132 検証依頼と同期生
「早かったね!」
「ん。前は歩きだったから仕方がない」
「道も綺麗に整備されてたしね」
「歩いてる人も結構いたよ」
「バスの運行本数がまだまだ足りないからなの」
テルトーネとノィエトゥアの間は魔導車用に舗装されただけでなく、歩道や外灯がある以外にも、道と森の間に低木や花壇の花が彩りを添えているのだった。南東の門からノィエトゥア行きのバスが運行されていたため、利用してみると四半刻掛からず到着した。
ノィエトゥアの街は以前は狩人組合探索組の建物と数件の宿以外は建設中のものばかりであったが、宿に食事処、商店や工房なども数多く建ち並び、すっかり街として動き始めているようだった。
それでもまだ工事の現場を見かけることからも、人々の勢いや熱を感じたのだ。
狩人組合の待合室内へと足を踏み入れると、沢山の探索者の中に懐かしい顔ぶれを見ることができた。
「おーっ! ラウリーじゃねぇかっ! 久しぶりだな!」
「どれ? ほんとだ。何? 迷宮に入る許可が出るのに今までかかってたのか?」
「何バカなこと言ってんのよ。ラーリ達がそれだけしか、してなかったわけ無いでしょ。みんなお帰りー!」
声を掛けたのは学院時代からの昔馴染みの虎人族のケイニーと熊人族のベナーリの男子二人に、獅子人族の女子のオイヴィだった。
「「「みんな、ただいま!」」」
ラウリーはケイニーとベナーリの上げた手に拳を打ち付けてから、オイヴィーに抱き着いた。久しぶりに会う友人に嬉しくなって尻尾は機嫌良く振られているのだった。
リアーネ達も手を取り声を掛け、会えた嬉しさを伝えていく。
卓に着いてからテルトーネを離れていた二年のことを話していると、多くの知り合いが声を掛けてくる。
皆、話したいことは沢山あるようだったが、ほかの班員に無理を言って探索の予定を変えることまではせずに一言二言話すだけで、準備が終われば迷宮へと向かっていった。
そんな中で探索を取りやめて、話を続けることにしたのは、最初に声を掛けてきたケイニー達の班だった。
彼らもリアーネの開発した魔導具を使っているようで、特にゴーグルに改良が加えられているという話を聞いたために改造依頼を出すことにしたのだった。
「ほんと、ここの迷宮おかしいって、絶対」
「それな! なんでいきなり十六階相当なんだよって話だ」
「僕としては大いに助かってるんだけどな。君ら考えることは全部僕任せじゃないか。迷路の階層じゃどれだけ苦労したことか……」
「そりゃ俺らはチマチマ考えて行動してらんないから仕方がないって。魔物が居たらそっち行くだろ。だからエーリクのことは頼りにしてんだぜ」
「ウチだって地図くらい見れるんだ。それをエーリクがいっつも持っていくんじゃないか」
ケイニー、ベナーリ、エーリク、カレヴァ、オイヴィの五人で班を組んで行動しており、大陸最大の湖であるアルバッハルモーブ湖を、ブハラトムーレの指導迷宮から湖に沿って西に下級迷宮と中級迷宮へと、いくつかの街に向かっただけのため、半年程でテルトーネに戻っていたらしい。
それ以来、ノィエトゥア迷宮の攻略に参加しているのだという。
「おぉ、お前ら、やっと帰ってきたのか。嬢ちゃんの魔導具は大いに助けになっておる。おかげで随分と速く攻略できているからな。それに新しい魔導具のことも聞いておるぞ。それにしてもお前らは迷宮に行くんじゃ無かったのか?」
待合室に居る人も少なくなって目に着いたのか、まだ残っているケイニー達にどうしたのかと問いたげな目を向け、組長が声を掛けてきた。
リアーネの魔導具の話を聞いて改造依頼を出すことにしたとエーリクが説明すると、納得顔となるのだった。
「ただいま、組長。魔導具だったら、これもお薦め!」
「ん。階層を越えて通信はできないけど迷宮内でも使えるのを確認してる」
ラウリーが携帯魔導通信機を手に取って、リアーネが補足をするのだった。
「そんなもんまで造ったのか……。できれば、迷宮の中と外で通信できるように、ならんもんかね?」
「ん? 階段に中継機を置けば、できると思うけど」
「そうだ、階段!」
「なんだ? 階段がどうかしたのか?」
ルシアナの声に皆が注目し、代表して組長が問いかける。
「えっと、階段の下の所って、ここの迷宮でも野営に使われてたりするの?」
「あぁ! あれだねルーナ」
「そういえば、ここではまだ相談してなかったの」
何を言いたいのか判ったレアーナとロレットが声を上げるが、さっぱり判らない組長達の顔は、問いたげなものを強めていった。
