125 迷宮の魚と超大物
「「「ただいまー!」」」
「あら、おかえりなさい! 皆さんお早いお戻りですが何層まで行かれました?」
「十五層終わって転移して帰って来たんだよ」
「あらあら! もうそんなに行かれたんですか!? それじゃあ、もしかして素材も沢山あったりしますか?」
「ん。いっぱい」
解体所へと場所を移して必要な物は解体をお願いし、そうでない屑魔石はラウリーが選別して持ち帰る。
「おいおいおい、何だそりゃ!? 丸ごとの蒼海竜なんぞ、いつぶりだ!」
「見たこと無い程でかいじゃないか!」
蒼海竜を作業台に出すと、周囲で解体中の人達からも驚きの声が聞こえて来るのだった。
「凄いですね……。えっと、これはどうしますか?」
「解体お願いします。皮と鱗はうちらの装備を作ってもらいたいので持ち帰ります」
持ち帰る素材の選別に解体後の素材の引き取りと、買い取ってもらう素材の金額などは後日清算することになる。
狩人組合を後にして遅めの昼食を頂いた後は、宿へと戻りゆっくりお風呂を堪能し早めに寝てしまうのだった。
◇
「おはよう! みんなー!」
「リーネが居ない?」
「もう出かけたよ」
「ルーナがゆっくりし過ぎなだけなの」
リアーネは本日も朝早くから造船工房へと出かけており、既に姿は見えなかった。
そして、ラウリーが朝から元気なのは、迷宮内で約束していた通りに釣りに出かけるためである。
準備を整え組合へ行けば、受付のお姉さんが驚いた声を出して話しかけて来た。
「どうしたの、あなた達? 昨日帰って来たばっかりだから休息とか準備とかするんじゃなかったの?」
「迷宮で釣りしてくる!」
「釣り? え? わざわざ迷宮で?」
満面の笑顔で尻尾を振っているラウリーに、受付嬢は戸惑いの声を出すのだった。
「探索が先だって我慢してもらったからね」
「休息日に付き合うくらいはねぇ」
「しかたないの」
そんな話をしていると、待合室に居た年配の探索者が割って入って来たのだ。
「迷宮で釣たぁ、嬢ちゃんも酔狂だな! お薦めの釣り場所の話しなんぞ聞きたくは無いか?」
「お薦め! 十一層に行こうと思ってたんだけど他にあるの?」
「転移だけで行けるところでお願いするの」
「地図持ってるかい?」
リアーネの居ない状態で他の階層まで行く危険は冒せないとロレットが条件を付け足した。
探索者からは十一層の扉近くでの魔物の警戒の仕方から、釣れる魚の種類に仕掛けや餌のことなど、ラウリーにとって有意義な話を聞くことができたのだった。
尻尾をゆらゆらご機嫌のラウリーを先頭に迷宮へと入り、十一層に到着すると早速準備を始めて糸を垂れるのだった。
「警戒の魔導具使っとけば、気を張って周囲を見てなくても大丈夫だって」
「ルーナー……、まぁ、わかるけど一応うちらも警戒はしておいた方が良いって」
「私は、お茶でも入れてのんびりしてるの」
見てる間にも釣れて行き、網籠は既に二つ目が用意されていた。
絞めて『脱血』『殺菌』『食料浄化』と魔法を使いラウリーの魔法鞄に入れて行く。
針魚に角魚、黄金魚、砂蛇魚、石魚、笹魚と種類も豊富に釣れるのだった。
「よくそんな太い糸で魚が掛かるよね」
「うん? そだねー。おっちゃんの言ってた通りにしてよかったよ!」
「ラーリ……まだ釣り、続けるの? 魔法かけるだけでも大変なの」
「絞めてんのはうちだけどねー」
昼食にサンドイッチを食べながら、相当数の魚の処理をしていたロレットが思わずといった感じに疲れた言葉を溢すのだった。
「うーん? じゃあ、次で最後にするよ」
直後にそれまでとは比べることができない程に、大きな手ごたえが竿をしならせ、糸巻の糸が引き出されていく。
「わっわ!? 何? っと!」
ラウリーは慌てて糸巻の把手を掴んで引き出される勢いを弱めて行くが、体ごと持って行かれそうになる程に力が強く、相当に大物なのかジリジリと繰り出されて行くのだった。
「手伝った方がいい?」
「ラーリが釣るから」
「わかった。でも、たも網くらいは任せてもらうよ」
一進一退ゆっくりと糸を巻きあげ続けて半刻程、とうとう魚影が見えて来た。
「大っきい!」
「え……? 何あれ?」
「いや、大きすぎるよ! たも網じゃ入んないよ」
「ならどうやって引き上げるの!?」
「『浮揚』とか『念動』でどうにかならない? ラーリ魔法使う余裕ない!」
「任せて! 自由な風現れよ、力強き風は我が身を共に空へ運べ………『浮揚』」
「任せるの! 自由な風現れよ、風の腕に絡めとり我が意に従え………『念動』」
一応たも網を構えて待つレアーナに、ルシアナとロレットの魔法によって、水面から巨体を露にしたのは背中が黒々とした真黒であった。
魔法を使っていながらも暴れるために移動させるのに多少手こずることになったが、レアーナが、たも網から剣鉈に持ち替え真黒が下ろされたところを素早く絞めて、ようやく釣り上げた実感を得る。
「「「やったー!」」」
横たわる真黒は三メートルを越えようかという大きさがあったのだ。
昼をいくらか過ぎた頃、組合に戻った四人にお薦めの釣り場などを教えてくれた探索者が話しかけて来た。
「どうだい、その様子じゃずいぶんと釣れたようだな?」
「うん! いっぱい釣れたよ!」
「最後に釣ったのが特に凄かったね」
「三メートルくらいあったからね。うちらじゃどう料理していいか判んないんだ」
「どこか料理してくれるお店教えてほしいの」
釣れた魚の予想がついたためにか嬉々として魚料理の美味しい店を教えてくれたのだった。
その後すぐに料理屋に行き、いくらかの魚を買い取ってもらい代金代わりに夕食をお願いするのだった。料理屋が買い取り切れなかった魚に関しては食品組合に買い取ってもらった。
「「「すっごーいっ!」」」
夕方、料理屋へとやって来た五人は目の前に並ぶ料理に、そして何より頭を形そのままに兜焼きにしたものが中央に鎮座した真黒料理の数々に、驚きと共に目をキラキラとさせ声を上げたのだった。
「凄いね……」
「ん。料理に迫力を感じるとは思わなかった」
「さぁ、食べよう!」
「「「いただきます!」」」
リアーネの言葉に皆は同意し卓に着き食事を始める。
「ん、美味し。こんなのどうやって釣ったの?」
「んぐんぐ……ふぅ。普通に竿で釣り上げたよ?」
「最後はボクの魔法で岸に上げたけどね」
「私とルーナの二人掛かりだったの」
「それで、リーネは今日どうだった?」
「ん。船に通信魔導具を載せるのを提案して来た」
「ということは、組合から船に通信できるようになるの?」
「ん……、通信可能な距離に限度があるから、どこに居てもできるわけじゃ無いけど、港と船が見えるくらいの沖なら通信できるはずだし、船同士でもできる様になれば便利。あとは、船用に色々と必要そうな機能を付け足すのに魔法陣作って来た」
船舶用の共通番号を決めて複数台の通信魔導具での通話ができる様にしたり、方位計や速度計、魔物探知機能なども付け加えて来たと語るのだった。
皆は大いに休息を楽しみ体を休め、十六層以降の探索の準備をするのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。