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ねこだん!  作者: 藤樹
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138 安穏な刻と休養日

 迷宮探索から戻ってきた翌日の朝はいつも遅く、三の刻、下手すれば昼の五の刻まで寝ている探索者もいるだろう。

 迷宮内での野営(キャンプ)では交代で寝ているとは言っても、真に休まることは無いからである。


「おにゃか………へった」

「ん? ラーリ? おはよ……」


 双子がそろって起き出してきたのは、もうすぐ昼になる頃合いだろうか。

 ルシアナとレアーナ、ロレットは既に着替えてベッドに腰かけて待っており、双子は眠い目を擦りながらも着替え始める。


「ラーリ、リーネ、おはようなの!」

「おはよう。やっと起きてきたのか」

「はよー。ボクもさっき起きたばっかりだけどねー。あふー……」


 適当に挨拶をするルシアナは、欠伸をかみ殺しながら跳ねた髪の毛をロレットに整えてもらっていた。


「おはよう! もうちょっと寝たい気もするけど、お腹減った。ご飯行こ!」

「ん。おはよ。リーネもお腹減った。これじゃ寝られない」


 五人は宿を出て、沢山ある屋台で色々と買っては朝食兼昼食とするのだった。



「みんな今日はどうする?」

「ん? テルトーネに戻るんだよね。そしたら錬金組合(ギルド)に顔出してくる」

「ボクは特に予定は無いよ。散歩でも行ってようかな?」

「家に顔出してからかな? 何か手伝えることがあるかもだし。まぁ、父ちゃん滅多にそんなこと言わないけどねぇ」

「私は姉さまを手伝うの。後は自分達用の魔法薬を作るつもり」

「じゃあ……ラーリは、ルーナと散歩でも行こうかな?」

「それって釣り竿持って、でしょ?」

「えへへー。ルーナも一緒に釣ろうねー」


 食事をしながらも、この後の予定や最近の街の様子など話す内容はあちこちに飛んでいく。


 ◇


「じゃあ、行ってきまーす」

「ん。気を付けて」


 テルトーネまでバスで移動して停留所でラウリーとルシアナを見送ってから、リアーネは錬金組合(ギルド)へ、レアーナは黒銀の槌工房へ、ロレットはマリーレイン錬金術工房へと向かうのだった。


「………ほーら、早く持って行きなさい。ユスティーナが待ってるんじゃないの? あら、いらっしゃい、リアーネちゃん。今日は何?」

「ん。何かある? 探索組から中継機の設置頼まれたりしてるんだけど」

「探索組の依頼は処理してあるわよ。えーっと、あった、確認してね。それよりもリアーネちゃんに造ってもらいたい魔導具が沢山あるわ! どっちかっていうと、今は最終調整をしてくれると、ありがたいわね」


 蒼い髪の森人の少女と話し込んでいた狐人族の受付嬢ペトロネラは少女に手を振り送り出すと、リアーネの相手を始めて素早く依頼票を選び出し、組合(ギルド)内の作業室へと引き摺るように連れていくのだった。


 そこでは数人の組合(ギルド)職員と、自身の工房を持っていないために作業場を借りている魔導具師が、魔導具の作成を行っていた。

 工房や個人が請け負った魔導具の作成はその者達が責任を持って作るのだが、彼らに仕事を回した後に、残った依頼を組合(ギルド)職員達が作成しているのである。


 腕に自信のある者のほとんどは自身で工房を開いているために、研究室を任されるような者以外は、組合(ギルド)職員の魔導具師としての腕は一段劣る者が多くなってしまっていた。


 そんな中でも数人の一流の腕のある者が最終調整をすることにより、一定以上の品質を維持していたのだ。

 リアーネが頼まれたのは、まさにそんな仕事が中心であった。


「みんなー、心強い援軍が来てくれたよ!」


 リアーネを押し出して、依頼内容を説明して書類に記入し、受け付けへ戻って行ってしまった。


 ◇


「父ちゃん。何か手伝えるような仕事ある?」

「んぁ? ヴァリオ! 注文はどうなってた?」


 レアーナの父ウォルガネスが、兄のヴァリオに大声で確認すると、隣の部屋で作業をしていた兄が来て予定表片手に説明していく。


「………とまぁ、どこの工房も台車の増産頼まれてるからね。うちは受けてないけど武器や防具も注文は多いみたいだよ。迷宮の階層扉は鍛冶組合(ギルド)で請け負ってるみたいだし、そんな所じゃないかな」

