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ねこだん!  作者: 藤樹
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170 準備期間と調査隊

「なぁ、どうかしたのか?」

「随分と静かだけど何かあった? たしか今日は、最下層の攻略だって聞いた覚えがあるんだけど?」


 狩人(ハンター)組合(ギルド)の待合室が妙に静かなことを不思議に思ったルードルフとローラントが、ラウリー達に聞いてきた。

 一行が地上へと戻り迷宮核の複製しか見つからなかったと報告を終えたばかりであり、居合わせたほかの職員や探索者も、驚きと混乱によって声を失っていたのだった。


「あー……、とりあえずだ。組長(チーフ)、呼んだら?」

「そ! そうね! ちょっと呼んできます!」


 リアーネが説明すると、考えるのは自分の役目ではないとルードルフは後頭部をガリガリと掻きながら提案して、ようやく受付嬢は動きを取り戻した。



「何だ、お前ら。辛気臭い顔しておるのぅ。何があった」


 組長(チーフ)が顔を出し待合室に居る者達を見渡して、最下層の報告を促した。

 ラウリーが撮影していた準備中と仕留めた後の氷の翼竜の様子や、最深部と迷宮核の複製の写真を大型表示板で映して見せながら、リクハルドが簡潔に報告していく。


「それだけじゃあ、判らんなぁ……、お前ら、何か思いつかんか?」


 ぐるりと視線を巡らせるが、ほとんどの者は肩をすくめたり、首を横に振って否定を示すだけだった。


「やっぱり、嬢ちゃんに聞かなきゃ判らんか」

「リーネだもんね!」


 胸を張って答えるラウリーの声で、リアーネに視線が集中する。


「ん……、あくまで、今ここで思いつく可能性だけど。一つ目、最深部じゃなくてほかの場所に迷宮核がある」

「なるほど。確かに考えられる。イェニーナ! 迷宮の地図、全部持ってこい!」


 組長(チーフ)の声に受付台の奥へと向かい、まとめられた地図を取り出しにいく。


「ん、二つ目。連続した空間でつながってなくて、転移で行くような別の場所に続いている」

「あー……、どういうことだ? そんなことは今まで聞いたことも無いが……」

組長(チーフ)、迷宮核が無いことだって、今まで聞いたことありませんよ」


 リアーネの提示したものは余程考えてもみないものだったらしく、思わず否定してしまう組長(チーフ)をリクハルドが(イサ)めるように言葉を掛ける。


「おぉ、そうだな。すまん、否定する気は無かったんだがな……。で、ほかにもあるのか?」

「ん、これは無いと思うけど、一応。三つ目、自然発生の迷宮だった」


 しばしの沈黙の間に、皆はリアーネの語った可能性を吟味する。


「リーネ、自然発生の迷宮って、何?」


 ラウリーの言葉には何人もが疑問に思っていたらしく、皆が耳を傾けた。


「ん。魔力溜まりがある場所はただの森だとしても、大きな群の縄張りになっていたり強力な個体が居ることがある。同様に魔力溜まりになってる自然の洞窟や遺棄された採掘所跡、廃墟なんかで魔物が発見された例もある。魔獣が沢山の魔力によって変異したのではないかと考えられる、そういった場所のことを迷宮と呼んでた」



 元々それらを指して迷宮と言われていたのが、トゥッカー王国の造り出したと伝えられている迷宮核による魔物の氾濫以降は、迷宮核によって造られたものを迷宮と呼ぶようになっていた。


 魔力溜まりによって魔力濃度の高い地は、魔力の回復や植物の成長が早く、病気への抵抗力が高まったり、寿命の延びなどが知られていた。

 元々大きな都市が魔力溜まりに造られていたのは、魔力の恩恵を受けるためであった。


 魔獣も本能的にそれらのことを感じているのか、魔力溜まりを縄張りとするために争いが起こることがあるのだった。



「天然の迷宮には核が無いから、まぁ、違うだろうな」


 組長(チーフ)が自然発生の迷宮は考えなくていいだろうと、今後の方針を決めるのだった。


「まずは最深部の核の調査。これはリアーネの嬢ちゃんに任せたほうが良いだろう。次に、未確認の迷宮核の調査。残り三つの班で問題は無かろう。確認済みの迷宮核には印を付けよ!」