「ん。みんな決まった場所で野営するから、簡易トイレの魔導具とかを設置して、みんなで使えるようにするという提案」
「「「はぁ?」」」
「みんな使うでしょ?」
「ん。そのたびに設置するのも各班が個別で持つのも無駄が多い」
「目隠しだって、みんなせいぜい壁と布だけだしね」
「湯浴みの場所も用意してあれば嬉しいんだけど」
「いいね! それ!」
真っ先に同意を示したのはオイヴィで、続くように声が上がった。
「まぁ、考えておく。それよりは通信の魔導具だ。中継機が使えるか確かめておいてくれるとありがたい。何ならそのまま設置してくれ、依頼として出しておく。後はあれだ、多くの魔物の素材を迷宮内から運び出すいい方法がないか考えてみてくれ」
用は済んだと組長は奥へと戻っていった。
「リーネはいつもこんな感じで仕事を頼まれたりしてるのか?」
「ん、時々ある。途中で寄った街では魔導具師に指導とかもやった。ゴーグルに使う鋼玉硝子は、造るのが苦手な人が多かったから」
感心しながら組長とのやり取りを見ていたオイヴィの疑問に、リアーネはよくあることだと肯定するのだった。
「ね、それよりも、ここの迷宮ってそんなに魔物いっぱいなの?」
「あぁ、確かに多いな。新しく行った階層はほとんどが全身の素材が残るから、小型の魔物だけでもすぐに魔法鞄がいっぱいになるんだよ。いくつかの班の合同で一斉に一つの領域の魔物を狩ってるんだけど、全員分の魔法鞄がすぐに一杯になるんだよな」
「そうそう。おかげで一日一領域ずつ進めて一層狩り尽くすのに一月近く掛かるんだよ」
「下層ほど領域が広いし大物が多いからな。上のほうは月に二層進めてたらしいんだけど」
「じゃあ、とにかく下層を目指す! みたいな班は無いの?」
「いや、一応いるな。どこまで潜ったって言ってたっけ?」
「確か三十層辺りだと記憶している。塩湖の領域があるらしい。みんな海って呼んでるよ」
「お魚!?」
海と聞いたラウリーは耳をピンと立てて、思わず反応をしてしまう。
「あ? あぁ、確かに魚が居ると聞いているよ。今みんなで狩り始めたのが二十八層なんだけど、そこから海があるから少しだけど魚が出回り始めている」
エーリクからもたらされた魚の情報に、ラウリーは拳を振り上げ驚喜するのだった。
「ラーリの魚好きは覚えてるけど、あんなになる程だった?」
「ん。海のお魚は特にお気に入り。川魚とは別物だった」
「そうだよね。魔導船に乗ってるときなんかも毎回釣りしてたしね」
「そうか。まぁ、それよりほかにも魔導具があったりしないのか?」
オイヴィに応えるように各種魔導具を並べていって一つずつ丁寧に説明する。
欲しい魔導具が沢山あるのだが、手持ちの資金でそろえるのは難しくて、何を優先するべきかと頭を悩ませるオイヴィ達だった。
そんな中で大型の狙撃銃を見て扱えるのかと当然のように疑問に思われる。
「ふふん。リーネだからね!」
「「「わかんねーよ!!」」」
得意そうに胸を張って言うラウリーに、ケイニー達は声をそろえて言い返すのだった。
疑わしそうな目をしたケイニー達に、使うところを見せるために射撃訓練所に行くことになった。
リアーネが自身の身長より長い銃身を持つ銃を構えて立射をしている姿は、何とも不安定そうで、見ているほうが不安になるようなものであった。
「すげーな、ほとんど音も無いし、姿勢を崩しもしてねぇぞ」
「あの銃なら使いたがる奴、増えるんじゃないか?」
「だよな。大型の奴はどれもうるさいからなぁ」
耳の良い獣人ほど銃器を使いたがらない傾向があり、静かな音が漏れるだけのリアーネの大型狙撃銃は威力も含めて魅力的に思えたのだ。
「ウチには性に合わないけど、凄いことは見てて判るね。あの威力どうなってるの?」
「あれでも、何発も撃ち込まないと倒れない魔物がいっぱい居るけどねぇ……」
的の破壊具合を見て、通常の物よりも威力自体も高いことが判るのだった。
「ロットもあれ使ってみたらいいんじゃないかな?」
「むぅ。大きすぎて扱いきれないの。リーネは使いこなしててほんとに凄いの」
ロレットは耳を倒してしょんぼりとしてしまうのだった。
狩りを想定して『浮揚』で高い位置からの撃ち下ろしなどまで試してから終わらせた。
その後、皆とは分かれて近場の宿を取り、消耗品の買い出しをして明日からの迷宮探索の準備を整えるのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。