140 班の様態と戦い方
「いよーしっ! この階層は俺らに任せてもらおうかっ!」
「昨日は大したことが、できなかったからな」
「あぁ。体が鈍っちまう」
「まぁ、そういうわけだから、ラーリ、良いよね」
「いいよー。オイヴィ達がどんなふうに探索してるのか楽しみ!」
「ん。経路はどうする? 橋を掛けて短縮できるような所があれば任せてほしい」
「あー……そうだな。なら、この辺りに橋があれば助かる探索者は多いだろうね。後はここの崖、上から鎖が垂らされてるだけだから階段を整備したほうが良いんじゃないかな。そのせいで、みんな使ってないと思うし」
意気軒昂に体をほぐしながら言うケイニー達に、ラウリーは気軽に任せてしまう。その隣でエーリクが頭を抱え始めたので、気を紛らわせるためにも地図を取り出したリアーネは、経路の確認などをするのだった。
七層の扉の先は高低差のある斜面の上のようで、視線よりも低い所に樹冠を見ることができた。
さて行くかと言ったかと思えば、エーリクを除く四人が小走りで駆け下り始めてしまった。
「「「………え?」」」
「はぁ。全くあいつらときたら……。悪いね、みんな。あまり離されないうちに追いかけよう」
あまりに雑な行動を見たラウリー達は、思わず動きを止めて見送ってしまう。
促すように注意を引いたエーリクは多少は足を速めて、斜面を下り始めたのだ。
「あー……、行こうか?」
「ん。『浮揚』使おう」
リアーネの意見に賛成して五人は『浮揚』で浮き上がり、ケイニー達を追いかけることにした。
斜面が終わろうという場所は切り立った崖のようになっており、ケイニー達は勢いのままに飛び出して、下に居た白珠狼に斬り付けていく。
体長四メートル程の体格を持つ白珠狼は見える範囲に四頭が居たが、勢いの乗った攻撃のためか一撃で仕留めていたのだった。
「「「っしゃーーっ!」」」
「全く、君達は……まぁいい、魔石の回収を忘れないように」
「っと、そうだった」
機嫌も良さそうに次の獲物を求めてそのまま先に進もうとしていたケイニー達が、足を止めて魔石を拾い上げて四人共がエーリクに放り投げるのだった。
魔法鞄はまだ班に三つしか確保できていないらしく、あと二つ購入すれば各人の持ち物として扱う約束なのだそうだ。そうやって班で備品を購入するのは負担を少なくして無理に仕事を詰め込まないための知恵でもあった。
班の費用の大半が食費と装備の補修に消えるんだとエーリクは嘆いていたが、そこはラウリー達のあずかり知らぬことと聞き流すことにした。
領域をいくつか越えるが、どこも高低差の激しい場所ばかりで谷底を進むことになる。
「リーネ、この川だよね」
「ん。レーア、始めよう」
「任せて! ケイニー達もできるだけ石集めるの手伝ってよ」
「「「わかってるって!」」」
一行の前には十メートルも無い幅の川が流れていた。
左手側では轟々と音を立てる滝もあり、大きな岩がゴロゴロとあるような場所であった。
そのおかげもあり橋の材料とする石材が不足することは無く、領域の壁を切り取ってくるようなことをしなくて済んだのだ。
「じゃあ、ラーリはお茶の準備してるよ」
少し離れた場所ではテーブルやコンロを出して湯を沸かし始めていた。
「あー……結構集まってきてるよ!」
周囲を警戒していたルシアナとエーリクが弓を引きながら言ってくる。
幸い一射で一匹以上仕留めることができているが、空を覆う程の数の天空蚕が居たのだった。
「おい、何か急に重くなってないか!?」
「くっそ! なんだこれ?」
「今までこんなことあったか!?」
「飛んでる魔物の相手はあまりしてないからね。そのせいじゃないかい?」
「いつも僕達魔法の得意な者が対処してたからね、と。天を奔る猛き輝きよ、衝撃をもって弾けよ………『雷球』!」
「ん。………『雷壁』」
エーリクの詠唱に合わせてルシアナ達の多数の『雷球』とリアーネの『雷壁』が一斉に放たれる。
バババババババリバリバリバリー………ッ!!
