159 巡り合いと食事処
「飯食いに行こうぜ!」
「ルー……。それより新作の魔導具のことを聞くのが先だって」
合同組合支部で登録を済ませて狩人組合にやってきたラウリーとリアーネに、ルードルフとローラントの猫人族の双子が話しかけてきた。
「ルー、ロー、迷宮はもう行った?」
「ん。新作は色々ある」
一緒に卓を囲んでラウリーはルードルフに迷宮について聞き、リアーネは魔導具を腰鞄から取り出してローラントに説明を始めるのだった。
「ここの迷宮ほんとに変わってるよな。一層目に迷路の階層が無いのって危なくないか?」
「うーん? 扉のすぐ先に大っきな部屋を造って無かった?」
屋台で買い込んできた甘味を食べながらも話が続き、一緒に昼食へ行こうということになった。
「せっかくだ、どこかいい店を教えておいてくれないか」
「そうだね。僕達はこの街に来たばかりだからね」
「じゃあ、あそこが良いね。リーネどう?」
「ん。良いと思う」
案内した食事処はテルトーネに在るルクハンスの店には一歩譲るが、ラウリー達が魚を釣ってきたときに卸す代わりに料理をお願いすることがある、腕の良い料理人の居る食事処であった。
注文を済ませて待っている間に、そんな話をしているのだった。
「そうか、ここの迷宮の中に釣り場があるのか……何層だ?」
「二十八層だよー。頑張ってねー」
「まだまだ先だ。僕達はまだ一層を軽く見て回っただけなんだからな」
早く行こうと急かすルードルフをローラントは軽く流して、同行者の都合や探索計画はこれから立てるんだと、言って聞かせるのだった。
「前に会ったのはランビトの街だったねー」
「ん。色々案内してもらった」
ラウリー達はその頃のことを思い出すのだった。
◇
岬の街シャッバージェラから東へ向かう街道は、見渡す限りの草原の中に直線かと錯覚するほどに、真っすぐで平坦に整備されていた。
バスの窓から外の様子を眺めていると、時おり切り開いた森の境を見ることができたが、ランビドに近付くにつれて森が深くなっていくのだった。
北側に見えてきた山裾を回り込むように進んで着いたのは、山の斜面から港まで続く大きな都市であった。この辺りはまだ野生化した魔物が多く見られるためであろうが大きく立派な壁が農地ごと都市を囲んでいた。
迷宮氾濫以前はこの辺りを納める国の王都のあった場所であり、都市の大きさの由縁でもある。この街は解放されてから十年と経っていない地域であるためか多種族が混ざり合い、若い世代が多く住んでいるようだった。
壁を越えて中へ入ると、小麦畑が緑の絨毯のように広がり風になびく風景がしばらく続く。街の建物に近付くにつれて、小麦以外の野菜類の畑に変わっていった。
農地を過ぎて街中をバスが進み始めると、これまで見てきた建築様式とは大きく変わり、木造三階建ての家屋が立ち並んでいる風景が窓の外を流れていった。
途中の中継点を経て昼過ぎに街に到着して、早々に錬金組合で魔法陣の登録を行い、その後はほかの組合での登録も済ませて、宿を取りお風呂と夕食を済ませて床に就く。
翌日は朝から狩人組合に顔を出し周辺の魔獣や魔物、迷宮のことなど情報収集に当て、昼食後は別行動である。
リアーネは錬金組合でほかの街でも行っていた魔導具作成の指導を行うのだった。
ロレットも錬金組合に行くが作るのは主に自分達用の魔法薬である。
ラウリー達三人は街の探索に出かけて消耗品の買い出しなどを行っていた。
更に日が明けて、まだ空が薄暗い頃、ラウリー達三人は出かけていた。
狩人組合で教えてもらった港から海岸沿いに北へと進んだ崖下の、沢山の釣り人の居る岩場であった。
「もう来てる人いるんだねー」
「ラーリのお仲間だね」
「うちらのお仲間も居るみたいだし、みんな苦労してるのかも」
いくつかの集団に別れて固まっているが、どこも中心になっているのは猫人族であるようだった。