「ふむ、台車なら元々レーアが造った物だろ。それなら任せても構わんぞ」

「わかった!」


 そうしてレアーナは、兄の作業場の片隅で魔法鞄(マジックバッグ)付き台車の部品を造っていくのだった。


 ◇


 ポタリ、ポタリと硝子でできた冷却器や混合器、濾過器などを通って活力水が蒸気に変わり薬草から薬効成分だけを引き出し液体に戻り、魔石の粉末が溶け込んで液体のみを抽出し、魔法薬の雫が少しずつ容器に満たされていく。


「ロットー。もうこっちは良いわよ」

「わかったの姉さま。じゃあ、片付けが終わったら、こっちの器具借りるの」


 ひらひらと手を振るマリーレインに断って、ロレットは手早く凍結粉砕機の受け皿を洗浄して片付けていく。

 それが終われば、回復薬などの迷宮探索に持っていく魔法薬の作成を始めるのだった。


 各地を旅していたときは、錬金組合(ギルド)で器具を借りて準備をしていたが、迷宮内で切らしたときは休息時に簡易調合をすることもあったのだった。


「姉さまー、この薬草良いやつなの。こんなに使って大丈夫なの?」

「あぁ、それねー。近くに迷宮ができたから、結構出回るようになったのよ。だからそのくらいの量、気にすることは無いわよ」

「なるほどなの。何層で採取できるとか判ってるの?」

「さぁ? 私は知らないけど、狩人(ハンター)組合(ギルド)なら把握してるでしょ」


 迷宮産の薬草は魔力の含有量が多いために扱いに気を付ける必要はあるのだが、効果の高い魔法薬を作ることができるのだった。

 回復薬以外にも魔力回復薬に活力剤、解痺薬、解毒薬など各種の薬を調合していくのだった。


 ◇


 ぷかり、ぷかりと揺れる浮きを見るともなしに眺めながら、温かな陽射しの中で川岸に腰を下ろして無心になる。次の瞬間には何が釣れるか、どう調理をしようか。あぁ、向こうに群れが過ったと雑念ばかりに変わっていく。


 無心と雑念が移り変わるように、ゆらり、ゆらりと尻尾が揺れて、震える浮きに合わせるようにピンと跳ね上がる尻尾から緊張感が伝わってくる。


「ラーリ! 戻ってきたよー」

「うーん。ルーナの勝ちかー、あっ! かかった!」


 じっと見つめていた浮きから気を逸らした瞬間に、手応えを感じて竿を跳ね上げ、立派な大きさの岩鱒(イワナ)を釣り上げるのだった。


「あははー、おしかったねー。でもボクのほうが早かったからね」

「わかってるよーだ」


 釣り上げた魚を網籠に入れてルシアナに顔を向けて言う。

 ルシアナの手には森で採取してきたのだろう翠林檎(アオリンゴ)があり、ラウリーに一つ放り投げた。


 どちらが先に既定の数だけ釣るか採取してくるかで勝負していたのだ。

 二人とも既に満足いく程の収穫をしていたので、帰る準備を始めるのだった。


 ◇


「「ただいまー!」」

「おかえりなさい。どうだった?」

「いっぱい取れたよ!」


 錬金術工房へと帰ってきたラウリーとルシアナを迎えたマリーレインは、付けていた帳簿から顔を上げて本日の成果を聞いてきた。


 台所からは夕飯の準備をしている、リアーネとロレットの声が聞こえてきていた。

 ラウリー達が魚などの成果を冷蔵庫へと片付け終わる頃には夕飯の準備も終わるのだった。

 本日もまた、賑やかで楽しい一日となった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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