135 橋の建設と細顎鰐
交代で休息を取り終えて朝食と装備の準備も終わらせてから、ラウリー達は三層の探索を開始する。
上の二つの層と違って扉の先には、起伏のある草原が広がり低木や背の高い木も見ることができた。草原の中では花が咲き誇っているために、赤や黄色に色付いた場所もあるのだった。
そんな中でも目を引くのが右に左に曲がりくねった川の存在だろう。
川の畔には多数の魔物が適度に距離を取り、川面に口を付けていた。
「丸鹿いっぱい」
「ん。雁も浮かんでるね」
見渡す限り脅威になりそうな魔物の姿は見つからず、進路を定めて前方を遮る魔物だけを狩りながら森や崖などの領域も越えていく。
「リーネ? ここ行くの?」
「ん……最短なら、ここが良かった」
「でも、川になってるよ? 『浮揚』で越えたらいいだけかもしれないけど」
「後のことを考えると橋を造っても良いんじゃないかな」
「なら、レーアに任せたの」
一行の前には真っすぐな流れの、幅のある川が横切っていた。これを迂回して行こうとすれば越える領域が三つ増えるのが判っていたため、できれば橋を造っておきたいとリアーネは考えていたのだ。
「ん。造っても良い?」
「まぁ、良いんじゃない? その代わり魔物がきたら対処してもらうからね」
「「「任せて!」」」
そうしてリアーネとレアーナは川と近くの壁際を往復して、素材とする石を採取し岸辺に積み上げていく。
その間にも近くに現れた農耕蟻や光帝飛蝗をラウリー達は仕留めていった。
「リーネ! 魔物なの!」
そして『浮揚』で浮かび上がり川に石を沈めて橋脚を造り始めたときに、水面下から魔物が現れたのに気付いたロレットが警告を発し、リアーネが上空に逃れるのを待ち発砲する。
水面を割って現れたのは、リアーネに噛みつこうとする牙も鋭い大きな口で、三メートル近い大きさのある細顎鰐が、跳ねるように迫ったのだ。
ロレットの声で気付いたルシアナも矢を放つが、騒がしくなったためか川を泳いでほかの細顎鰐も集まって来てしまう。その細顎鰐が光を放つと水面が揺れ動き、水の礫が周囲に撒き散らされ始めた。
「「「わぁっ!?」」」
慌てて下がり身を低くしたことで水の礫は頭上を越えていったため、ラウリー達に被害は無かったのだが、空中に居たリアーネとレアーナは更に上へと場所を移すが避け切ることができずに多くを身に受けることになっていた。
「いい加減にするのっ!」
ロレットの気合の入った射撃を受けて、魔法を暴発させた細顎鰐は礫にならずに水面が弾けたように飛沫を上げて、うねる水面に翻弄されるのだった。
「やったねロット! ボクも負けてられない、ねっ!」
雷をまとった矢が走り、細顎鰐に突き立っていく。
波に流されて岸辺へ打ち揚げられた細顎鰐は、ラウリー達を見つけるなり走り寄ってくる。
「ん。これでも喰らう」
「わっ!? リーネ、それ酷いね。採用っ!」
思いのほか細顎鰐は走るのが早く、仕留めきれずに接近を許してしまうが、上空に居たリアーネとレアーナが上から魔法鞄から取り出しては落とす石の塊によって数を減じていくのだった。
終わってみれば接近を許すことも無く、落石と射撃で仕留めきっていたのだった。
「また、回収しなきゃ……」
「ん。仕方ない」
「はいはい、ほかのことはやっておくから、橋の作成は任せたよ」
「その前に、リーネもレーアもずぶ濡れなの。向こう岸の魔物の対処はやっておくの」
まずは『乾燥』で乾かしてから、ロレットの『小治癒』を受けて、リアーネ達は落とした石の回収を始めるのだった。
周辺の警戒は任せろとルシアナが声を掛け、その後一刻程の間に川から魔物が現れることも無く、農耕蟻などの対処などをしている間に無事に橋が完成した。
「「かんせーいっ!」」
「終わったの? リーネ凄い橋ができたね!」
「だよね。こんなに大きな橋にするとは思わなかったよ」
「でも、これならレーアの台車も余裕を持って渡れるの!」
リアーネとレアーナの造り上げた橋は二本の橋脚を持ち、その間が綺麗な弧を描いたもので幅五メートル程と余裕を持った造りであり、両側には転落防止柵も付けられていた。
「でもリーネ。色石組み合わせて模様を描くのは、やり過ぎ」
「ん? そう?」
「綺麗だよねー」
リアーネはルシアナの言葉に小首を傾げ、ラウリーは嬉しそうに目を細めて尻尾を揺らすばかりである。
「まぁ、それは良いけんだけど、あれは?」
橋脚の付け根に川に向かって傾斜の造られた石が水中に続いている場所がある。
いつの間にかそこには氷蒼川獺が陣取り、滑り降りては登ってきてと繰り返しているのだった。
「ん。滑り台?」
「何か余計な物を造ってると思えば……」
「川獺も結構可愛いの……リーネ」
ロレットが何を求めているのかを察したリアーネは、何も言わずに写真機を取り出し渡したのだった。
しばらくの間ロレットによる川獺撮影会が続いたが、ひとしきり写真を撮って満足したのか良い笑顔で写真機を返すのだった。
「これで、動いてる映像が残せれば……映像………リーネ、どうにかできないの?」
「ん……か、考えてみる」
期待に満ちた笑顔を向けられ、リアーネはできなかったらどうしようと心配を始めることになる。
どうやらこの階層は川に遮られて迂回を強要される造りになっているらしく、その後二箇所で同様に橋を造ることになり、そのたびに細顎鰐を狩ることになるのだった。
ようやく階段に到達したときには、既に夕刻の迫る頃となっていたので、野営をすることに決めたのだった。
「………うーん。雑音が酷い」
「ん、これでどう?」
「あっ! つながった! ちゃんと通信できてる!」
四層の地図の確認や天幕の設置に夕食の支度を終えて、食事の直前に携帯魔導通信機をラウリーが試していたのだ。リアーネが中継機を取り出し稼働させると問題無く通信ができることを確認し、食後に設置作業をすることになる。
『………それで、あなた達で橋を造っちゃったの?』
「そうだよ! これで便利になったと思うんだ!」
ラウリーは四層到達時刻が予想よりも遅れた理由を聞かれて、橋を造っていたことを報告したのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。