 イェニーナが持って来て広げた地図を前に、組長(チーフ)が号令をかけて動き出すのだった。


 ◇


 数日後。ラウリー達は残されている資料を参考に、迷宮核の設定変更器を持ち込んで試してみたところで、迷宮核の複製であるためか、実行不可の印が点灯されるだけだった。


「リーネー、何かわかったー?」

「ん。ほかの複製と同じ。変更できない」

「まぁ、そうだよねー。ほかの迷宮で見た迷宮核って複製より大きかったもんね」

「んー、実際はこの迷宮核だ、って部分だけで構成されてるわけじゃ無い」

「そうだったの?」

「ん、そう。この柱の中にも重要な機能を持つ魔法陣が焼き付けられてる」


 複製の核でさえ、見た目以上に大きな物であるとリアーネは柱に手をやり言うのだった。


 ◇


 リクハルド達の調査中に、錬金組合(ギルド)所属の研究者を含むリアーネ達は考察を進め、迷宮核が霊脈と接続した可能性が浮上した。

 これはノィエトゥア迷宮が、元々不可解な性質を持っていることに端を発する。


 ほかの迷宮と違い所在地周辺に無い環境や生息しない魔獣を元にした魔物が現れることが説明できなかったからだ。


 これが、霊脈を通じて別の地の情報を取り入れてできた迷宮であると仮定すれば、空間的に断絶していようとも、魔力的には連続した迷宮を構築できるのではないかというものであった。


 そうであれば迷宮核の転移機能が遠隔地であっても機能する可能性があり、登録さえしていれば転移ができるとの仮説の下、探索者経験のある者に登録した迷宮の情報を聞き取りそれらへの転移が可能かどうかが調べられることになった。


 そうして攻略済み、攻略中の迷宮内に転移可能な場所が無かったことが確認されることになる。



 また、リアーネの二つ目の仮説を元に現れる地形や魔物の傾向を考えた結果、転移元の迷宮の所在地は大陸南端部の氷に覆われた地域だろうと考えられた。

 もっと言えば、迷宮核の開発されたとされる地であるトゥッカー王国の王都郊外にある迷宮が有力な候補地だとされた。


 それを確認するためにも、ノィエトゥア迷宮で登録した探索者を送り出して、転移が可能なのかを試すことが決められた。

 ただし探索もされていない迷宮に対しては、拠点の確保から始める必要があるために大部隊の派遣が必要だと考えられる。



 あるいは、もっと深くに迷宮の続きがあるのではないかとの考えの下、地下深くへと坑道を掘るための魔導具の開発の必要性が提唱された。

 後に、この魔導具が迷宮深部への進入口を造って最下層へと到達できるようになり、設定の書き替えの終わった迷宮が一気に増えることになる。


 ◇


 十月、攻略済み、もしくは攻略中の全ての迷宮からは転送できないことが確認された。

 この間ラウリーとルシアナはノィエトゥア迷宮の魔物狩りに参加する。


 リアーネはゴーグルなどの魔導具の作成を片手間にしつつ、掘削用の魔導具や魔力濃度計測器などの開発を始めていた。

 レアーナは魔物素材の取り扱いを教わるために、祖父の指導の下で鍛冶師としての腕を上げるために、鍛冶に打ち込んでいた。


 そしてロレットは魔法薬や迷宮攻略に使われる煙玉などの小物を作るために、マリーレインの下で助手となっていた。



 調査の結果如何によっては、遠く離れた迷宮間での転移が可能となるので、迷宮の重要性が高まると考えられ、街の拡張工事についても議論が始まった。

 そのためラウリー達も迷宮に潜るだけでは無く、地上で狩りや護衛を行うことも増えるのだった。



 年が明けた頃に地中海沿岸の大都市メディナトーレへ到着した調査団は、大陸東部のメークリヴァナ方面へ沿岸沿いに向かう船団と、南岸沿いに南東部へ向けたバーリジョン方面を調査する船団が出発。


 ラスカィボッツ近傍の川を西へ下った先の三角州に築かれた港町デウタからは、大陸西部沿岸をぐるりと廻りトゥッカー方面を調査する船団が出発する。


 メークリヴァナ方面にはイルファン達の班が、バーリジョン方面にはアーロイス達の班が、そして本命と考えられるトゥッカー方面にはリクハルド達の班が同行することになった。


 ◇


 五月初旬。


「みなさん、お久しぶりです!」

「「「おかえりっ!」」」


 ノィエトゥア迷宮へとリクハルド達が転移で戻って来たのだ。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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