017 夏の甘未と誕生日
「くだものー!」
「ん。いっぱい取る!」
「美味しいの選ぼうね! 今日はお邪魔します」
双子の尻尾が嬉しそうに揺れているのは、セレーネと連れ立って果樹園に来ているからだった。果樹園には沢山の種類の木が植えられており、黄色や緑の実を付けているのが見て取れる。
双子の両親から話は通っており、気ままに収穫できるのだ。
従業員にも挨拶をして、三人は果樹園の中を進み始める。
それぞれ小さな籠を持ち、セレーネは脚立も肩に担いでいる。
「陽梨すきー!」
「ん。黄金桃も」
「はいはい、ここからだと陽梨の木が近いわね。そっちからで良い?」
「「はーい」」
脚立を立てて、よく熟れた実を選ぶ。双子も自身で選びたいため危なっかしくも順番に上って収穫し、降りて移動と楽しい時間が過ぎて行く。
「美味しそー!」
「ん……味見は?」
「仕方ないわねぇ。一つだけよ?」
ナイフでザックリ切り分けて、サクサクと皮を剥き陽梨を差し出す。ノリノリな声と様子からセレーネも食べたかったのだろう。
「んーーー!」
「ん! あまーい」
「ほんとだね!」
しゃくしゃくと良い音を立ててあっという間に食べ終わり、もっと欲しいと目が語るが沢山採って帰るんでしょうと言い聞かされる。
「セレーネちゃん、こっちも採っていきなされ」
果樹園で働くおばさんに勧められて、蒼苺、翡翠葡萄、翠林檎も収穫をする。どれも瑞々しく色艶の良い果物達だ。
果樹園と森との間の花畑には、いくつもの蜂箱が散見される。
花畑の見える木陰でお弁当を広げると、お魚フライのサンドイッチに蒸かし白岩薯のマヨネーズサラダ、冷えた緑茶に採れたて蒼苺と翡翠葡萄で食事が始まる。
綺麗な花に忙しく飛び交う蜂さえも、楽しい昼食を演出する。
「「美味しーね!」」
「だね!」
◇
日が傾き始めるにはまだまだ早い時間に帰り着き「ただいま」の声を響かせる。
「戻りました、小母さま」
「お帰りなさい、沢山採れた?」
「「大量ー!」」
「どれどれー? ふふ。セレーネちゃんも有り難う」
楽しそうに果物を見る母は早速始めると台所へ。
今日の夕飯は双子にとって特別で楽しみなものだった。
早めのお風呂を三人で済ませ、居間に戻ると甘い香りが漂っている。
「おなか、へるー」
「んー、いい匂い」
早く早くと楽しみにしながらも、髪を拭き終われば食卓を整え始める。
「まーだ、気が早いわよー」
「えーー待てなーい」
「んー、まだ?」
「そんなに待てないなら、こっち、お手伝いしてもらおうかしら?」
「「するー!」」
そうして台所へ行くと、山羊乳と砂糖の粥がトロトロに煮詰められていた。
セレーネにも手伝ってもらいながら桃と葡萄を剥いて行き、種を取って一口大に切ったら三分の一を粥に入れて火を通し、粗熱をとったら冷蔵庫に入れ冷やしておく。
じゅうじゅうと揚げ物の音を聞きながら食器の準備も終わらせる。
「「できたー!」」
「おや、賑やかだねー」
そうして来たのは祖父母だった。手に下げている籠には、こんがり飴色になった実に美味しそうな兎の丸焼きが入っている。
「ありゃ、父さんの方が早かったか」
いつもより早く父も帰宅して、早速始めるかと食卓に着く。
少し待ってと沢山の料理を運んで皆の前に並べていく。
兎の丸焼きにお魚と白岩薯の衣揚げ、先日釣った蟹の入ったスープにサラダ、陽梨は生のままで、そして何より葡萄と桃の乳粥と蒼苺の乾酪焼。
甘未が二種類並ぶのは誕生日ならではの楽しみだ。
「「「ラウリー、リアーネ。お誕生日おめでとう!」」」
「「ありがとう!」」
「これで大人の味だ」
と、言って、父が翠林檎のジュースに蜂蜜酒を一滴垂らした。
この日双子は、家族に祝福され七歳になった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。