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ねこだん!  作者: 藤樹
133/218

128 共同探索と海の蠍

「やっぱりここも野営(キャンプ)してるねー」

「ん。リーネ達も場所の確保しなきゃ」


 十七階層同様に四つに分かれて野営(キャンプ)天幕(テント)が張られているようで、数は少なくなったが一つの班の規模は幾分大きく感じるのだった。


「おや? この期間ここまで降りて来る予定の班は他に無かったんだけど、お嬢さん方は新人さんかい? 見覚えも無いよね」


 声を掛けて来たのは前掛けをして食事の準備中である線の細い猫人族の男性だった。


「そうだよ! やっとここまで来たんだ!」

「ん。あの辺りで野営(キャンプ)の準備をして大丈夫?」


 リアーネは階段下の扉のある部屋の一画を指さし確認をすると、問題は無いがある程度離して天幕(テント)などは張る様にと助言を受けたのだった。


 そんな中、トイレの場所を指定され確認してみると土魔術で作られた衝立と布で仕切られているだけで、便器代わりの穴が掘られており『乾燥』するようにと注意を受ける。

 こうして野営(キャンプ)地を作るのならば簡易トイレを設置することを提案してみようかと思うのだった。


 五人は野営(キャンプ)に食事の準備、リアーネが扉の外で地図の確認をするなどいつもの工程を手早く進め、食事はゆっくり賑やかに済ませると、交代ではあるが体を休めることにする。


 ◇


 翌朝、皆が十分に休息を取り終えて朝食の準備をしていると、探索者達が班員だけとではなく今日の狩りの計画を話している様だった。


「お嬢さん方は今日はどうするか決まってるのかい?」


 その輪に加わらずにいた昨晩話した猫人族の男性が声を掛けて来た。


「えっと、十九層に行く予定」

「ん。できるだけ早く行く」

「なるほどね。それなら一応みんなにも話をしておいた方が良いだろうね」


 探索者の集まった所を指さして、混ざってくる様にと促すのだった。

 話に混ざったリアーネは面倒な魔物の少ない領域(フィールド)を最短で移動することを相談すると、狩り場が十九層の時の定番の経路があると教えてもらえるのだった。


「ん! そんなのがあったんだ!?」

「お嬢ちゃん、俺らはここに何度も潜ってるんだ。目的の階層への移動経路に魔物を効率的に狩る方法はこの迷宮が攻略されて以降、模索されちまってるからな」

「そうそう。未攻略の迷宮でもなきゃ、どこも同じだな」

「そんで、この経路の欠点はな、下に行く班がいつも通るから頻繁に経路上の魔物が狩られていること。大した素材が期待できないってことなんだよ」


 五人にとっては問題が無いためにお礼を言って、その経路に決めるのだった。



 実際の所、未攻略迷宮に入る許可がすぐに出ないのは、探索者同士の連携が取れない状態の新人が迷宮内に居ると邪魔にしかならないためでもある。難易度の低い迷宮は動き方や注意の仕方など、最低限のことを身に着ける訓練の場所という意味があった。


 ここでの探索者達との話はラウリー達にとって、そういったことを思い出させて強く意識するようなものとなった。



 朝食も済ませて準備を整え本日の探索を開始する。


 階段近くの領域(フィールド)は低木の多い草原で多くの苔猪(タイシシ)の姿を見ることができた。全部を相手にしているのも時間ばかりが掛かるため、予定通りに他の班の探索者と一緒に行動することになり危険も無く進行の邪魔になるものを時間を掛けずに狩って行くのだった。それでもそこそこの数を相手にすることとなり、魔石以外に皮や肉も少量なりとも得ることができたのだった。


 他班の探索者と別れて森というには疎らに木の生えた領域(フィールド)に来て、こちらでも苔猪(タイシシ)を見かけることが多かったが狩りの機会は少なく通り過ぎて行く。



 そうして砂浜の領域(フィールド)にまでやって来れば、特大の海蠍と対峙することになったのだ。


「わぁ……なにあれ? 大っき過ぎない?」

「ん。上で見た海蠍の五倍以上はありそう」


 胴体の大きさが三メートルに一メートル以上もありそうな特大の鋏を備え、節くれだった長い尾の先には鋭い尖端の針を備えていた。全体的に黒にも見えるが光の加減で青くも見える甲殻が全身を覆っており、生半な攻撃は寄せ付けそうも無かった。


「ラーリ、あいつお魚食べてるよ」

「結構大物だよね」

「あのぶよぶよしたのってお魚なの?」


 まだ距離が離れているために観察する余裕があるが、一行の進路を遮る様に現れた海蠍をどうしようかと相談するのだ。


「魔法と射撃で大丈夫かな?」

「ん。あまり近付きたい相手じゃない」

「だよね。尻尾の針に刺されるだけでも危険だって」

「鋏も針も厄介そうだよね。砕けるかな?」

「そんな所より関節を狙った方が良いの。ラーリもレーアも足を砕いてほしいの」


 方針がまとまれば、まずは強化魔法を使ってから各々攻撃用の魔法を準備する。


 パパシュッ! カンッ!


