098 下級迷宮と毒瘤蛙
「リーネ、この迷宮の大きさってどんな感じかな?」
「んーー………、一つの階層が指導迷宮より少し広い、かな? 十層超えるとだいぶ広くなるみたい」
「素材はどうだっけ? 浅い階層はあんまり取れないって言ってたよね?」
「ルーナ、話を聞くっていうのは、覚えていることも含めて言うの! すぐ忘れるのは聞いてないのと一緒なの!」
「まぁまぁ、ロットが怒るのは止めないけど、確認は必要でしょ?」
「止めてよ! 確認を促す発言だって思ってよ!」
「ん。じゃあルーナが答えてみる?」
「ごめんなさい!」
すかさず頭を下げてルシアナは謝ったのだった。
三層までの魔物は沢山狩られて魔石しか出ないと思った方が良く、素材目当てなら五層以降からが本番であると聞いていたのだ。
「嬢ちゃん達は一層からだな? じゃあ先に登録すりゃあいい。転移するまで多少待たされるからな。無理はするんじゃないぞ。おっちゃんらは、のんびり行くから気にせんでえぇ」
「「「ありがとう!」」」
一層から順に進むのはラウリー達だけであり、他の探索者は皆が十層へと転移するのだという。迷宮核の複製に手を当て登録を済ませた五人はゴーグル含めて準備万端整える。
先輩探索者が転移の光に包まれて、実際に転移するまでの待機状態になっているのを、通路の先からチラリと目をやり奥の階段を降りて行く。
いつもの隊列を組み、リアーネが地図を表示するために魔法を使って経路の指示をしながら進み始めた。
一層から三層は下の階層への最短経路のみ、指導迷宮と同じく東西南北に綺麗に整備されていた。経路を外れる方向へは必ず扉が付けられており、扉の見た目の違いからも地図無しで迷わず進むことができるようになっていて、事前にそのことも聞いた五人は、もっと下の階層まで整備したら良いんじゃないかと聞いてみたら、それでは未攻略迷宮の探索ができる者がいなくなってしまうと答えられ、納得したのだった。
上層の整備された区画も元を質せば魔物の氾濫に対応するための物であり、新人の訓練用というわけでは無かった。
パパシュッ! カンッ!
前方の壁に留まった蛾の魔物に気付かれる前に遠方からの射撃によって仕留めていく。
魔石が落ちた音が響き、その周辺に居た蟻の魔物が頭を持ち上げるが、周囲を探っている間に更に射撃を続けていった。
「ねえ、リーネー。魔石の回収どうにかならないかな?」
「ん? 掃除機みたいに?」
「楽しそうだねー」
「いや、荷物になるだけだって。って言うか、ゴミだらけの中から魔石探したくないんだけど?」
耳を倒しながら言うラウリーに、どうしたいのかを提案を交えてリアーネは聞き返すと、ルシアナの賛同とレアーナの否定の声が上がり、ラウリーは首を横に振るのだった。
「じゃあ、なんなの、ラーリ?」
「えっと、倒した後って、魔石を探さなきゃ、ならないでしょ?」
「ん! わかった! 見つけやすくする!」
「そう!」
得心が行ったと尻尾を立てて言うリアーネを、ラウリーは理解を得られた嬉しさにぎゅうぎゅうと抱き着いた。
「あーー、確かに。大体の場所は判るけど、遠くから仕留めるとやっぱり探すのに手間取るよねー、ちっさいのは特に。っと、扉問題無し! 開けるよー」
扉の罠を調べていたルシアナは、双子の様子に何をしてるんだという目を向けていた。
「わぁー……、ここほんとに整備されてるの?」
ラウリーの言葉が表す様に、二十メートル四方はありそうな広間の床は一見すれば岩では無く土になっており沢山の草が生えていた。また、奥側の角には天井付近から染み出す水によって少々大きな水溜まりができていて、蛙の鳴き声に草の揺れる音が響いてくる。
「いっぱい居る。どうする?」
「ん。全部狩る」
「まぁ、そうだよね。追いかけられても面白くないし」
リアーネの意見にルシアナが代表して同意を示して、五人は遠くからの射撃をしながら少しづつ進み、近寄って来た魔物に対してはラウリーとレアーナが対処していくのだった。
「ハァッ! タァッ!」
「セイッ! ヤァーーッ!」
パパシュッ! カンッ!
体長六十センチ程ある白砂飛蝗は、背中の羽を震わせて砂粒をまとい飛び掛かってくる。
「だから、痛いって! 言ってるでしょっ!!」
レアーナは棍の端を持ち遠間から突きを放つことで、砂粒まみれになるのを回避する。
その最中にシュッっと足元を奔るのは、体長一・五メートルはありそうな毒瘤蛙が伸ばした舌の様だった。
「ラーリ! 瘤から毒が飛び出すから切っちゃダメ!」
「えぇーっ! わっ、たっ! 短剣大丈夫かな!?」
パパシュッ!
グァァァァーーッ!!
リアーネの注意が間に合わず、毒瘤蛙の舌を躱して走り抜け様に切り付けていたラウリーは、慌てながら距離を取る。
そこに合わせてリアーネとロレットが射撃すると、瘤が潰れてドプッと毒液が溢れ出て毒瘤蛙の身を汚していく。
「うわぁーー、近付きたくない……」
「任せるの!」
毒瘤蛙が飛び跳ね大口を開けたところにロレットが銃弾を叩き込むと、床に激突してから魔石を残して融ける様に消えて行った。
その頃には沢山の紅蟻と白砂飛蝗も仕留め終わって、皆は周囲を警戒している状態だった。
「はぁーー………、リーネ、これ、どうにかなる?」
「ん? 蛙の毒……、眩き御霊と純粋な魔の源よ、蝕む穢れの悉を祓い癒したまえ………『解毒』『浄化』。ん、これで大丈夫」
「良かったー、綺麗になったー!」
毒瘤蛙の毒に汚れた短剣を摘んで耳を萎れさせたラウリーは、リアーネがサッと魔法で綺麗にすると途端に元気を取り戻したのだった。
ラウリーとレアーナは毒瘤蛙の対処に戸惑いながらも何度か相手をするうちに、瘤を避けての攻撃ができるようになっていく。
そうなると二層に降りてからも五人は順調に進むことができ、大した困難も無く三層へと到達した。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。