上空に広がるように炸裂した『雷球』と、範囲から逃れた天空蚕を追いかけるように形を変える『雷壁』によって、瞬く間に数を減じていくのだった。
「「「わぁっ………!?」」」
無事に魔物を倒すことはできたとしても、その後に魔石が降り注いでくる状況に思わず声を上げて、頭を抱えて右往左往したり蹲ったりする羽目になるのだった。
「あー……ひどい目に合った」
「ん。もう少し倒し方考えないと」
「すまん。大体いつもこんな感じだった」
耳を倒して言う双子に、簡単に倒すこと自体はできていたために上手い倒し方を模索したことが無かったと謝罪するエーリクだった。
リアーネ達が橋の作成に戻るのに対して、魔物を倒すより余程時間が掛かっていると、疲れた声を出しながらラウリー達は魔石の回収をしていった。
作業を終えて皆は心身ともにぐったりとして、少し多めの甘いお菓子とお茶で気分を持ち直すのだった。
「お前らの行動食、これなのか! 良いな! 俺らもそうしないか」
「だよな! いつもの行動食も腹は膨れるんだが、味が今一なんだよな」
「これならこの後も頑張ろうって気になるよな!」
「だねー。できれば丸ごと欲しい気もするけどね」
「んぐんぐ。オイヴィそれで足りないんだ?」
「んぐんぐ。ん。リーネ達は十分な量なんだけど」
「うちらは毎回こんな感じだよ。んぐんぐ」
「そうなの。これがあるから続けてられるの。んぐんぐ」
その様子を少し離れて呆れたように見ているのは、ルシアナとエーリクの森人の二人である。
「なんてものを教えるんだよ……これじゃあ食費が余計にかさむじゃないか。ただでさえ班の蓄えがなかなか作れないのに」
「悪い。ボクだってあの甘過ぎるのは、どうにかしたいんだけどね……で、いつもの行動食ってどんなの?」
「あぁ、だいたい肉串か、肉のサンドイッチだよ。あいつら肉食ってたら幸せみたいだからなぁ」
「あははは、……はぁ。レアーナは獣人族でもないのに、よくあれに交じって食べてられるよね……」
結局そのまま昼食も摂ることになり、十分に休憩を取ってから探索を再開する。
中型の魔物までしか遭遇しなかったおかげもあるが、出会った魔物はケイニー達が無造作に近寄り斬り捨てていく。
問題の崖のある領域では壁面を変形させて、リアーネ達が手すり付きの階段を造っていく。
大型の獣人族でも余裕を持って通れる大きさにするために、一行の中では一番大柄な熊人族のベナーリに手伝ってもらっていた。
橋よりも大変な作業ではあったが材料を運ぶ手間が無い分、早く終わらせることができたのだった。
「あぁ……全く。お前らすげーな。これなら魔物がくる前に上まで移動できる」
出来上がった階段の中程でケイニーが感心したように呟いていた。
その後は、一つ領域を越えると下層への階段に到達した。
出てきた魔物もケイニー達が叫びながら倒していたために周囲から集まってきて、その対処に大変だったことで、エーリクが「お前ら、いちいち叫ぶな!」と頭を抱えていたのを除けば、さしたる問題は無かったと言えるだろう。
「………うーん。リーネ、雑音が多いけど大丈夫?」
ラウリーの確認の声に中継機を起動させると、携帯魔導通信機も明瞭な音声を伝えてきたので、問題無いと答えたリアーネが中継機の設置作業を始めた。
その間に、ほかの者達が野営と夕飯の準備を始めるのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。