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ねこだん!  作者: 藤樹
187/218

180 レアーナと接合剤

「父ちゃん! 素材の扱い方、教えて!」


 黒銀の槌工房ではレアーナが父親であるウォルガネスに、魔物の素材を手にして扱いの指導を頼み込んでいた。


「ふむ。一番新しいのを見せてみろ」

「わかった!」


 レアーナは腰鞄(ウェストポーチ)から刃から持ち手まで金色に輝く一本の包丁を取り出した。


「違った。こっちは魔法鍛冶の奴、だから……あ、あった、はい、父ちゃん」


 そうしてもう一つ取り出した物は、鈍い光を放つ鋼の包丁だった。


「あー……まぁ、いい。どっちもよこせ」


 そうして二本の包丁を手に、ウォルガネスは魔法も使いながら出来具合を視ていくのだった。


「ふむ。こっちの魔法鍛冶の包丁、ムラもないし表面の保護もおおむね均一。常にこの精度が出せるんなら良いだろう」


 うっ、と、うめき声をあげる様子に、数をこなせばできるようになるだろうと軽く言う。


「そんで、こっちは……刃金に鋼鉄、軟鉄。こんくらいできるなら問題は無いか」

「じゃあ?」

「おう。気合入れろよ」



 そうして、魔物素材の扱い方の、初歩の初歩から指導が始まる。


「なんで兄ちゃんが?」

「そりゃ、父さんの仕事が詰まってるから仕方ないだろ。今日いきなり時間が空くわけがないんだ。それに『基本を教えるならお前で十分だ』とか、言われちゃったしな」


 レアーナの兄ヴァリオは急に予定が変更になったのだという。

 ヴァリオが分担していた仕事をウォルガネスが引き受けて、早々に終わらせ時間を作るつもりなのだった。


「さて、魔物の素材といっても色々あるけど、その中でも武具によく使われる物は一定の傾向があるんだ」

「あー、うん。硬い、柔軟、鋭い、重い、軽い……だっけ?」

「そうだね。ほかに重要になるのは素材同士の張り合わせ。接合剤だ」


 特性の違う素材を組み合わせることにより、堅い素材が割れないように柔軟性のある素材を張り合わせるのが基本となる。


「えっと、あれだ、膠でしょ? 工房にいっぱい置いてるもんね」

「そう。ただ沢山あるだけじゃなくて、沢山の種類があるんだ」

「そうだったの!?」



 素材に合った接合剤を使わなければ、素材の持つ潜在能力を殺すことになってしまうのだ。

 それは魔物の持つ魔力属性に深くかかわり、接合剤にも言えることであった。

 火属性の魔物から取れた膠は火属性を持つようになり、同属性同士の素材を使うことで効果の減衰を抑えてくれる。


 ただ、組み合わせる素材はいつでも同属性ばかりではないために、別々の属性を持つ素材の橋渡しをする必要があるのだった。



「と、まぁ、そんな感じに属性の組み合わせを覚えるのが最初かな」

「うへぇー……、これ、ほんとに覚えてるの?」


 レアーナの前に置かれた本の開かれた項には、小さな文字で一覧表が埋め尽くされていた。


「あー、その一覧表、見難いよねー。えーっと、こっちならどうかな」


 ヴァリオが差し出した一枚の紙には、不要な情報を排除したため見た目がすっきりとした画が描かれているのだった。


「おー! これなら覚えられるかも!」

「かも……じゃなくて、それくらいは覚えないとな」


 火属性素材に合わせる接合剤の属性は火から順に光、風、土と相性が落ちていく。

 各属性毎にこれらの相性は調べられているのだが、二つ以上の属性を持つ物や、属性で見ると良いはずが、特定の魔物素材同士で使うと悪くなるものなどがあるのだった。

 本に書かれた一覧は、それらも含めて細々と書かれた物であったのだ。


「うぁー……、想像以上に大変だー」

「そうだよ。だから工房毎に得意な素材とか、扱ってない素材とかあるんだよ」

「そっかー。ほかの工房に部分的に作業をお願いするの、何でだろうと思ってたよ」

「まぁ、そういうこと」


 初歩の知識とは言え一度に詰め込めるものでは無いと、この日はずっと素材の相性について話すのだった。


 ◇


「こっちが膠で、こっちは……えっと?」

「そりゃー蒼氷杉の樹液だな」


 河猪(カワジシ)の皮から取れた膠に蒼氷杉の樹液はどちらも水属性でありながら、接合剤として使うための処理から使い方まで全く違うのだった。


「どっちもまずは蒸留水、できれば『聖水』が使えればいいんだけど?」

「あー、うち、まだ水属性は中級までしか使えない」

「なら、蒸留水に溶かし込む。それから………」


 湯煎に掛ける前の蒸留水に溶けるのを待つ間、張り合わせる革と鱗の貼り付け面の処理を進めていく。


「できる限り滑らかに仕上げたほうが良いな」

「粉塵で削ってから、研磨機にかけるのか……兄ちゃん加減は?」

「この素材なら、熱を持たないように気を付ければ大丈夫だ」


 延々と削って磨いて終わった頃には河猪(カワジシ)の膠は既に溶けており、濾過をしてゴミを取り除いていく。

 磨いた(シオ)蛙の革と水珠蜥蜴の鱗を膠を薄く塗り伸ばして張り付けていく。


 接着面を押さえるように木型で固定してから『冷凍』魔法でゆっくりと温度を低下させ、氷点下になる前に打ち切れば、後は除冷庫に入れて常温に戻るまでゆっくりと待つばかりである。


「兄ちゃん、武器でも同じ感じ?」

「まぁ、そうだな。木型じゃなくて金型を素材に合わせて調整して、がっちりと固定するんだけど、この金型を造るのに鍛冶師の腕が出てくる。素材にしたってこんな軟らかくないから事前に変形させるのが大変だったりするしな」

「そっかー」


 この日作った手袋はラウリーの釣り用の物として贈ることにしたのだった。



 後日、父ウォルガネスが受けていた仕事を終わらせてから本格的に指導を受けるのだが、兄の用意した素材がいかに扱いやすい物であったかを思い知ることとなる。

 高温高圧で蒸し上げた硬い鱗を型にはめて変形させて、冷えて硬さを取り戻してから表面を磨き続ける日が続くのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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