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ねこだん!  作者: 藤樹
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015 獣の痕跡と天導虫

「あなた、何か心配事?」

「ああ、昨日ちょっとな……森が荒れてた」

「そうなると、畑の方も心配ね」

「はたけ!」

「ん、見回り」

「「行ってくる!」」


 朝食時、両親の話を聞いていた双子はお手伝いを宣言すると、心配になる父親は一緒に行こうと目を光らせる。



 湖の南西に村があり、南から東には森、西に田畑が広がっている。森と畑の間には獣除けの柵はもちろん水路に水田が作られて、獣の被害を抑えている。とは言っても畦道もあれば、中には水田を狙ったり越えてくる獣もいる。見回り自体は欠かすことはできない。


 夏の日差しを受け、稲は青々と育っているのが遠目に見えてくる。手前に広がる畑では実を付けたものや花の咲くもの、まだまだ植えられたものなど沢山の種類の野菜が見られる。


 一所に同じものを大量にではなく、多数の品種がまとめて植えられる。連作障害を起こさずに、収穫量の多くなる組み合わせや、害虫対策のできる組み合わせが見つかるまでに様々な方法が試された。それら農業改革が起こったのは三百年近く昔のことだ。作付面積に対する収穫量が三倍以上になり耕作地の不足する人類を支える力となった。



 畑作業をする者達と同様に、麦わら帽子が日差しを遮る。

 耳をぴこぴこ澄ますラウリー。リアーネは鋭いジト目で警戒中。葉が跳ね音を立てると、手に持った草を突きつけ、虫だったかとしばし目で追う。


「でっかい! 光帝飛蝗!」

「ん。退治する?」

「いやいや、ほっとけば良い。飛蝗も他の虫も沢山で野菜を守ってくれるんだ」

「食べられない?」

「ん? 食べられる?」

「あーなんだ、手を掛け過ぎても、たいして収穫量は変わらない………らしい」

「「そっかー」」


 鎌を振り上げる虫、列をなす虫、忙しなく花から花へと飛び回る虫。沢山の虫が田畑を育てている。

 緋色鮮やかな翅鞘に包まれた天導虫が天を目指して草を登る。羽を広げて飛び立てば、後から後から飛び立って行く。

 そんな光景に見惚れる双子に警戒をする父の緊張を含んだ声が掛けられる。


「とーちゃ?」

「ん? どしたの?」

「向こうか? 見てみろ」


 父の示した先を見れば、草むらの揺れる音。水田の先の柵の向こうに何やら離れて行く影がある。


「ここにいるか?」

「いーやー!」

「ん。付いてく」

「なら、いつでも逃げられる準備をしておけ」


 腰のナイフを確認した双子、草持つ手を突き上げる。

 弓を片手に苦笑と共に慎重に歩き出す父。

 畦道を越え柵まで来ると、柵の一部に真新しい折れた痕。警戒しながら周囲を見ると柵の向こうの草が踏み折られているのが見て判る。待っていろと言って柵を越え周辺の確認をしていく。


「こりゃ、飛熊(ヒグマ)に間違いないな。帰って知らせなきゃ、危ないな」

「くま?」

「火熊?」


 帰り道、歩きながらも話すのは獣のこと。飛熊(ヒグマ)は手足の間の幕を広げて空を飛び、風を纏った爪で攻撃してくる危険な魔獣であるという。もっと奥地にいるはずが人里近くに出てくるのは何かしら起こっているのかもしれないから、勝手に森に入るんじゃないぞと、しつこい位に注意する。


「おーい、ダビー。向こうに飛熊(ヒグマ)が出たようだ!」


 道の先に見えてきた他の狩人(ハンター)に声を掛け、対策を考えるからと双子は家へ帰される。



 ◇



「天導虫ぶわーって!」

「ん。綺麗だった」


 家に帰った双子は今日あったことを母に報告。天導虫が一斉に飛び立つのは、何かの前触れじゃないかと古くから言われていると教えられる。


 飛熊(ヒグマ)の件に差し掛かると心配そうな顔になり、外に行くより服作りを手伝ってほしいと気をそらされる。ポケットの沢山ついたジャケットとキュロット、薄手の長そでシャツに膝上靴下、帽子に手袋と一揃えで森の中への探索用の服ができあがる。飛熊(ヒグマ)退治に行くためではなく、学院で森に行くときに使うようにと言い含められる。


「だいじょぶー!」

「ん! 信じて」

「………心配だわ」


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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