018 森の平穏と射撃術
「しゃげき術ー!」
「入ー門ー」
「私も手伝うんで、この子達に教えてあげてください」
飛熊騒動で森に行けないのが残念で、何かできることを探しているのだと拳を固めて力説すると、セレーネの提案で元狩人の爺様達に教えを受けることになり、集会所前の広場へやって来た。
「教えんでもないが、唐突にどうしたんじゃい?」
「弓さ、まだ引けんじゃろ」
「銃も、まだ持たせられんしのぅ」
弓も銃も小さな体では扱いきれないのは試す前から判断できる。その点吹き矢ならば投擲や投石紐に比べて狙った所に中て易く、訓練の継続意欲を持たせることができると爺様達は考えた。
「じゃじゃーん!」
「じゃーん!」
吹き矢を手に取りやる気の双子。弾を込め的を狙って大きく息を吸い込む。ごく近くから始めて中心に中るようになったら、徐々に距離を離していく。
「やった! あたった」
「ラーリ上手」
ラウリーに比べてリアーネはなかなか上達せず、耳も尻尾も萎れてしまっている。どうやら息を吹き込む時に筒が動いているようで、少し離れた段階でめっきり命中率が下がってしまった。
「ほれ、もそっと筒を離しても大丈夫じゃ」
「もっと肘を柔こくしんされ」
「的の向こう側を狙うんじゃ」
「一杯吹くより、一気に吹くって感じかな?」
「ふっっ!! ってやるの!」
「んー? やってみる」
考え考え何度も試すうちに扱い方のコツを掴んだのか命中率も上がっていって、みるみる距離を離していく。
「まけたー」
「ん! 勝った」
そうしてついにラウリーよりも一メートル程遠く、およそ八メートルから中てられる様になったリアーネ。双子の肺活量ではこの辺りが限界のようだった。
その後は、ゆっくり動く的に、歩きながら、動く的を歩きながら、と難しくなっていく。
さすがに最後のは五メートルも離れると中らなくなる。
「二人とも私より上手いんじゃない?」
「おー!」
「ほんと?」
遠くから中てられないと少しいじけていた双子もセレーネの言葉に気分が上がる。
「今日はこんなもんで、えぇじゃろぅ」
「続きは、また明日にせいよ」
「はー、疲れたわい。さて、帰って飯じゃ飯じゃ」
「はーい!」
「ん。わかった」
この日は疲れ切り、昼食後の午睡が夕方近くまで続くこととなる。
◇
「ほれ、腕も手首も柔こく柔こく」
「膝は軽く曲げるんじゃ。腰を安定させにゃならん」
「手を離す瞬間は指先まで神経を尖らせる」
日が明けて、吹き矢のおさらいをした後に石の投擲訓練が始まったが、地面に叩き付けたり、すっぽ抜けていく。
「おー?」
「んー?」
「速さでも届かせることでもなく、正しい投げ方を身に付けると良いわよ」
そう言って、上体の安定させ方、腕の振りに手を離すタイミングとセレーネによって指導されると、徐々にまっすぐ投げられるようになっていく。
「すぐさま、移動も追撃もできるように心がけるんじゃ」
「投げた後、体勢を崩すんじゃない」
「体全体使って投げたら危険じゃぞぃ」
五メートルを越えた辺りで終了し、投石紐が登場した。
「それ何?」
「ん? 紐?」
「そう、こっちの端を手首に巻き付けて真ん中の広い所で石を挟み込んで、反対の端を握りこむの」
「こう?」
「んー、できてる?」
「大丈夫そうね。で、軽く振り回して握った手を緩める」
パシンッ! と、的に中るいい音が響く。
一人ずつ、最初はゆっくりでと言い聞かせる。投擲訓練が効いているようで紐を離すタイミングもすぐにモノにし始めた。徐々に回転を速くして、ズパンッッ! と、大きな音と共に的が壊れるほどにまで威力も上がっていった。
「「むふーー!!」」
「大したもんだ」
「もう、体得したか」
「呑み込みが早えぇもんだ」
得意満面になる双子。最終的には十メートル離れても中てられる様になっていた。
◇
「喜べ! 飛熊が罠に掛かってた!」
夕方帰ってきた父がそう言うと、熊肉の塊を見せてくれた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。