そんな彼らとは、ほどほどに距離を開けて場所を決め、腰鞄から釣り道具などを取り出していく。
ラウリーは黒眼鏡も掛け準備を終えると、まず何はともかく竿を振る。
ルシアナ達はひとまず湯を沸かしてスープを作り、持ってきたパンを取り出して朝食の準備を終わらせてから、ようやく竿を振るのだった。
それからは食事をしながらのんびりしていると、若者が声を掛けてきた。
「よぅ! 初めて見る顔だな!」
竿や釣りの道具を手に今から釣り場を決めようとしていた少しだけ年上かなと感じる同年代の猫人族の青年が、いつもは見かけないラウリー達に気が付き人懐っこそうな笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「そうだよ。ラーリ達この街に来たばっかりなんだー」
「そうなんだ。俺は一年くらいか? 何か狙ってる魚はあるのか?」
「特に狙いは無いかな? しいて言えば、一番は美味しいお魚、二番大きなお魚、三番ここならではのお魚……って感じ?」
指折り条件を数え上げるラウリーはいつにも増して楽しそうである。
この場で釣れる代表的な魚の種類にそれに適した仕掛けなど、説明ついでに一緒に釣りを始めるのだった。
ラウリー達の釣り上げる速さに驚かれ、理由を聞かれて黒眼鏡のことを話し、使ってみるかと試させてみれば、笑いが止まらないという勢いで機嫌よく尻尾を振りながら沢山釣り上げていくのだった。
「いやー、凄いもんだ。この眼鏡、ここらで手に入れられるのか?」
リアーネが開発し錬金組合に登録したから、作成依頼を出せば早く手に入れられると話していると、周囲で釣り糸を垂らしたままの釣り人達が近寄ってきたために、突発的な黒眼鏡の説明会が始まったのだ。
昼になる前には気が済むほどの釣果となっていたので引き揚げることにしたのだが、美味しく調理してくれる食事処を教えてくれるというので、一緒に行くことにしたのだった。
一方リアーネが指導を行っている頃、探索者向けの新しい魔導具があると聞いて錬金組合まで作成依頼に来ていた猫人族の青年が、丁度開発者がほかの魔導具師に作成指導をしていると聞いて見学を希望した。
昼を前にいったん指導が終わり、食事にしようとリアーネを呼びに来たレアーナが話しているところへ青年が近付いていく。
「すまない。君の開発した魔導具のことを聞きたいんだが、どうだろうか。今から食事だと聞こえてしまったのだが、同行させてもらっても?」
「ん? 別に構わないけど?」
リアーネはどうしようかとレアーナに目を向ける。
「リーネが良いんなら、問題無いでしょ。こっちだって一緒に釣りして、お薦めの食事処を教えてくれるっていう、お兄さんと一緒だからねー」
「ん。そういうことらしい」
そうして青年を交え、魔法薬の作成をしていたロレットと合流してから食事処へ向かうのだった。
「ロー? 今日は別行動だったろ?」
「ルー? この店、教えたのお前だったのか」
二人の青年はお互いに指をさして声を上げていた。
「お兄さん達そっくりだね!」
「ん。兄弟?」
「「双子だ!」」
「おぉ、一緒だね」
ラウリーの言う通り、二人の青年は金髪翠眼と橙髪蒼眼という色味を除けばよく似た容姿をしているのだった。
「「君らも双子なのか!?」」
ラウリーとリアーネが双子であることに、どんな偶然だと驚きの声を上げるのだった。
◇
「そうそう、今でも覚えてるぜ!」
「だからこそ、こうしてこの街にやってきたんだ」
ようやく会えた嬉しさが揺れる尻尾と笑顔に表れるルードルフとローラントの二人であったが、ラウリーとリアーネは配膳されたばかりの料理に気を取られて気付くことは無かったのだ。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。