「「「『雷球』!」」」

「『火球』!」


 攻撃を受けて噛り付いていた魚を落とした海蠍は、方々に体の向きを変え体を傾けさせと忙しなく動いて周囲を覗い始めるのだった。

 次弾の攻撃にさらされて、ようやく五人を見つけた海蠍は鋏を構えて突進を始めた。


「散開!」


 ラウリーの号令に周囲へ散って、海蠍を迎え撃つ体制となる。

 その間にも魔法を放ち射撃も続けられるが、そのほとんどは堅い甲殻に阻まれている様だった。


「ボクの方に来たーっ!?」


 焦った声を出しながらも後退しつつ雷気をまとわせた矢を放つが、大きな鋏を地面に突き立てる様にして弾かれてしまっていた。

 上体を持ち上げて高い位置に来た尻尾の針が光をまとい、ルシアナに向かって水の奔流が放たれた。


「わぁっ!?」


 避けきれずに水の勢いに流されゴロゴロと体中をぶつけるのだった。

 助けるためにも接近したラウリーの斬撃は関節部分にすら弾かれて何度も同じ場所を斬り付ける。


 レアーナは反対側の脚に向かって戦槌を打ち付けて、数度の打撃でようやく一本の脚を砕くのだった。

 ひとしきりルシアナに放水の魔法を浴びせた海蠍も足を砕かれたことに怒りを覚えたのかレアーナに向かって鋏を振り下ろす。


 しかしレアーナは既に間合いを取った後であり、鋏は地面に突き刺さっただけだった。

 前衛が離れたことを見計らいラウリーの切り付けていた関節を狙ってリアーネが銃弾を放てば、それが決め手となったようで左の足二本を切り離すことができたのだった。


 ギュジャアアアアアアアァァァァァァァッ!!


 怒りか悲しみか尾と鋏を振り上げて、金属を擦り合わせた様な甲高い咆哮を上げた。

 耳障りなその音に聴覚の鋭い双子とロレットは思わず耳を抑えて蹲る。

 ようやく体勢を戻したルシアナがその間に雷気をまとわせた矢を放ち、レアーナは更に足を砕こうと戦槌を振り被る。


 目の表面に弾かれながらも雷が弾けたことにより海蠍は後ろに跳び下がったが、そこに戦槌が振り抜かれると飛び下がって来た勢いの分だけ威力を増して足が二本立て続けに砕かれることになる。まともな移動が困難になりジタバタと残った足を動かして脅威度の高い相手として、海蠍はレアーナに敵意を向けるのだった。


 足を砕いたはいいが、海蠍の予想外の後退によってレアーナは手を痺れさせ尻もちを着いていた。

 鋏を振り被りレアーナに掴みかかった海蠍に、そうはさせないとラウリーが切り込み鋏を逸らしたのだ。


「助かった! ラーリ!」

「早く立って! いったん間合い開けよう!」


 いったん引いた鋏で再度突きかかって来た海蠍だが、間一髪転がる様に二人は離れて様子を覗い、まともに動けなくなっていた海蠍をじっくり狙って射撃を続けるリアーネとロレットによって全ての足が砕かれて、完全に移動力を奪うのだった。


 死角から近付いたラウリーとレアーナに鋏も尻尾も切断されてなす術も無くなり、ほどなく仕留めきることができたのだった。


「周辺確認!」

「ん………遠くに浮鼬(ラッコ)が見えるだけ。大丈夫そう」

「「「疲れたー………」」」

「ねぇ、これほんとに海蠍だったの? 大きすぎない?」

「うちもそう思う。大きすぎ」

「でもでも、全体的な形は海蠍そのものなの」


 倒した海蠍は全身の素材が残されており、良く倒せたものだと深く息を吐くのだった。



 素材の回収を終わらせて、行動食という名の甘いお菓子で気分を変えて探索を再開させるのだったが、この先大物に出会うことなく十九層へと続く階段に到達するのだった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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