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ねこだん!  作者: 藤樹
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173 調査旅行と研究熱

 九月中頃、一日バスに揺られてリアーネが来たのは、既に懐かしくも感じるラスカィボッツだ。

 ラウリーと別行動をしてまで来たのには、迷宮核の調査のためであり、リアーネが迷宮核に到達したことのある迷宮の中で、最も近い街であるという理由で選ばれていた。


 来たついでに新作の魔導具や改良した魔法陣も持参して登録を済ませるのだった。



「おや、嬢ちゃん。随分と久しぶりに見るなぁ。今日は一人かい?」

「んーん。探索者はリーネだけだけど、迷宮核の調査に錬金術師が同行してる」


 狩人(ハンター)組合(ギルド)の待合室で声を掛けてきたのは、リアーネ達の指導員をしていた熊人族のオスヴィンだった。


「ふむ。その錬金術師、ここの迷宮に潜るのが初めてなら一層から行かなきゃならんな」

「ん。大丈夫。前に迷宮核まで行ったことがあるって言ってた」

「それなら転移するだけだから、すぐに調査ができるだろうが……、一体何の調査なんだ?」


 ノィエトゥアの迷宮のことを話して、迷宮核がどういう物であるのか文献だけでは判断できないから直接見に来たのだと説明をしていると、錬金組合(ギルド)へ挨拶に行って組長(チーフ)に捕まっていたマリーレインがやってきた。


「どう? リーネちゃん。すぐに行く?」

「ん。早いほうが良い」


 ◇


「ん、世界に満ちる純粋なる魔の根源よ、その脈動と定められし律動の譜を現せ………『魔力感知』『魔法感知』『魔力分析』『魔法分析』」


 リアーネは迷宮核に手を当てて魔力の流れを読み取って、構成された魔法陣を写し取っていく。

 四半刻近く集中を続けて、その脇には大規模な魔法陣が『持続光』で描かれていた。


「お疲れさま、リーネちゃん。それにしても迷宮核って凄いものねー……」

「ん。マリー姉……のど乾いた」


 耳も萎れてぐったりとしたリアーネを座らせ、マリーレインはオスヴィンの分も含めて三人分のお茶を用意する。

 最初の一杯はすぐに飲み干し、二杯目はお菓子と共にゆっくりといただき、甘く美味しいお菓子のおかげで、疲れも引いていったようだった。


「それで、どう? 何か判ったかしら? 私じゃここまでの構造、読み切れなかったんだけど」

「ん。これでもまだ読み切れてない。末端の構造が細か過ぎるから、この魔法陣の倍の密度はありそう。迷宮核に焼き込んだ大元の魔法陣、いつか見てみたい」

「全くね。これでも随分と大きいのに……。それで、どうするの?」


 緻密に構成された魔法陣を描く『持続光』は、全体で高さ一メートル程もあるのだった。


「んー……、読み取り用の魔導具を造る?」

「了ー解。『魔力感知』『魔法感知』『魔力分析』『魔法分析』。これだけじゃ駄目だったんだから、感度を上げる必要があるわよね………」


 リアーネとマリーレインの二人で話をしながら、今までリアーネの開発してきた魔法陣を組み合わせれば新規に造り出すことも無く、できそうだという結論になった。

 大型の中継機が通信を遠距離間で繋げることができるのは、微弱な魔力を読み取る力と繊細な魔法の調整を忍耐強く人が行う必要が無いからであった。


 手持ちの魔法陣を取り出して魔石に焼き付けていき、複数の魔石を真銀(ミスリル)で結合してから保護するための箱に収めた。読み取った結果は立体地図のように撮像札(Sカード)に記録できるようにして、とりあえず使えればいいと地図作製機と同じ形状に組み立てられていく。


「んー……、これで、良いはず」

「さっそく試してみましょ」


 そうして床から柱、迷宮核を越えて天井まで読み取った魔法陣の構造は、リアーネが読み取れたものとは比べようも無い程に、繊細で密度のあるものであった。


 読み取り機に表示された物を見ながら魔法陣を再現するのは面倒だと感じたリアーネは、撮像札(Sカード)をゴーグルに入れ替えてから表示して、細部を確認しながら真銀(ミスリル)で魔法陣を再現していくのだった。


「これなら、随分と解りやすいわね!」

「ん。魔法陣の造り方には個性が出るけど、これには沢山の人がかかわってるね」


 大きな一つの魔法陣では無く、多数の小さな魔法陣を連結させて新しい機能を作り出している部分が大半を占めるのだが、迷宮核の基部となる魔法陣は合成して造り出したものだった。出来上がった魔法陣は木枠を付けて支えなければ形を保つことが難しそうな程に、複雑な形状をしていたのだ。


「えーっと、この辺りって照明関連よね」

「ん。そうかも? こっちの天井と床に広がる魔法陣を制御してるのはこの部分だから、これが転移の魔法陣かな?」

「どれどれー、うーん、私も始めて見るわね。恐らくそうだろう、としか言えないわね……」


 物語だけに登場する転移魔法は、現在残されている魔法書には存在していなかったため、推測することしかできないのだった。

 魔法陣を読み取っていき、いくつかの機能は解明されるが、不明な機能ばかりが多数見つかり徒労感が募るのだった。


「あー、すまんが、良いか?」


 魔法陣の調査に掛かりきりになっているリアーネ達に、オスヴィンがおずおずと声を掛けてきた。


「もうそろそろ日が暮れる頃だ。いったん地上に戻らないか?」

「ん!?」

「あらら。もうそんな時間なのね」

「ん。魔法陣の調査は上でもできる」


 むしろそちらのほうが、この地の魔導具師の意見も聞けるだろうと、魔法鞄(マジックバッグ)に魔法陣を片付けて転移するのだった。


 ◇


 翌日には錬金組合(ギルド)で迷宮核の魔法陣の検証を行う。


「ん。この辺りの追加された魔法陣は複合されてないから解り易い」

「そうね。起動条件の記述に細かな魔法陣がたくさん連なってるせいで、一見すると物凄い機能でもあるのかと思っちゃうわ」

「いえいえいえいえ! この辺りの重量の増減を調整する部分なんかは十分凄い機能ですよ!」

「そうです! この魔法陣を見る限り雪や雹まで降らせられるんですから!」


 基本形からほとんど外れることの無い形の魔法陣を指して、つまらなさそうに評価をするリアーネとマリーレインに対して、この地で活動している魔導具師の二人が興奮した声を上げてリアーネ達の評価が厳し過ぎると泣きそうになっていた。


「ん!? 雪? もしかしたら、雪が降らなくできる!?」

「その可能性はあるわね……、いっそのこと設定変更器も改造する?」

「迷宮内の雪山が無くなれば……快適!?」


 最初に踏破する者は、その恩恵に与れないことに気付くことを拒むように、ぎこちなくリアーネの尻尾は振られて調査は進むのだった。



 その後、重量の増減や魔法反射など迷宮を維持するのに必要かもしれないと思う魔法陣を除き、降雪などの天候関連や精神に作用するものを機能停止させられるようにして、三十リットル程まで小型に改良した設定変更器が完成したのだった。


 迷宮核へと赴き魔導具の動作を確認するが、ここの迷宮では実感できる効果は無かったのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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