011 大そうじとお買物
赤道近くにあるテルトーネの夏は、高地であるため極端に暑くなる訳ではないが、それでもこの地の人々にすれば短いながらも暑い日が続くのだ。家業の手伝いをする者なども有るだろうということで、この時期長めの休日がある。
「はーい。みんな、明日から夏のお休みだから、その前に学院を綺麗にしましょうね」
「「「はーい!」」」
そうして始まるのは大掃除、先日は寮の自室なども念入りに掃除した。
「机をたたんで後ろに!」「本は本棚へ」「小黒板は棚にしまって」「座布団集める」「魔導掃除機、魔力満充填!」
ブォォォーーーと掃除機は音を立て、絨毯から塵を吸い取っていく。
「ケイニー走るな!」「ベナーリだって!」「次おれがやるー」
三台あるそれを、子供達は順番に使っていく。
その後、きつく絞った雑巾を手に机や棚、黒板、窓硝子を拭いていく子供達。すぐさま乾拭きをする子供達と騒がしく掃除が進められる。
初年度生は自分の教室のみだが、上級生になれば特別教室棟や体育館、食堂に図書館なども割り当てられることになる。一番の不人気は下駄箱だろう。どうしても砂ぼこりが多くなってしまう場所だからだ。
「みんなは、合宿終わったらどうする?」
「久々の!」
「村!」
「ボクも村に帰る!」
「プーテリネにルーナも一緒に姉さまと行くの」
レアーナの質問に返す四人。双子は猫人族の村フシャラハーンへ、ルシアナとロレットは森人族の村プーテリネへ行くことが決まっていた。
「そっか、うちはここ出身だからなぁ……合宿終わったら遊べないな」
「そっか」
「ん」
「うち来る?」
「残念なの……ルーナ?」
「いいの!?」
「わかんない、マリー姉さんに聞いてみる」
「うちも、父ちゃんに聞いてみる!」
沈んでいたレアーナも元気を取り戻し、掃除を終わらせる。
「じゃあ、お休みの間の課題もしっかりとするようにね!」
「「「はーい」」」
「みんな気を付けて、良いお休みにしてね。合宿参加者は遅れないように! じゃあ、解散」
「「「先生ーさよーなら」」」
◇
「リーネ、これは?」
「んー……いらない?」
「じゃあ、こっちは?」
「ん! それは要る」
午前中に終わった学院から帰ってきた二人は、寮の自室で合宿とその後の帰省の荷物づくりの真っ最中。あれはいらない、これは必要と荷物を選別中。そうしていると扉をノックする音が聞こえる。
「だれー?」
「ん。開いてる」
「二人とも荷物の準備は終わった?」
「セレー姉!」
「んーん。まだ途中」
猫耳をぴくぴくさせながら答える双子に笑いかけながら提案する。
「里のみんなのお土産買いに行くんだけど、どうする?」
「行く!」
「ん。忘れてた」
「じゃ、下で待ってるよ」
セレーネに手を引かれて三人そろって露店街に来た。食品に屋台、小物と雑多にあって、何か良い物は無いかと鋭い視線で見まわしていく。
「おぅ、嬢ちゃん達久しぶり。今日も買ってってくれんのかい?」
「おっちゃん、来たよー!」
「ん。繁盛してる」
「二人はこの屋台知ってたの?」
聖王国から来た元行商人の出す焼き菓子の屋台は、今では数件同じ物を出す屋台がいるほど人気になっている。おかげで予想以上の収入の礼だと言いつつ、いつも少し多めに入れてくれるのだ。
「一つちょーだい!」
「ん。お土産探しに来た」
「私にも一つ」
「まいどありっ。この商売始めたのは、そこの黒い嬢ちゃんの言葉があったからだ。感謝してるぜ本当に」
三人と話しながらも客は途切れず、その繁盛ぶりがうかがえる。
「土産と言やぁ、あれなんかどうだろう?」
と、いくつかの商店と露店の話をしてくれる。
「またねー!」
「ん、行ってみる」
「ありがとうございます」
屋台の親父に教えられた露店に来てみると、そこで売っていた物は見たことのある物だった。
「熊の鞄だ!」
「ん。兎もある」
「これって、二人のと同じやつ?」
そう、リアーネの考案した動物の鞄だった。
「よぅ、お嬢ちゃん達知ってるかい? 今この鞄が人気あるんだ」
双子は黙って後ろを振り返り、背負った鞄を見えるようにした。
「なんだ、もう持ってるのかい。じゃあ、お友達にでも教えてやってくれ。って、なんだその魚?」
「リーネが考えた!」
「ラーリが欲しいって」
この露店でお魚の鞄は扱っていなかった。
店主の話では、他の街でも売られていて結構売れ行きが良いらしい。そんなことになっているとは知らなかった双子は服飾組合へと足を向ける。
「あら、いらっしゃいお嬢さん」
迎えてくれた受付の女性はリアーネの登録をした人であり、双子のことを覚えていた。
「あの鞄、思った以上に人気でびっくりしたわよ。明細用意するから確認してね」
しばらくして著作権料の収入額が書かれた書類を手渡され、三人はそれを覗き込む。そこには五十万ルピーを超えた数が書かれていた。
「えっと、青銅貨何枚?」
「んー……五千枚くらい?」
「これって、えっと……小金貨五枚分!?」
貨幣の種類としては下から、軽銀貨が一ルピー、黄銅貨が五ルピー、青銅貨が十ルピー、他に白銅貨、大白銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨とある。
貨幣単位はあるが、硬貨の種類と枚数で数える者が多かった。
露店で買った焼菓子は青銅貨二枚であった。
鞄一つ銀貨一枚。八分の著作権料で小金貨五枚の収入には六百個以上の売り上げが必要となる。三ヶ月弱での売り上げと考えるならば、十分すぎる金額だろう。
「リーネすごい」
「ん。いっぱい売れた」
「えー……何? あの鞄、そんなに人気なんだ……ていうか、いつの間にこんなことに?」
どこか遠い目をするセレーネと喜びの声を上げる双子の尻尾はそれぞれ困惑と喜びを表しているのが分かる様な振られ方をする。
その後、小金貨三枚分を小銭を交えて引き出すリアーネ。ディカリウス皮革工房へ鞄代を払いに行く。
「久しぶりだな嬢ちゃん達。あの鞄、結構人気になってるぞ」
「知ってるー!」
「ん! さっき知った」
もっと掛かるかと思っていたと、のんびり待っていた親方に鞄五つ分、銀貨五枚を支払った。もともと売り物になるなど考えてもいなかったリアーネは親方に感謝して、買い物の続きへと戻って行く。
次にお薦めされた商店に着くと、そこは魔導具の店だった。
「何これー?」
「ん! 興味深い」
「色々あるわねー」
夏向け商品が前面に出されており、扇風機が一押し商品だ。そよ風の魔法で丸い枠から風が吹くという単純な構造で昔からある物だが、最近の物は風量の調節ができるようになっている。他にもドライヤーや冷蔵庫、冷凍庫に洗濯機など実家にもあるような物が並んでいる。
三人が目に留めたのは、そこから外れた一画である。
「お目が高いお嬢さん方だ。ご説明は必要ですか?」
と、店員が声を掛けてくる。お願いしますの声に始まる商品説明は、独特の節回しで楽しませてくれる。大いに笑い、感心し、銀貨四枚もするが商品を気に入ったリアーネは二つ購入し、一つは自室用に、もう一つはお土産にする。それなりの大きさがあるために配達をお願いした。
その後、別の店で反物などを銀貨五枚分近くと合宿に持って行く物を買って満足して寮へと戻って行く。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。