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ねこだん!  作者: 藤樹
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166 食べ歩きと収穫祭

 五十八層は迷路の広がる階層となっており、地図作成機能が描き出すのは五十五層辺りからと同じく迷宮核の複製が三つあるだろう広さがあった。

 それだけでも面倒臭くなるのだが、追い打ちをかけるように寒さが厳しい階層であるために、双子などはお互いに抱き着き震えていたのだった。



 五十九層は押し固められた雪が凍り付いた山肌を、柔らかな新雪が覆い隠したような階層であったため、猫人族の四人は大いにやる気が削がれており、何事も大雑把に済ませてしまっていた。


 それでも迷宮核の複製のある小部屋は、壁と天井に床まで綺麗に木材で囲い断熱性能の高い扉を付けて寒さを和らげていた。快適な環境を造り上げたリアーネは、猫人族には称賛されるが、ほかの者達にはやり過ぎだと呆れられていた。


 この迷宮で初めて出くわした魔物の中では、氷岩(ヒョウガン)鳶らしき魔鳥は特に印象的で、迷宮下層で変質したのか翼は透き通った氷でできていた。

 そのほかにも氷の礫を放つ魔物が多い中で、火をまとう鼠の存在は特に記憶に残ることになった。



 六十層にも迷路が広がり寒さに震えながらも、足を捕られる雪が積もっていないことは、ありがたいと思う一行であった。


 山の斜面のような階層の後だからか、段数の少ない階段や斜面、段差によって階層全体として見ると傾斜した構造になっていたため複数階の迷路を越えた気分になり、予想以上に疲れるのだった。



 そうして季節は秋の中頃を迎え、六月末の収穫祭の前日となっていた。


 ◇


 テルトーネへと場所を移したラウリー達は、一緒に回ろうとやってきたルードルフ達を交えて屋台を巡り歩いていた。


「買いにきたよー!」

「あっ! ラーリちゃん先輩! いらっしゃいませっ!」


 盾の乙女寮の屋台を見つけたラウリーが声を掛けると、兎人族の少女の耳がピンと伸びて声のほうへと向き、遅れて視界にとらえて人物を認識するなり嬉しそうに答えるのだった。

