?」

「はははっ! 言いたいことは何となく解るがな!」

「だね。迷宮下層の魔物用に強化した銃を使ってるんだから、この程度なら銃弾一発で対処できるのが当たり前なんだけどね」


 縄で吊り下げ血抜きをしながら、魔獣の脅威度が思ったほど高くはないと感じたことに、ラウリーとルシアナは違和感を覚えていたのだった。


 その後も罠の確認をしつつ何体かの魔獣を狩るのだが、魔獣の動きが良く見えるために的確な位置を短剣で一突きして仕留められるようになっていることに、今更ながら成長を感じるラウリーとルシアナだった。



 昼時に作業場が見える場所まで戻ってくると、コーン! コーン! と、続いていた木を打つ音が響かなくなる代わりに「倒れるぞー!!」という大きな声が聞こえてきた。

 バキバキと枝を折りながら倒れていく木を視界に収め、ラウリー達は声を掛けて近付いていく。


「大っきい木が倒れるのは迫力あるね!」

「こっちに魔獣って来てないよね?」

「おぉ! 嬢ちゃん達、これだけ騒がしくしてりゃあ、魔獣は寄って来やしねぇよ」

「それに、除虫香をこれだけ焚いてるんだ。魔蟲だって問題無い」


 斧を地面に着いて持つ樵の男達が、作業場を囲うように複数の煙が立ち上っている様子を示すのだった。

 木材にするために枝を掃う作業を見ながら、ラウリー達は昼食の準備を始めることにした。



 昼休憩を終えると、ラウリー達は午後も周辺の見回りのために装備を整えていく。

 これから木を切り倒す先に危険が無いかを確かめるのだ。

 夜鴉蜂の大きな巣を見つけたときはリアーネが居ないために、相手をするのが面倒になるかと思われたのだが、煙玉によって動きが鈍り思ったほどには手応えが無かった。


 さらに進むとかろうじて小川と言えるものに行き当たり、地図で位置を確かめる。


「壁の中に取り込めそうだよね?」

「うーん……、水源の確認はしておいたほうが良い、のかな?」

「そうだな。近場だったら水源ごと壁の中に納めちまえば、安心できるしな!」

「とりあえず、行ってみようか」


 ささやかな流れを作る川を上流に向かって移動を始めると、いくらも行かぬうちに地面を濡らす滲みの道というような状態になっていた。


「どうしよ?」

「もう少し遡ってみたら?」


 石が多く顔を出している場所では小さな滝のようにもなって川が姿を現し、土や砂の多い場所では地面を濡らす筋が現れるといったことを繰り返して、思った以上に斜面を登って行くこととなった。


「ここかな?」

「ここってことにしようよ……」

「良いんじゃねぇか?」

「そうだね。壁の建設予定地からは離れすぎたし、ここまで延長はできないよ」


 水瓶のように水を湛えた小さな水源を前にして、休憩を取る間に地図に記録をしてから戻ることにしたのだった。



 そうやって、水源などの有用な場所や、崖や亀裂などの避けるべき場所などを、見つけることも重要なことであった。

 そんな周辺の警戒中に、ラウリー達は興奮を抑えることができないものを発見することになるのである。


「ね、なんか覚えがあるような匂いがする」

「そう? どんな感じ? 美味しそうとか辛そうとかあるでしょ」

「うーん……、苦手な匂い、だけど、それだけじゃなくて……」


 ラウリーはうんうん唸りながらも匂いに集中しながら進んで行くと、ルードルフとローラントもその匂いに気が付いて、あれこれ考えてばかりよりも実際に行ったほうが早いと匂いの元へと急ぐのだった。


 少しばかり開けた場所にたどり着いた頃には、何の匂いであったのかも見当が付いており、目の前に広がる光景にそろえたように歓声を上げる一行であった。


「「「温泉だーっ!!」」」


 辿り着いた先には、もうもうと湯煙を上げている温泉が沸々と湧き出し、熱い湯が泉から川となって流れていたのだ。


「おぉー。これ火傷するくらい熱そう」

「冷まさなきゃ入れないねー」

「ぬるいよりゃ良いんじゃねえか?」

「ここなら、予定地からそう離れてないから、ぜひとも含めるべきだね」


 ローラントがゴーグルに表示される地図と手にした紙の地図を見比べ書き込んでいく。


「ほんと、迷宮じゃなくてもゴーグルが役に立ってくれるのはありがたいよ」


 壁の建設場所の修正を提案するために、狩人(ハンター)組合(ギルド)へと携帯魔導通信機で温泉を発見したと報告を入れるのだった。

 調査の人員を送るという返答と共に、どの程度の変更が必要であるかの試算を頼まれるが、リアーネが同行していないために無理だと回答するのだった。


 そろそろ伐採現場に戻ったほうがいい時刻になっていたこともあり、周辺調査を兼ねた狩りを終えることにした。


「おぅ! おかえり! そっちはどうだった?」

「ただいまー! 凄いの見つけたよ!」


 伐採班も撤収準備を進めており、待たされなくて良かったと言いながら温泉発見の報に笑顔になるのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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