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ねこだん!  作者: 藤樹
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174 狩り納めと大蜥蜴

 十月に入った頃、全ての領域(フィールド)で魔物を討伐してきた探索者達が最下層に到達していた。


「あぅぅ、また氷と雪塗れ……」

「さぁ、最後だ! うん……最後、だ。この層終わったら、俺……釣り、行くんだ」

「あー、そうだね。いい加減、雪は見たくないよ」

「ほらほら、ボクらが最後だから」


 結局、全ての領域(フィールド)の調査を終えても迷宮核の発見には至らずに、巨大な氷の魔物が居る領域(フィールド)以外の討伐も終わらせ、数日前に皆で氷の大鷲二羽も倒しているので、後は氷の大蜥蜴を残すのみとなっていた。


 負傷者の治療と壊れた装備品の修理に消耗品の準備も兼ねて数日間の休養を取り、気分を入れ替えたとしても雪に覆われた階層ばかりで狩りを続けていたために、ラウリー達はすっかりやる気をなくしていたのだった。


 最下層に転移しても数人いる猫人族は全て迷宮核の複製の部屋で温かい飲み物とつまみで一息入れて、扉の外へと出るのは最後になるのだった。


「これで全員揃ったか。なら、行こうか!」


 十二の班が参加しており、指揮を執るのは森人のリクハルドである。



 途中の領域(フィールド)で遭遇する小型や中型の魔物であっても上層の魔物より大型化しており、対処するのも大変である。しかし多くの人数が参加しているために狙撃手の数も多くなるため、ほとんどの魔物は接近もできずに討伐されていくのだった。


「ほかの迷宮も同じようにすればいいのに……」

「そりゃ無理だ」

「あぁ、無理だな」

「どうしてよ?」


 ラウリーの疑問にルードルフとローラントは無理なことだと切り捨てる。

 ルシアナがその理由を尋ねれば、憶測ではあるがと断ってローラントが答えるのだ。


「迷宮は数十年、数百年と時間を掛けて今の大きさになってるだろ? このまま放っておけば今以上に大きな迷宮になる。と、いうことは、その分だけ、狩り場が……」

「「広くなる!?」」

「そういうことじゃないかな」


 ここ数年で攻略された迷宮は、どれも八十層以上の規模があったと皆は聞いていたのだ。


 そこまで深くに居る魔物は大きく強力になるために、危険を顧みず討伐しようという志のある探索者は少数派と言ってよく、無理と判断すれば中層の狩場で満足する者が大半を占めていた。中層を専門とする探索者が増えれば、別の迷宮に場所替えをしたり、引退して故郷で狩人(ハンター)となる者もいるのだった。


 そんな状況でも攻略しようという意志のある者達は複数の班で立ち向かうのだが、基本的に探索者が自主的に行うことであった。


 対してノィエトゥア迷宮は亀裂の底から見つかった、正体不明の迷宮であるために早急な攻略が必要であるとの組長(チーフ)による判断で、全ての探索者は協力して行動することが言い渡されていたのだった。


「それでも、リーネの開発した魔導具が無かったら、倍以上の期間が掛かってるんだろうけどな」

「そっかー」


 機嫌良さそうに尻尾を揺らすラウリーは、ラスカィボッツへ出かけたリアーネが早く帰ってこないかなと呟くのだった。



「あれを倒す意味って、どれくらいあるんだろうな?」

「あるんじゃないか? 氷の翼竜の居た所はルーも確認しただろ」

「大っきい翼氷竜(ヨクヒョウリュウ)がいたよねー」

「前の程大きくも無かったし、あれなら対処はできるって思えるもんねー」


 以前に倒した氷の翼竜のような変化が現れるまでには、膨大な量の魔力を取り込む必要があるのだろうと思われた。そのため、定期的に狩ることによって翼氷竜(ヨクヒョウリュウ)の素材を得ることができる可能性が見えたのだ。


