144 轟音飛行と隠密性
十層へと降りてきたラウリー達は、昼休憩を終えてから探索を再開する。
扉の向こうは開けた場所は少ししかなく、その先には腰まで覆い隠す草原が広がり、まばらというよりは沢山の樹々を見ることができた。
天井に埋まる照明の魔石の数が多いのか、随分と明るく感じる領域でもあった。
領域の端まで緩やかな上り坂になっているようだが、上層と違って端から端まで見通すことができる領域であり、一つの領域が随分と広くなっていることにリアーネは気付くのだった。
「リーネ? 行かないの?」
「ん。照準器を調整したほうが良いかも」
「そうなの。一層の倍くらいあるの」
「あー、そういや、結構広くなってるねー」
「なら早くやっちゃって。待ってるよ」
目の上に掌をかざして言うルシアナと戦槌を構えて周囲に注意を向けるレアーナ達に任せて、手早く照準器の調整を始める。
リアーネの魔法で六百メートル先に的を作り出し、ラウリーが双眼鏡で観測をして修正を行っていく。
弾倉一つ使い切る前に調整を終わらせ、改めて足を進めていくのだった。
進行方向を確認しゴーグルに表示される反応に対して、照準器に双眼鏡と各々で魔物の姿を確かめる。
「鹿の群……ほかに、何か居る?」
「ん……、反応はあるけど見えない。草が邪魔」
「あの光は鼠じゃ無いかな?」
「猪発見! って、あれは遠いか。接触はしなさそうだね」
「鳥が居るの……えっと? こっちくるの!」
ロレットの声と示す方向に目を向けて、その姿を目にした頃には光と風をまとった魔鳥がすぐ近くに迫っていた。
思わぬ事態に一瞬体が硬直したが、ラウリー達は声を上げながらも身を投げ出すようにして何とか直撃は躱すことができたのだ。
バリバリバリッ! と、魔鳥が至近を通過した直後に凄まじい衝撃が襲い、まだ空中に居た五人は吹き飛ばされてしまう。
「「「カハッ!」」」
転がりながらも衝撃の大半はやり過ごすことができているため、多少息苦しいくらいで済んではいたが、涙目になって元凶がどこへ行ったのかと視線を巡らせた。
「……っにゃー……。なに今の?」
「ん……、撃音鷲、かな?」
「多分、あってるの。凄かったの」
「ゴー……って、あれかな?」
「だいぶ……離れたねー。あんなのどうにかできる? とてもじゃないけどボクの弓じゃ捉えられないよ」
「ん。まぁ、何とかなる、かな?」
遠く離れた撃音鷲を目で追いながら話していると、向きを変えて迫ってくる様子を捉えるのだった。
「ん。硬き大地の守りの力よ、その身を起こし盾となれ………」
「リーネ、それって」
レアーナが何をするのかに気が付き声を掛けると、リアーネは撃音鷲から目と耳を離さず頷くだけで答えるのだった。
「『石壁』!」
撃音鷲の迫る速さと競うように、魔法によって地面から分厚い石の壁が造られていく。
正面に細く立ち上がった石の壁に気が付いた撃音鷲は進路を変更し始めるのだが、それに合わせるように次々と石の壁が造られていく。
急減速のできない状況での進路変更の余地がほとんどない撃音鷲は、それでも速度を落とそうと翼を広げたが、瞬きの後には石の壁に激突することになるのだった。
「うにゃーっ!?」
「ん……、ん。危なかった」
破壊された石の壁がラウリー達の脇を転がるのを追いかけるように、減速されたとはいえ衝撃を全身に打ち付けられて、コロリと転がってしまうのだった。
身を起こして砂を掃ってから撃音鷲がどうなったかを確認のために石の壁の反対側を覗き込んだリアーネは、尻尾の毛をブワリと膨らませてしまった。
「うわっ。これ、酷いね」
「あー……、初素材なのに潰れてる」
「あの勢いじゃ仕方が無いの」
遅れて回り込んできたルシアナ達が、潰れて跡形もない撃音鷲の姿を目にして、沈んだ声を出していた。
「撃音鷲って、みんなどうやって仕留めてるんだろうね?」
「ん………、一応は素材が残ったんだから、これでも、いいんじゃ?」
本気かとリアーネに視線が集まるが、そんなわけは無いと耳を倒して首を横に振りながら、散乱している無事な数枚の羽と割れた魔石を回収していくのだった。
橋を造るまでも無い浅く細い川や大きく横に枝葉を広げた一本の巨樹など、散策にはちょうど良さそうな領域を農耕蟻や陰蟷螂、刃士鳶に提灯鼠、丸鹿などを仕留めながら越えて行き、樹々の密集した領域を進んでいく。
「歩けるとこ、決まってる感じだねー」
「ん。ほかの探索者の造った道だと思う」
足元には魔法で土を石に変化させて造ったらしき道が続いていた。
「もしかして、上のほうで下草掃ってもすぐに道が無くなるって言ってたやつの対処かな?」
「あー、そうかも。これなら迷宮も変化を受け入れてくれるってことかも」
「とすると、街灯を立てると照らしてくれるかもしれないの!」
ロレットが頭上を見上げて冗談交じりに言ったのは、照明の光が届かないほど覆うように枝葉が茂っており、薄暗い中を進んでいたからだった。
「鼠だねー」
暗い中で前方を横切るように現れた提灯鼠の赤く光る尻尾を目に留めてラウリーが声に出したところで、音も無く翼を広げて現れた魔鳥が鋭い爪で捕まえて、静かに飛び去っていった。
「え!? なに、今の?」
「ん……、黒白梟、かな?」
リアーネの言う通り、翼幅三メートル弱の腹側が黒で背が白い黒白梟であった。
「うわー……、全然気付かなかった。厄介なのが居るねー」
「よく見ると、結構飛んでる?」
「ほんとなの。魔力の反応弱くて気付きにくいみたいなの」
ロレットの言う通り数羽の黒白梟が樹々の間を飛んでいる姿を見ることができるのだった。
「こっちには来ない?」
「ん。気にしなくていいって、資料にもあった」
それは助かったと皆が思いながら先へと進んでいくのだった。
更にいくつかの領域を越え下層への階段の場所まで到達すれば、早々に降りて野営と夕食の準備を始めるのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。