161 攻略補佐と回収機
「掃除機型だよねっ!」
「いやいや、たも網で掬う感じじゃ無いの?」
「なんか、こう……棒の先っぽにくっつく感じとか?」
「うーん……、何にも思いつかないの。それでリーネ、どんなのにするつもりなの?」
ラウリー達は魔石の回収用魔導具について、思いついたことを話していた。
それを聞きながらもリアーネは光魔法をこねくり回して、有用な魔法陣の模索を続けていく。
「ほれ、資料集めてきたぜ!」
「ルー、乱暴に扱わないで。こっちは魔法の資料だ。それにしても、もうこんなに目を通したのかい?」
ルードルフとローラントが手伝っているため、ラウリー達はリアーネの傍で色々な案を出しているのだった。
ここはテルトーネの錬金組合の作業室であり、資料の少ないノィエトゥアから移動していた。
「んー……勢いよく風を吸い込んで魔石を回収するとゴミごと集めることになるから、選別が大変だしゴミの分、重くなるから掃除機型は無し……? ん、無し」
「えー……じゃあどうするのリーネー」
「ん、『念動』使えばいいと思う。魔石の選別が必要だけど、それはできるし」
「魔石の選別って……?」
「ん、ゴーグルでやってる」
「そっか!」
模型作成用に持っていた木材を変形させて鞄型の小箱を造り、魔法鞄の魔法陣や魔石選別用の魔法陣に『念動』を中心とした回収用の魔法陣などを組み込んで、午前中だけで試作を完成させるのだった。
昼食中の雑談で、実際に迷宮へ行って試してみようということになった。
「いいけど、ルーとローは何層まで行けるようになったの?」
「十八層で登録したばっかりだな」
「あぁ、ゴーグルのおかげで迷路が楽に進めるのはありがたいよ」
「ん? 早くない?」
「そりゃ、早く追いつきたいからな!」
「ちゃんと休養日取らないと、怪我じゃすまないよ」
「心配しなくても魔法薬は沢山持って行ってるから大丈夫だよ」
「いや、それ大丈夫じゃないって」
「そうなの。怪我しないのが一番なの」
二人の無茶な探索に注意をしているうちにノィエトゥア行きのバスがやってきた。
「あら? 今日はどうしたの? 班を組むにしても、ルードルフ達はまだ追いついてないでしょ?」
狩人組合では受け付けに居たイェニーナが、今日は迷宮探索の予定が無かったラウリー達を見て声を掛けたのだ。
「ああ、リアーネちゃんの新しい魔導具の試験運用だから、俺らが行ける階層で問題無いんだ」
「そうなんだー。ちょっと行ってすぐ帰ってくるよ!」
「ん。みんな準備は大丈夫?」
「「「大丈夫!」」」
七人で転移して小部屋から出た十八層は、山頂から山裾までをいくつもの領域に区切ったような構造をした階層をしていた。ラウリー達の降り立った場所は山頂付近の領域であり、下層の階段まで最短で行くための経路は、ずっと降りが続いていた。
目の前は岩の多い場所であり、申し訳程度に見られる小さな窪地から下草や低木が顔を出していた。
「じゃあ、ついでに一つ下の層まで行く?」
「なに気軽に言ってんだよ。……本気か? そこまでの準備してねえぞ」
「まったく。散歩感覚ですか。まぁ、これのおかげで問題無いと言えばそうなんだけどね」
驚くルードルフとそんな気はしていたと魔法鞄をポンと叩くローラントは、深く息を吸い込み気合いを入れなおした。
魔鳥が多く向かってくるのを射撃と魔法で撃ち落とし、魔石が斜面を転がっていく。
落石の溜まりやすい場所があるのか、いくつかの場所にまとまっていることもあり、リアーネは紐を通して背負った試作魔導具を起動させるのだった。
「んっ! あっ! にゃっ!」
「「「リーネ!?」」」
魔石の落ちている場所に一定距離まで近づくと試作魔導具の上部に開いた口に向かって魔石が飛んできて、そのまま回収される物もあるかと思えば、リアーネにぶつかる魔石もあって軽い痛みと驚きで思わず声が出たのだった。
「ん………、ひどい目にあった」
「わはははっ! 何だそりゃ、そんなことになるのか!」
フルフルと尻尾を震わせるリアーネは、停止させた試作魔導具を手にして口の部分を魔石に向けて起動すれば体にぶつかることなく回収が進んでいくことを確認すると、その場で改造を始めるのだった。
漏斗のように先の開いた円筒に銃のような持ち手と起動用の引き金を付け、円筒と背負った小箱を導管が繋ぐ形となる。
「改造終わり?」
「ん。これで大丈夫なはず」
導管を脇の下から通して拳銃のように持ち、魔石に向けて起動するようになっていた。
その後、幾度かの狩りと魔導具の動作の確認をして細々とした使い勝手の修正や形状の修正、回収容量を考慮して背負い鞄が不要であると結論付けて、円筒の部分を収納空間として利用することになった。
「最初の物からは随分と変わったね。いつもこんな感じなのかい?」
「ん。いつもはもっと考えてから造り始めるから、あんまりない……かな?」
「だよね! もっと部品の構造とか配置とか個別に実験してから造ることが多いよね」
ローラントの疑問に答えるリアーネと、補足するラウリーである。
「でも結局、掃除機みたいな形になったよね!」
「あぁ、そういえば、そんな風にも見えるよね」
「なるほどなの! こんな形の掃除機があってもいいかもしれないの!」
幅広の吸い込み口と円筒に持ち手がある形状は、掃除機の先端部分に印象が似ており、小さな車輪の付いたゴミを回収する部分を初期形状の導管と小箱に見立てれば、ほぼ掃除機と言っていいようなものであったのだ。
「ん、そう……かも?」
耳を倒して何とも不服そうな表情をしてリアーネは答えるのだった。
途中で翼翠竜が現れて銛撃ち銃で簡単そうに仕留めたときには、ルードルフとローラントは驚き過ぎて言葉が上手く出てこなくなっていた。
日が暮れる前には地上へ戻って食事を済ませ、ルードルフ達も宿が同じだったので一緒に戻ってきた。
それから持ちやすさなどを修正し資料の作成をして、翌日には合同組合支部で登録をするのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。