 氷の大蜥蜴の居る領域(フィールド)に到着して視界に捉えた一行は、立体地図を見ながら位置関係を確認し、罠や銛撃ち銃の巻き上げ機を設置する場所の検討をリクハルドが中心になって行っていた。ラウリー達は難しいことは任せたと、氷の大蜥蜴の監視をしながら小声で話し込んでいた。


 雪の塊のようになった巨樹が立ち並び、硬く積もった雪原が起伏を覆い隠している風景は、寒々しいだけで早く地上へ戻りたくなるのだった。


「ほとんど氷だよねー」

「氷ほど固くも無いのは、良いんだか悪いんだか……」


 班毎に別れて配置に着いて、魔法鞄(マジックバッグ)から取り出した巻き上げ機と投射機を設置していく。


「こんなときはリーネとレーアが居たらって思うよね……」

「文句言ってないでサッサとする」


 鋼索(ワイヤー)を掛けた銛の準備も終わり通信機越しに連絡し、他班の準備が終わるのを息を潜めてじっと待つ。

 双眼鏡で監視を続ける氷の大蜥蜴は、探索者に気が付くことなく、ゆったりと歩みを進めている。


『よし、全班準備終わったな。強化魔法を使い終わったら連絡をくれ』


 リクハルドの言葉に筋力や器用さなどを補助するために各人魔法を使っていき、それが終わって通信を入れれば、攻撃用の魔法の準備を始めるのだった。


『準備は良いな。今日も美味い酒をみんなで飲もう! 秒読みを始める………三、二、一、撃てっ!』


 ドガガガガガガガ………ッ!!


「「『麻痺』!」」

「「「『火球』!」」」

「「「『雷球』!」」」


 多数の銛が氷の大蜥蜴に突き立ったことを確認すると、すかさず魔法を解き放つと体表で一斉に炸裂し、一瞬姿を見失うことになる。


 キュガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!


 その場で暴れ出そうとしたために、鋼索(ワイヤー)が引かれて巻き上げ機から軋む音が響いてくる。身動きがほとんどできなくなっているようで、氷の大蜥蜴は咆哮を上げるばかりとなっていた。


 その間に魔法で追撃をしていると半数近くの銛は抜け落ちていき、ラウリー達が近付いて攻撃しようとした頃には、動きを取り戻しているのだった。


「うわぁー……」

「あれは、近接戦はないな」


 抜け落ちた銛の一本に目を向けると、溶けて形を失っていることに気が付いたのだった。

 声を掛けて後退を始めると、それに気を引かれた氷の大蜥蜴がラウリー達を目掛けて迫ってくるのだった。


「にゃっ! こないでっ!」

「ラーリッ! 俺は右に行くっ!」


 ルードルフの指示に従い左右に分かれて回避する。

 近付く氷の大蜥蜴は投射機で撃ち出されていた網に足を踏み入れて、すぐさま形成された落とし穴に嵌まって、つんのめるように地面に打ち付けるのだった。


「今のうちだね。天を奔る猛き輝きよ、衝撃をもって弾けよ………『雷球』!」

「………『雷球』!」


 ラウリーの魔法を合図にするように、多数の魔法と射撃が集中する。


「にゃぁぁっ!」


 しかし魔物の近くに居たために、巻き起こる魔法の勢いに押されるように、ラウリーは悲鳴を上げながら離れていくのだった。

 しばらく遠巻きから魔法を浴びせ続けて動く様子が見られなくなると、ようやく確認のために輪を作るように近付いていく。


「もう動いてないよね?」

「これはちょっと、ボクは触りたくは無いかなー……」

「だよなぁ」

「せっかくの銛も使い捨てになってるからねぇ……ふむ。魔物の反応も無くなったようだね」

「触って大丈夫?」

「………。やめたほうが良いんじゃないか?」


 周囲の惨状に目をやれば、ブスブスと煙を上げて溶けていく様子に回収を断念するのだった。

 銛打ち機などは回収し、最深部にある迷宮核の複製から皆は地上へと戻っていった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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