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ねこだん!  作者: 藤樹
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153 先行者達と雷皇竜

 三十一、二層の海の階層を越え、三十三層では十二層や二十三層同様に広い迷路が待ち構えており、魔物の種類も変わってきたのだ。


 三十四層は斜面や崖の多い階層で、移動するだけでも大変な階層であった。

 これから探索を始める三十五層も同様の傾向にあり、先行していたアーロイス班とリクハルド班も階段周辺の領域(フィールド)を二、三廻った程度の探索され始めたばかりの階層である。


 そこに追いついたラウリー達と竜人族のイルファンの班、合わせて四つの班が合同して探索を進めることになった。

 ここまでイルファン達と探索を共にしてきたために、ラウリー達も他班との連携も考えて動くことができるようになっていた。



「なるほどね、こうして見せられると良く判る」

「ねぇリック。魔法でこんなことできるんなら地図担当変わってくれない?」

「いえいえ。私になんてものを求めるんですか。こんなの再現できませんって」


 平面の地図に対しても、ある程度の高低差を予測することはできるため、リアーネが光魔法で描き出した地図を前に検討を進めているのだった。

 先行探索をしていた二つの班のうち金髪の猫人族の男性アーロイス班長は、地図を前に感心しきりであった。


 もう一つの班の梟人族の女性パウリーナが森人族の男性リクハルド班長に同じことを求めるが、無理だとすげなく断っていた。

 アーロイスとパウリーナの二人は各々の班で索敵と地図の作成を担当していたのだが、地図作製機などの登場により、索敵が中心に変わっていた。


「ん。この階層、これまでより領域(フィールド)の数が多くなってる。『浮揚』無しで進むならこの経路が良いけど、ここに階段を造れば遠回りしなくて済むから、こっちを推したい」


 複数の経路を目立つ色で表示している中で、最も短い物の色だけ変えたうえで、越えるための障害や造るべき階段なども描き出してリアーネは説明をしていく。

 階層の広さについては階層のどこかにもう一つ迷宮核の複製がある可能性をリクハルドが教えるのだが、リアーネの示した経路にそれらしき領域(フィールド)は見当たらなかった。



 新しく足を踏み入れた領域(フィールド)の状況を傾斜含めて地図を再現するために、リアーネは小さな魔石に直接焼き付け保存していた。おかげで各地の迷宮の領域(フィールド)地図が収められた魔石が特製の書類入れ(フォルダー)に整理し保管されている。


 ゴーグルや地図作製機は写真機(カメラ)の保存形式を参考にしているために平面の情報を残すことしかできなくて、情報量の多い立体地図を撮像札(Sカード)に収めることが未だできていなかった。リアーネはどうすれば実現できるかを、ずっと考えているのだった。



 三十四層が下りばかりであったのに対して、三十五層は登りばかりを進むことになっていた。

 上空から襲いくる魔鳥が多く、迫られる前に魔法と射撃で対処していく。


 力を持て余した前衛の面々は黄縞(コウコウ)蛇や大岩蜘蛛を蹴散らしていくが、弱すぎると不満そうにしているのだった。


 多くの魔物の素材を回収しながら移動するが領域(フィールド)一つで魔法鞄(マジックバッグ)一つ分も埋まってしまい、早々に浮揚車(エアーバイク)を使うことになる。各班一台ずつ貸与されていたが、レアーナが最初に使用していた。


「ねぇ、リーネ。浮揚車(エアーバイク)の持ち運び方考えた?」

「ん。まだ仮の方法。もっと巧いやり方を考え中」


 リアーネは階層間の階段をどうやって移動するかに頭を悩ませているようだった。

 浮揚車(エアーバイク)の登場以前は領域(フィールド)の移動中もその状態であったから全く苦にした様子は無かったが、今のところは大柄な同行者が素材で膨れ上がった魔法鞄(マジックバッグ)を担いで降りていたのだった。



 いくつもの領域(フィールド)を越えて移動を続け、階段を造る予定の場所が見えてきた頃、魔物の巨体も見えてきた。


「雷皇竜だな。ほかは……身を潜めている、か」


 梟人族の男性カルロスは鋭い眼差しで狙撃銃の照準器を覗き、上空から翼を広げて急制動を掛けて獲物に襲い掛かる姿を見極め判別する。


「西のほうに生息する翼竜だっけ?」


 猫人族の男性レーヴィは双眼鏡を片手に翼竜自体は確認するが、正体までは知らないようだ。


「ウィルド周辺でも時々現れるわね。何度か狩ったこともあるけど、あんな姿だったかしら?」


 パウリーナも双眼鏡で確認するが、全体的に濃い色で棘のような鱗が、記憶にある雷皇竜とは違って見えた。

 それぞれの班の索敵担当が魔物の正体を判別し、携帯魔導通信機で後方に控える者達に情報を伝えていく。


「カルロスが言うなら間違いないだろう。雷皇竜はジーゼンザンドの迷宮で何度も狩った相手だからね。それにしても、これ、便利だよね」


 以前はジーゼンザンド周辺を活動拠点としていたと言うアーロイスが携帯魔導通信機を手に、この階層はバービエント南方の山岳地帯の魔物が主流であるため間違いないと断言した。

 雷皇竜の特性などを話し、リアーネ達は通常弾代わりに使っている雷属性弾を抜き取り、出番の少ない対雷属性弾の準備をする。



 班毎に散開して静かに近付いていき、リアーネは足元が大きな岩であることを確認し巻き取り器を据え付けていく。ラウリーは銛撃ち銃を取り出し鋼索(ワイヤー)を繋いで射撃準備を整えた。


 他班に準備完了を伝えると、リクハルドが代表して秒読みを始め「撃て!」の号令と共に射撃と魔法が一斉に放たれていく。


 パパパパパンパパシュダンドシュッ! カカンッ!

