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ねこだん!  作者: 藤樹
171/218

165 探索報告と翼岩竜

「おかえりなさいませ!」


 五十八層に到達して転移で帰ってきた一行は、受付嬢の元気な声に迎えられた。


「五十七層も初見の魔物に会ったよー」

「ん。猪……多分土属性。他にも居た」

「あの猪って確か砂まみれだったよね」

「うちらは計画通りこことここに階段、で、こっちに橋架けてきた」

「それから、この領域(フィールド)で癒属性の強い魔法薬に使えそうな蒼紫蘇(アオジソ)の変種を採取したの」

「素材は魔物と一緒に解体所で受け付けるわね。それで、ほかに気になったこととかある?」


 イェニーナの言葉に写真と地図の覚え書きを頼りに、探索行を思い出しながら報告を続けるのだった。


 ◇


 岩肌の剥きだした斜面が続き樹木などはまばらにあるだけの殺風景な領域(フィールド)が多くあり、階段や橋を設置するには楽な階層であった。


「こう度々足止めを喰らうと、魔物が寄ってきてばかりで、そのうち狩り尽くすんじゃないか?」

「バカ言え。これくらいで狩り尽くす程しか居ないわけないだろ」


 リアーネとレアーナが階段を造る周辺で警戒していた虎人族の二人が、体長二メートル弱の赤黒い頑丈な鱗と金色に輝く角を生やした蜥蜴の魔物を仕留めた所であった。

 その後も近付いて来るたびに魔物を狩っていると、一刻近く経った頃には立派な階段が完成しており、リアーネとレアーナが休憩を取ってから一行は探索を再開する。


 ◇


「いや、リアーネ達の作業は本業だって言われても遜色ない手際で進むからな」

「あぁそうだよな。それでいて足手まといの建築組合(ギルド)の連中じゃ無く、立派な探索者なうえに魔導具にも世話になってるからなぁ」

「俺らももっと活躍の場が欲しくなるよ」

「あぁー……。リーネちゃんは、まぁ、凄いですよねー」


 遠い目をしながらも報告するほかの班の者達に、イェニーナは同意することしかできなかった。


「そうそう! こいつ。猿の魔物! またやり合ったんだけど、あれは気を付けたほうが良いよ」

「全くじゃわい。危うく得物を無くすところじゃった」


 大型表示板に映された猿の魔物を指差して、森人のリクハルドが嫌そうに言うのに、髭小人のスレヴィが戦槌に手を添えながら、しみじみと同意した。

 その横ではラウリー達も別の大型表示板で写真を前に、尻尾を揺らしながら楽しそうに報告をしていた。


「猫居たよねー」

「ん。栗鼠を狩ってた」

「お前らは結構遊んでたよな……」

「なんというか、まだまだ余裕がありそうだよ」


 ほかの班員達もラウリー達の探索方法に慣れてきたとは言っても、未だに迷宮探索の持つ印象との齟齬を受け入れ切れていなかった。


 ◇


「平らな地面、安心するー」

「ん。森の中は気持ちいい」

「いや、地面って……?」

「さすがに、うちもわかんない」

「なの。ちょっと、これは、気を付けないといけないの」


 緩やかな斜面に樹々の生い茂る領域(フィールド)を進んでいるときに、ラウリーとリアーネの発言で皆を呆れさせるが、簡易舗装機を使った場所以外は、どう見たところで斜面が続き木の根や下草に覆われた地面は平らと言える状態ではなかった。


 そんなラウリーとリアーネは体長一・五メートル程もある大きな飛蝗らしき魔物の背中に立っていた。

 のそのそと歩く倒木のような見た目の飛蝗は一行が近付いても何をするでもなくのんびりと歩いており、一通り撮影したラウリーが止める間もなくその背に跳び上がったのだった。


 ハラハラと見守るルシアナ達は、魔物を仕留めたほうが良いのかどうかと迷っていた。


「あっちの反応は……、猫かな?」

「ん……? かな? キラキラしてるね」


 パチリと撮影するラウリーと双眼鏡越しに確認するリアーネは、随分と楽しんでいるらしく尻尾がゆらゆらと揺れていた。

 ラウリー達の見ている前で体長一・五メートル程の猫の魔物は、軽快に木を登って栗鼠の魔物を仕留めるのだった。


「おぅ、待たせたな。問題は無かったろうが何かあったか?」

「なんで魔物に乗ってるんです?」


 スレヴィが弾かれて取り落とした戦槌を、炎をまとって飛び回る体長二メートル程の猿の魔物に持って逃げられ、追いかけたリクハルド達の班員一同が、無事に仕留めて戻ってきたのだった。


