013 夏の休みと衣替え
親元に帰った双子は少し遅めの時間に起き出し、早速とばかりにお土産の数々を広げだす。中でも驚かせたのは、鞄の意匠を服飾組合に登録してお金になったということだろう。リアーネが使わなかった小金貨一枚を両親に渡してさらに驚かれた。
「あら、こんなに沢山の布ありがとう。新しい服、作りましょうね」
「やったー!」
「ん。手伝う」
「それにしても、少し多すぎないかしら?」
母のユリアーナは沢山の布を前にして、双子と服を作ることにしたようだ。困惑が耳に現れ倒れているが、嬉しさを隠せず尻尾に現れていた。
紡績と織布の魔導機械、足踏みミシンが、二百年近く昔に開発されているため、布製品の値段はさほど高くはない。迷宮氾濫以降は安全に利用できる土地が少なくなった影響で、繊維を得る用地のために費用が掛かっているのではないだろうか。
「みんな可愛いの着てた!」
「ん、いっぱい作る」
「そうね、どんなのが良いか教えてね」
そして、最後に取り出された箱詰めされた物の登場である。
視線の先には、魔導具店で買って来た品が組み立てられて鎮座している。
「それで、これは何だい?」
「何でしょうね?」
一見すれば座卓である。屋内では靴を脱ぐ文化であるため座卓はどこの家でも見られる物だった。
そして、付属品だという絨毯に布団。天板のみが外れるようになっており卓と天板に布団が挟まれている。よく見てみると座卓の下側に何やらついていた。
そう、炬燵であったのだ。
リアーネの指示で設置して説明が始まる。
「あつーい!」
「んー……冬物だから仕方ない」
「そうだな、朝晩の涼しい時なら使えるだろう」
「なんだか、冬が楽しみになってきたわね」
炬燵に入って説明を聞き終わった頃には、みな虜になっていた。
「そういえば二人とも、ずいぶん大きくなったわね?」
「なったー!」
「ん? たぶん」
立ち上がり腕を広げて誇らしげに成長した姿を見せる。ワンピースの丈も膝下だったものが膝に掛かるようになっている。
父は既に狩りに出かけてしまったので、この場にいるのは母娘三人だ。
「あらあら、本当に大きく。準備して来るわね」
裁縫道具を取ってきた母は巻尺で双子の体を楽しそうに測っていく。大きめの服もいくらかは用意していたが、夏用に準備していた服は簡単な手直しで問題は無くなり、せっかく娘が沢山の布を買って来たのだからと、張り切って服作りに取り組んだ。
基本、作るのはワンピースにズボンと肌着に下着、この先寒くなってから必要な上着や外套だ。
ラウリーとリアーネは尻尾を振り振り意匠を考える。ラウリーはほとんど落書きにしかなっていないが、アイデアそのものは有用であることもある。対してリアーネは本格的なイメージ図を描いていく。複数描きあげ選んだあとは、型紙の作成だ。
少し遅めの昼食を摂りながら、何から作るか相談をする。
布地を切った後はピンで仮止め、体に合わせて微修正。後は足踏みミシンで縫っていく。
そうして完成したうちの、着ぐるみパジャマを早速身にまとう。
「がおー、熊さんだぞー!」
「ん、兎ー」
「あら、可愛い!」
「おんや、少し見ない間にちび共の種族が変わってらぁな」
「ほんに、可愛らしぃねぇ」
「じーじ!」
「ばーば」
新たな声は近所に住む祖父母のものだった。既に夕飯の準備を始めるような時間が迫っており、食材片手に孫の顔を見にやって来た。
「ご馳走、いっぱい作りましょうねぇ」
「やったー!」
「ん。一緒に作る」
「片付けてますから、先にお願いします」
母の声に祖母を先導する様に双子は台所へと向かって行った。
父も帰宅し、皆で夕飯をいただいた。
食事中の話題は双子が中心で、友達ができたこと、街のこと、学院のこと。
沢山のご馳走と沢山の話したいでき事で賑やかで嬉しい時間となった。
「お魚……」
「ん? お肉も美味しいよ」
ただ、ラウリーには残念なことにお魚は献立に無かったようだ。
「明日は湖で釣りでもするかぃ?」
「お魚!!」
「ん。釣りする」
「なら、今日は早く寝ろ。朝は早ぇえぞ?」
「「はーい」」
祖父の声に元気に答え、お風呂の後はすぐ寝てしまう双子だった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。