130 未攻略地と登録旅
迷宮から戻った翌朝遅く、あるいは昼にはまだ早いと言った方が良いだろう時刻に狩人組合に五人は向かった。
「いらっしゃい。ゆっくり休めたかしら?」
「だいじょぶー」
「ん。早く終わらせて、装備の整備もしなくちゃいけない」
「素材の提出先で良い?」
「はいはい。じゃあ早速解体所の方へ行きましょうか」
そうして作業台に並べられる多くの魔石を、もはや自分の役割だという認識なのかラウリーが選別を始める。
その間に魔物の素材を並べて行くが、巨大な海蠍には驚かれることになった。
「これ、ほんとに海蠍……?」
「だよねー。ボクらも自分の目を疑っちゃったよ」
「大きさだけなら別種の魔物だよね」
「とにかく硬くて大変だったの」
甲殻は装備に使いたいので取っておきたい旨を伝えるが、五人分には余る程に大きいため半分は買い取ってもらうことになる。そんなこともあり解体は任せることとなった。
他にも銀灰熊の毛皮や紅縞海蛇の鱗など自身の装備に使いたい素材は多くあるのだった。
それに対して、道中沢山狩る機会のあった苔猪や海猿、潮蛙に泥蜥蜴などの素材に肉は、ほとんどを買い取ってもらうことになる。
「綺麗な魔石が多かったよ! 迷宮下層の方が魔石の品質が良かったりするのかな?」
「ふふ。そうね。そういった傾向があるのは確かよ。じゃあ、これらの解体に査定が終わるのは明後日くらいかしら? 支払いはその後になるけど大丈夫よね」
「はい! ゆっくり休みにするから大丈夫!」
組合の受付に戻り迷宮でのことを話していく。
問題無く中級迷宮の踏破が認定されて、未攻略の物を含めて上級迷宮への立ち入りが許可されたのだった。
「本当にあなた達の探索速度には驚かされるわよ。事前に地図や魔物の情報があるにしても、普通は迷宮に潜ってる期間だけで半月から一月は掛かるものなのに、あなた達って休養日入れても半月掛かって無いんだから……」
「ん? そう? 最深部まで一日で歩けるくらいの距離しか無かったよ?」
「その間に魔物が居るでしょ。各階層の踏破速度はここで数年探索者として活動してる人達と変わらないんだもの、そんな熟練者並みに速いのよ。だからって油断してたら痛い目に合うのはあなた達なんですからね。もう少し慎重になってほしいと思っちゃうのよ」
耳に痛いが心配されていることが判るので、大人しく聞くしかないと耳を傾けるラウリー達だった。
その後は装備の手入れに消耗品の買い物、素材の代金受け取りと、リアーネに至っては錬金組合から魔導具作成の仕事を請け負ったりしながら過ごすのだった。
◇
数日後、バスに揺られて向かった先は北東へと内陸側にあるメラーの街だが、ここでは魔法陣の登録などをしてすぐに出立し、南東沿岸部の都市ナハロマシーハに着いたのだった。
未攻略迷宮のある都市であるため、魔導具作成の指南に数日を当てることになる。
そして初めての上級迷宮へと足を踏み入れるのだが、上層に限っては中級迷宮などと大きく変わることも無く進むことができたのだった。
「海の近くの迷宮ってみんなこんな感じなのかな?」
「ん。水場が多いのは気が滅入る」
「この辺はまだいいけど十一層以降は滝に海に池に川が待ってるんだろうね……」
「まぁ、だいたい雰囲気が判ったんだし、十層まででいいんじゃないの?」
「そうなの。まだまだ行かなきゃならない街はいっぱい残ってるの」
そんな感じで二十五層までを攻略し魔物の数が多かったのは、上級だからか未攻略だからかと疑問に思い狩人組合で聞いてみると、攻略済みの迷宮は迷宮核の設定を変更してあり無理のない数の魔物しか発生しない様に調整されているために、魔物の数も少なくその分魔力が集中し素材が採れやすくなるという。
対して未攻略迷宮は魔物が多い傾向にあり、一度魔物を倒してしまえば素材はほとんど取れなくなると教えられたのだ。
未攻略迷宮の雰囲気も判って満足した五人は休息と消耗品の購入などを済ませて次の街へと移動して行く。
◇
地中海の沿岸沿いに竜の火山の南西にある未攻略迷宮を抱える街を巡り、十の街でリアーネは魔導具作成指南を行い攻略済み迷宮のあるシアードサマカに着いた頃には年末が迫り、次に訪れた都市アンメーアで新年を迎えた。
その後も沿岸沿いに移動を続け未攻略迷宮のある街もいくつか越えて、南にあるらしい東西に走る山脈のずっと手前で内陸を東に向かい森に囲まれた港湾都市ランビドへとやって来る。
鬼人族の多い東部にあってこの辺りは獣人族が多い地域であるようであり、料理なども随分久しぶりに食べる様なものが宿や食事処で出て来たのだった。
双子の猫人族の兄弟と釣りが縁で一緒に迷宮探索も行うようになり、周りから見るとその兄弟がラウリーとリアーネに気があることはバレバレであるのに、ラウリー達は一行に気付くことなく「また一緒に釣りしようね」と笑顔で港湾都市を後にするのだった。
更に移動し船も使い未攻略迷宮のある都市を巡って行く。
この辺りは鬼族の文化と獣人族の文化が適度に距離を取って混ざり合う興味深い地域だった。
竜の火山の南東の麓の街に着いた頃には寒さも和らぎ始めた頃であった。
その先は竜の火山沿いに北上するが岩石沙漠となっており、昼夜の寒暖の差や乾いた空気にすっかり体調を崩しがちになっていた。
竜人族が主流の街で迷宮氾濫期にも被害も少なく退けた街が多数あり、古くから続く街並みや積み上げた石だけでなく自然の岩もそのままに利用した建物は部屋の中にも剥き出しの岩のある様なところであり、数日体験するには面白い地域であった。
しかし雨の少ない土地柄で使える水が少ないために風呂が無かったことには辟易させられることとなる。仕方なく盥に魔法で水をためて入るのだった。
竜の火山の北東の山脈に挟まれた、稲作発祥の地とも呼ばれる湿地に囲まれた都市ムスタンクァールは蜥蜴人族の多い街で赤道直下なこともあり蒸し暑さに湯だってしまいそうになりながら魔導具作成指南を行うのは無理だといってリアーネはまず除湿冷風の魔導具を作ったりもした。
山を越え森深いレペンは鬼人族の多い街となり、大陸最大の湖アルバッハルモーブまで続く東の川の上流にあった。
そこからはもう攻略済みの迷宮しか無いので、魔法陣の登録などだけをして湖の北岸を駆け抜ける様にブハラトムーレまで移動していったん休息することになった。
◇
二年ぶりとなる懐かしの村フシャラハーンに帰って来た時には、年明けまであと数日の新年祭の準備に忙しい時期となっていたのだった。
「「ただいま!」」
「「「おじゃまします!」」」
滞在中に改造した魔導具と魔法陣を登録しなおしたり、双子の弟ルーペルトと遊んだりと久しぶりにのんびりとした時間を堪能し、テルトーネに戻るのは新年祭が終わって数日してからになるのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。