「大丈夫ー。そっちは?」

「ほれ。ちゃんと取り戻したわい!」


 一時離れていた同行者が戻ってきたことで、隊列を組みなおして探索を再開した。


 ◇


「でだ、今回翼岩竜(ヨクガンリュウ)らしき翼竜を狩ってきたんだが、やっぱり姿が随分違うんでな、解体のときに確認するように言うつもりだ」

「あいつは翼竜じゃ無く、もうほとんど岩だったよな」


 梟人族のカルロスの言葉には誰も異論が無いようで、そろって頷くだけだった。


「見つけたときは驚かされたよ」

「ありゃ、お前が悪い」


 深く息を吐き出して言う竜人族のイルファンに、もう一人の竜人族のライアンが切って捨てるのだった。


 ◇


 一行の行く手を遮るように、一際大きな岩があるのだった。

 その岩は苔むした様子もなく、ゴツゴツとした白っぽい岩肌が見えていた。


「ん? なんで?」

「リーネ? 問題でもあった?」

「ん。その大きさの岩があったら、地図に反映されてるはず」

「ってことは、ここにあるはずの物じゃ無いってこと?」

「あの辺魔物が居るみたいだけど、岩の向こうに隠れてるのかな?」

「でも、魔物の反応の表示がおかしくない?」


 ラウリー達が撮影しながら話しているうちに、岩の向こう側を確認した竜人族の二人は魔物を見つけられずに困惑するのだった。


「なんだ? 向こうに移動したのか?」


 武器を構えて岩の周りをグルグルと廻って確認しても、一向に見つかる気配は無かった。


「おいっ!? イルファン、その岩から離れて!」

「どうしたんだ。魔物の居場所が分かったのか?」

「あぁ、判った。だから、早く、その岩から、静かに、離れよう」


 焦ったように途切れ途切れに言ってくる猫人族のレーヴィも、後ろに下がりながら銃を構えているのだった。


「ふむ。この岩に何かあるのか?」


 手を伸ばしてゴンゴンと盾で岩肌を叩き始めたイルファンに、何をやっているんだとレーヴィが思わず叫ぶ。

 その頃には周囲の者達もどこに魔物が居るのかに気が付いており、いつでも攻撃できる体勢を取っていた。


 ガァァァァアアアアアァァァァァァァァァァッ!!


 周囲の土砂を撒き散らすようにして、縮こめていた体を開放し大きく伸びをするように動き出したのは、目の前にあった大きな岩であった。


「なっ!?」


 至近に居たイルファンは弾かれて倒れ込むが幸いにも大した怪我も無く、剣を確かめ大岩に目を向け、驚きに目を見張るのだった。

 そこにはかろうじて翼竜だと思われる形状をした、体長二十メートル程はある岩の魔物の姿があった。


 小さな翼をはためかせ、大きな胴体を重そうに揺らしながら土を振り払い、ゆっくりと脚を進めると、それだけで地面が揺れたように感じる程に重量感のある魔物であった。


「ん。いっぱい仕掛ける!」


 リアーネの声に賛同するようにラウリー達は腰鞄(ウェストポーチ)から取り出した落とし穴の魔導具を、魔物の進路を遮るように仕掛けるのだった。


 見事踏み抜き左脚を捕られるが体が大きすぎて完全に嵌まり込むことは無く、動いた拍子に別の落とし穴の魔導具も起動して、両脚を捕られることになる。

 脚が短いのか小さな穴にすっぽりと嵌まってしまったからか、体を揺するばかりでその場から動けなくなっているようだった。


「今のうちだ!」


 誰の声だったのかを確認することも無く、射撃がひとしきり済めば前衛の者達が間合いを詰めて斬り込み、打ち下ろす。


 翼竜が光を発したと思えば、連撃を加えようとしていた者達の足元から、石の槍が貫こうと勢いよく生えてきた。

 体勢を崩して弾かれるたり余裕をもって避けることによって翼竜から前衛が離れると、準備の終わっていた魔法と射撃が放たれた。


 攻撃を浴び続けながらも魔法の光を放ち続け、近付けないように次々と石槍が突き出してくる。その間に翼竜は足場を造って、落とし穴から抜け出そうとしていた。


 近付く必要のない攻撃だけで対処ができると思われたのが、脆くも崩れ去りそうになり、石槍を足場に虎人族のディートリヒとゲレオルク、ウオレヴィの三人が斧槍と双剣を振り被って飛び掛かる。


 足元を確認するようにそろりと踏み出した翼竜は、迎え撃つために大きく息を吸い込むのと連動するように口元に光が集束し始め、眩い光をともなった炎の熱線が撃ち出されるのだった。


「「「うぉわっ!?」」」

「「「にゃあっ!!」」」


 頭の動きを追いかけて横薙ぎにされた熱線を慌てて避けるために、皆は飛び跳ね、転がり、木の影に身を隠すのだった。

 虎人族の三人は、熱線の衝撃に弾かれて体勢を崩してしまったために、攻撃は掠めることしかできなかった。


 いくらか余裕を取り戻した翼竜は、小さな翼を魔法の光で包み込み羽ばたかせながら浮き上がると、巨体で押し潰そうと降りてきた。


「来たっ!」

「ん。世界を支える大樹の子よ、境を隔てる盾となれ………『樹壁』!」


 ドスンッ! と翼竜の降りた場所からは既に誰の姿も無く、皆は十分な距離を取っていた。それだけでは無くその場所には落とし穴の魔導具が残っており、折よく起動した落とし穴に足を取られて体勢を崩したところをリアーネが『樹壁』の魔法を放ち、拘束するように木が絡みついていく。


 石槍を警戒して『浮揚』で上空から背後に位置を取り、射撃と魔法が降り注ぎ始めると、炎の魔法が届く範囲に一行が立ち入らないためか一方的に攻撃を掛けて仕留めることができたのだった。

 皆は疲れ切って下層へとたどり着き、早々に地上へと転移する。


 ◇


「確かに記録にある翼岩竜(ヨクガンリュウ)とは違いがあるようですね」

「綺麗に撮れたでしょー!」


 得意げに尻尾をフリフリ言うラウリーには、有効な攻撃ができそうに無い相手であったために、写真機(カメラ)を手に撮影に徹していたのだった。

 一通り報告が終われば解体所に場所を変え、浮揚車(エアーバイク)三台分以上の素材を確認してもらうのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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