 ギュオオォォォォォッ!! グルァッ!!


 あまりの量の攻撃にさらされた雷皇竜は爆炎などの魔法の副次的な効果によって攻撃者の位置を特定できずに、ただ苛立ちの籠もった咆哮を上げてから体勢を立て直し、光を発しながら雷を身にまとい始めた。


 雷皇竜は一定量の雷気を身にまとうと攻撃性が増し、行動が素早くなり掠るだけでも痺れる危険があるために、狩りの難度が跳ね上がるのだ。


「クソッ! 使われる前に行くぞっ!」

「「「おっしゃ!!」」」

「「「ダリャアアアァァァァァァッ!!」」」


 斧槍を手にした虎人族の男性アードリヒが声を掛けると、声を合わせてほかの前衛が雷皇竜に駆け寄っていく。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉっ!」


 噛みつこうと伸ばされた首を、イルファンが構えた大きな盾の下から突き出た杭を地に突き刺して巨躯に宿った怪力でもって受け止めた。

 その間にライアンの巨大な戦棍が、ディートリヒとゲレオルク、ルベルギッタの斧槍が叩き込まれていく。


「ん! 肉体を従える眩き御霊よ、仮初めの束縛をなす………『麻痺』!」


 鋼索(ワイヤー)から突き刺さった銛を伝ってリアーネの放った『麻痺』の魔法が雷皇竜へと流れていった。


 普通に魔法を使うよりも魔法を流しやすい魔法金属製の鋼索(ワイヤー)と撃ち込まれた銛によって、魔物の持つ魔法抵抗力を容易に越えて効果を表すことができるのだ。それに加えてリアーネが多く込めた魔力と魔法の熟練度合いの高さもあって、数える程の時間も掛からず、ビクリと震えた雷皇竜は身を横たえるのだった。


 熊人族の男性エーミールと大鬼族の女性ジャミーラが落ち着いて雷皇竜の首筋に剣を突き刺し斬り裂いて、ほどなくして動きを止めた。



「なぁ……簡単すぎやしないか?」

「ですね。これは私達も戦い方を考え直す必要があるかも知れません」


 アーロイスとリクハルドの班長二人がラウリー達に目を向け、話をしているのだった。

 周囲を警戒しながら『脱血』を掛けて回収し、休憩の準備を始めていく。

 リアーネとレアーナは崖の状態を調べて、岩から抽出した鉄と硬銀(チタン)を骨組みに岩をまとわせた立派な階段を造っていった。


 その間に寄ってきたのは中型以下の魔物ばかりで、危険を感じることも無くイルファン達が狩っていくのだった。



 一刻程も掛けて完成した階段を使って崖を登れば次の領域(フィールド)へと移動して、ほどなくして下層への階段に到達した。


「なぁ。儂らはこの扉の設置は毎回大変な思いをしているよな?」

「あぁ、そうだね。なんと言うか、彼女達は今まで見てきた探索者と違い過ぎるよ」


 髭小人のスレヴィが髭を触りながらリクハルドへと話しかける。

 その視線の先では、奥に階段のある通路を少し入った所の壁を整形しているリアーネとレアーナの姿があった。その脇には組合(ギルド)から持たされた扉が置かれており、枠が嵌まるようにと大きさの調整などをしているのだ。


 見てわかる程の速度で整えられていき、扉を持ち上げるのは『浮揚』や『念動』だけでもできたが細かな位置調整が大変なので大柄なイルファンとライアンが手伝い、あっという間に取り付けが終わっていく。


 扉の開閉の具合を確かめ問題無しと判断し、皆で階段を降っていった。

 ここまでの行程で浮揚車(エアーバイク)三台分の素材を回収しており、皆はまた運ぶのかと思っていれば、浮揚車(エアーバイク)の下面に登山扣(カラビナ)でロープを取り付け引っ張っていくのだとリアーネが手早く準備する。


 ラウリーとレアーナ、レーヴィの乗る三台の浮揚車(エアーバイク)は浮いたままを維持するだけで、虎人族のディートリヒとウオレヴィ、ゲレオルクがロープを持って移動すると、思った以上に軽い力で動かすことができるのだった。


「何か、今までの自分達がバカじゃないかと感じてるんだが……」

「ああ、あの嬢ちゃん達と行動してると、どうにも俺らはこんな簡単な方法すら考えてこなかったんだと落ち込みそうだよ………」

「その通り過ぎて、何も言えん……」


 魔法鞄(マジックバッグ)は内容量はともかく実際に掛かる重量は見かけ上と同じく最大の物で七十リットル程であるために、大柄な獣人たちにとっても魔物を狩る際には少々重いうえに大きさもあり邪魔になるようなものであった。


 しかし、階段を降りる分には魔法鞄(マジックバッグ)一つを担ぐのは苦にならないのだが、未攻略迷宮の最前線では得られる素材が多くなり二つ担いで降りることが続いていた。さすがに大変に思っていた彼らにとっても浮揚車(エアーバイク)の登場によって探索が楽になり、階段くらいは仕方が無いと思っていたのが、こんな簡単な方法で楽に降ろすことができるとは思ってもみなかったのだ。


 三十六層に降り立てば、外の領域(フィールド)を確認し扉の取り付けを終わらせ、地上との通信状況を確認し中継機を設置して、迷宮核の複製のある小部屋も整えていく。

 それも終われば登録をして地上へと戻るのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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