 寮の後輩の少女三人が手作りの菓子を販売しており、皆で一つずつ買っていく。


「ん。……ん」

「リーネちゃん先輩……満足そうなの判るけど、感想ちょうだいー」


 早速口にして機嫌良さそうに尻尾を揺らすリアーネに胸元で拳を握り締めて頬を膨らます。


「学院卒業したら狩人(ハンター)になるつもりなんだけど、指導員になってくれますか?」


 そのうちの一人、背の高い馬人族の少女が尻尾をフリフリ期待と不安の混ざった目で見つめながら聞いてくる。


「ラーリ? リーネ? それとも……」

「ボクかな?」

「ん。魔導具師の道は険しい。もっと魔力操作を鍛えるように」

「鍛冶なら見てあげても良いかも」

「じゃあ、魔法薬なの?」


 予想と違った反応に目を丸くした少女は、意味のある言葉を続けられなくなっていた。


「人気者だな!」

「実際の所、狩人(ハンター)組の組長(チーフ)の裁量だし、今は探索者として活動してるからなぁ……」


 ローラントが指導員を誰が決めているのかを教えると、気を落としながらも礼を言うのだった。

 厳しい面はあるけれど優しく教えてくれるだろうと伝えたうえで、いつでも相談に乗ると励ますのだった。



 ほかの屋台でも色々と買い込んで、美味しい、いまいちと評価を下しながらも、気が付けば神殿前の広場までやってきていた。

 舞台の上では歌舞の奉納の合間に行われる、街の人達の演奏で青年が情熱的に恋歌を熱唱し、友人らしき数人が囃し立てていた。


「おぉ、喉大丈夫かなー?」

「ん。無理してる」

「うーん、あれかな? 顔真っ赤だね」

「いーなー……」

「レーア?」


 舞台の前方で顔を赤らめる少女が熱心に見つめているのを、レアーナが羨ましそうに見ているのだった。


「なっ!? いや、別に、そんな相手居ないからねっ! それより、ほらっ! ご飯! そうだよ、どこかでご飯にしよう! なっ。みんなも、おなかへった、よねー?」


 生暖かい目で見られて焦り始めるレアーナを、解っていると頷くだけで済ますため、余計に取り乱すことになるのだった。

 からかうのはもう終わりだと、強引に話題を変えようとするレアーナの言葉に乗って、皆で食事処へと行くことにした。



 刺身や炙りから塩焼き煮付けに衣揚げなど、様々な調理法で魚の美味しさを引き出してくれるために特に猫人族に人気が高い、熊人族の料理長ルクハンスの食事処へやって来た。

 最近では迷宮産の海水魚が安定して入るために、連日多くの猫人族が押しかけていた。


「おっちゃん! あれとあれ、それからこの辺と今日のお薦めお願い!」

「あいよー! たまには、ほかの料理も頼む気はないのか?」


 最近のラウリーは休養日に迷宮で釣りをすることも多く、ノィエトゥアだけでなく魚を卸しているため、お薦めの料理もよく知っていたのでササッと注文を済ませていた。

 ルシアナ達も居るために肉料理も交えて注文してはいるのだが、ルクハンスは魚の割合が多いことに若干の呆れと諦めの声を溢すのだった。


 すぐに準備のできる物から順に料理が並べられていき、ラウリー達は飲まないがルードルフとローラントは酒杯を傾け食事に手を付ける。


「そういやラウリー達は酒は飲まないよな?」

「うーん……美味しい? ラーリ良く判らなかった」

「ん。飲んでも喉が渇くだけで、あんまり興味がない」

「ボクは甘酒なら好きだけど」

「うちは、とにかくお酒! って感じでもないかなぁ」

「レーアは変わった髭小人なの。私も甘酒以外は、お薬の調合に酒精を使うくらいなの」


 お酒に興味が無さそうなのが判れば、下手な飲み方をするよりも余程良いとだけ言って、話題を料理に変えるのだった。



 食事で腹を満たせば、賑やかな街へと繰り出して露店の並ぶ一画へと足を向けていた。


「リーネ、これなんだろ?」

「ん………、音声の録音再生する魔導具だね」

「じゃあこれは?」

「丸鋸だね。これだったら、うちでも判るよ」

「こっちは時計なの」


 並べられた沢山の雑貨を手に取り話していると、店主が説明は必要かと聞いてきた。


「お嬢さん方は魔導具も詳しいようですね」

「ん。でも、どれも随分と古い型だから、迷宮から出てきたのじゃないかな?」


 リアーネの指摘に驚いた顔を隠しきれずに、同意を示して話し出す。

 ここに並ぶうちのいくつかは、ノィエトゥアの迷宮で手に入った物らしく放出品であったのだ。どれもこれも現在手に入れられる物とは意匠や形状、大きさなどが違っていた。


「ん。こっちは大きすぎるし、この意匠は好き嫌いが別れる。この辺のは機能が低いから幼児のおもちゃには良いかも?」

「ははっ。こりゃ手厳しいお嬢さんだ。では、こちらなどは、どうでしょう!」

「「「あー………」」」

「店主。薦める相手が悪かったな」

「だな。僕なら帰ってヤケ酒でもするところだよ」

「と、言うと?」

「リーネの開発した魔導具だよ!」


 店主の手にする魔導具化された泡立て器を指して、ラウリーは胸を張って答えるのだった。

 卵などの混ぜ作業を手軽にできるように開発して、行動食としてのお菓子を自分達で作っていたのだ。ほかにも調理を助ける魔導具の改良や開発も行っていたのである。


「なんとっ! え? でも、この開発者は数々の魔導具を世に出していると……えぇ? 本当に?」


 店主も魔導具を扱うだけあり錬金組合(ギルド)に登録されている魔導具について詳しいらしく、リアーネの開発品のことも知っているようで、随分と驚くのだった。

 残念ながら掘り出し物と言える魔導具とは出会うことなく、散策を再開することにした。



 日が暮れてくると街中に吊るされているランタンに明かりが灯り、まだまだ賑やかな時間が続いていく。


「あー、やっぱりこれが無いとお祭りって気がしないよねー」


 いつの間にか定着しているプリンのパイ包み焼きを食べながら、祭りの夜は更けていく。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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