103 気分転換と収穫物
「あら! 良かった、みんな無事そうね」
十一層から入り口近くの迷宮核の複製へと転移して、狩人組合の待合室へと戻って来た五人を目にした受付嬢が帰還を喜び声を掛けた。
「「「ただいまー!」」」
「おかえりなさい。迷宮に潜って二日半くらいよね、何層くらいまで行ったのかしら?」
「十一層の迷宮核で転移して来た!」
「えっ!? もうそんなに!」
「おーい嬢ちゃん達、十層に蝙蝠がうじゃうじゃ居らんかったか? 難儀しただろ」
大きな声を上げ近くの卓に着いていた探索者の男性が声を掛けて来た。
その男性の声が響き待合室に居た他の人達の視線を集めることになった。
「おっ! 四層で休憩してた娘達じゃないか。帰ってくるのを待ってたんだ」
「そうそう! 中で試させてもらった魔導具! 改良版が欲しいんだ」
「待て待て、それより蝙蝠の話が先だ!」
「あのーー? そういうことは私の後にしてもらえます?」
五人の周囲に探索者が集まろうとしたところへ冷たい目をして放たれた受付嬢の言葉に、バツの悪そうな顔をして元居た卓へと戻って行った。
「ん。素材はどうする?」
「基本的に買い取りますよ。自分達用に持ち帰りたい素材がある場合もいったん提出してもらえれば嬉しいのだけれどね」
受付では素材を広げるスペースが無いために、隣の解体所の方へと案内されて、大きな台の上に種別毎に分けて魔法鞄から取り出していく。
魔石各種が一番多く、大きさ、品質、属性も様々な物が一面に広げられた。
「えーー……と、凄いわね、あなた達。よくこれだけの数集めたわね?」
「魔物狩ったらみんな集めないの?」
「魔石拾う方が時間かかった気もするよねー」
「そうね。他の探索者は取りこぼすことも多いし、上位の探索者はこんなに小粒の魔石は放置することもあるのよ」
「もったいないの。小さくても割れてても加工すれば使えるの」
「あはははー。錬金組合の人達にも、ほんっとーに、よく言われるわ」
「ん。リーネは自分で加工するから屑魔石だけでいい」
「わかったー。ラーリが分けとくね!」
そう言ってラウリーは一面の魔石から大きな物だけ選別して籠に入れて行く。
次に取り出すのは鱗や甲殻、毛皮に牙、角などだ。
「これって何かに使えるの?」
「そうね。鎧兎の鱗や虫の甲殻なんて盾や鎧によく使われているわよ。この角でできた刃物は人気があるしね」
その次は苔や草に茸類だ。
「あら、こんなのまで採取して来たのね。状態も良いじゃない」
「魔法薬だって作るから扱いは心得てるの。食べて美味しいのは教えてほしいの。みんなで食べるの!」
最後に肉類と沢山の蝙蝠だ。
「よくこんなに蝙蝠ばっかり……。これって十層の?」
「そうだよー。数ばっかり多くて止め射すだけでも大変だったんだ」
「どういうこと……? ほとんど一突きなんだけど?」
受付嬢は白大蝙蝠の状態の良さにどんな戦い方をしたのかと興味がわいて来た。
「リーネ、魔石分け終わったよー!」
「ん、ありがと。結構一杯残ったね。後で加工しなくちゃ」
「まぁ、いいわ。査定が終わったら、あなた達の班の口座に入れておけば良いのかしら?」
「それでお願いなの!」
「ね、お姉さん。このお肉食べれるでしょ? 持ち込んで料理してくれるお店とかない?」
「何だったかしら? たしか『毒探知』と『食料探知』でだいたいのことは判るんじゃなかったかしら? 食べられないお肉ってここの迷宮じゃ蛙くらいかしら? お店はね……」
食べられる素材の判別法に持ち込み可能な店を教えてもらって、持ち帰り分の素材を魔法鞄に仕舞っていく。
待合室へと戻ってくると、先程声を掛けて来た探索者達が集まって来た。
「そんで、十層の蝙蝠だよ。あそこは行きたがる奴なんざ居ねぇんだが、嬢ちゃん達はどうやって越えたんだ?」
「全部狩ってだよ」
「「「はぁっ!!」」」
「いやいやいや。いやいやいやいや、何言ってんだ!? 何匹いると思ってるんだ。全部だと?」
「そうだよ。俺達だって気付かれる前に走り抜けて何とか扉にたどり着いたってのに、全部狩っただと!? 一体どうやったらそんなことができるんだ」
「ん? 知らない? 蝙蝠は『静寂』かけると周りが見えなくなるから簡単に倒せるよ?」
「そうそう。さすがに数が多くて面倒だったけど」
「「「はぁーーっ!?」」」
「そんな話、聞いたことねぇぞ!?」
知られていなかった特性に探索者達は驚きの声を上げるのだった。
その後は錬金組合へと改良型ゴーグルの魔法陣を預けて、資料を作り直すことになる。
「あら、数日前に登録したばっかりなのに、どうしたの?」
「ん。使ってるうちに不満点とか欲しい機能が出て来る。そう言う声をちゃんと聴いて魔導具の開発に生かせば良い物ができる」
「耳が痛いわね……。みんな自分の興味のある物しか開発なんてしないんだもの」
「ん? リーネもそうだよ? リーネの作った魔導具でも不満の声とかあったらテルトーネ宛に資料を送ってほしい。帰るのはまだ先の予定だけど」
「わかったわ。それにしても迷宮内で改造したの? あんまり無茶はしないでね」
「ん。気を付ける」
「もういいか? 俺達そのゴーグルが欲しいんだ。それで………」
迷宮内で会った鳥人族の五人組が同行しており、自分達の分の作成依頼をするのだった。
予想通りこの街にもあった洞窟温泉を堪能し、組合の受付嬢に聞いた食事処で素材を使った料理を頼み、楽しい一時を過ごすのだった。
久しぶりに緊張も抜けゆっくりと体と心を休め、ぐっすりと寝て起きてから消耗品の準備などで一日を過ごすし、迷宮十一層以降の探索に備えるのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。