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支援魔法士 ≒ 戦場の支配者  作者: るちぇ。
第2章 「魔法士の矜持」
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「その申し出、快く」


 起動式にはコードと同等以上の可能性が詰まっている。あのディレイ式の一件からそう感じて、今の俺とネイに適した起動式の開発を進めた。そうして出来上がったのがこれ、カウンター式だ。

 マーリン式、ディレイ式、インパクト式、デュアル式。これらに共通するのは魔法の発動が能動的だということ。つまり、魔法陣へ魔法式を入力し終えたら発動する。

 この常識を覆したのがカウンター式だ。こいつは受動的に魔法を発動させてくれる。どういう事か、原理から確認する。

 参考にしたのはエッセンス。人には情報群が詰まっていて、何か行動を起こすと特定の情報が動く。この情報から体力を読み取ればライフ・エッセンスに、情報を書き換えればエンチャントになった。

 さて、カウンター式だが、こいつは特定の情報の動きを感知すると起動する。分かりやすくするためにライフ・エッセンスと絡めてみよう。この魔法のお陰で、俺は被術者の体力が減少したという情報は勿論、何割削られたのかまで把握できる。そうして抜き出した体力の情報を参照して、例えば3割未満になったらヒールがかかるように設定すると、その通りのタイミングでヒールがかかるようになる。これをライフ・エッセンスで抜き出す前の情報群にして、「体力が削られた」、「怪我をした」という漠然としたタイミングに設定することも可能だ。


「……ただ、問題がひとつ見付かった」


 そう、ここで問題が生じる。魔力減衰だ。カウンター式とはいえ、魔法は既に発動したという状態で待機してしまう。時間が空けば空く程に効果が弱まり、知らない内に消滅するのは避けられなかった。こいつを開発するまでは。

 これはセット式という革新的な起動式だ。自画自賛ではない。きっとこの起動式が世に出回れば、俺みたいな運動センスが致命的に駄目な魔法士でも活躍できるようになりうる。

 原理はディレイ式とよく似ている。3つの、術者の意図で発動させる攻撃魔法に似た式を組み込んで、任意のタイミングで起動させられるようにした。一見するとマーリン式を煩雑にした起動式だけど、このひと手間があるからこそ、カウンター式が生きる。

 どういう事かというと、セット式の起動をカウンター式で行えるようにする。これで魔力減衰を気にする事なく、受動的に発動する状態に仕上がるのだ。


「これを使えば……ネイは無限の可能性を発揮できる」


 使い道は主にヒールだ。戦闘開始直後、支援魔法士の取れる選択肢はステータスアップ、エンチャント、もしくはライフ・エッセンスなんかで状況把握という感じになる。だが、ヒールをカウンター・セット式でネイに使っておけば、大ダメージを受けても勝手にヒールがかかってくれるようになる。この余裕は大きい。しかも独立稼働してくれるから、俺が何か別の魔法を使っていても問題無しという優れものである。


「とりあえずはこれで……いや、まだか」


 あくまでもこれは死なないようにするための保険。しっかりと戦えるような攻撃、防御両面からの属性的な支援もできるようにならないと、ただのサンドバッグ状態になりかねない。

 ヒールの部分をエンチャントに変えてみる。うん、一属性ならこれでいい。問題は多様性。3種族全てに対応できるような魔法に組み上げたいところだ。


「あら、熱心ね、シン?」


 集中して作業していると、ノエルに声をかけられた。シャノンも隣にいて、にこやかに手を振っている。

 そういえば、ここは図書館だったな。ノエルがここへ来るのは当たり前か。

 それよりも、言いたい事、聞かなくちゃいけない事があったんだ。


「ノエル、まずは第3階層の単独突破おめでとう」

「あ……ありがとう。素直に言われると不思議な気分ね」

「なんだ、貶して欲しかったのか?」

「そ、そんな訳ないでしょ!?」

「あらあら、ノエル様。いくらシン様に会えるのが嬉しいからって、自らの性癖を暴露してしまうなんて」

「しゃ、シャノンッ!」


 相変わらずそうで安心した。まぁ、その点は心配なかった。ミノタウロスを倒しても鼻高々と自慢される事はないと思ったから。

 問題は体の方だ。あの自爆攻撃にも等しい、ほぼゼロ距離でのインパクト式、イグニッション・バーストは凄まじかった。どこかに傷が残っているんじゃないかと心配になって、あちこち見てしまう。


「な、何ですか、シン? 人の体をジロジロ見て……」


 どうしてそこで頬を赤らめるのかと疑問を持ちそうになって、すぐに気付く。これじゃあ変態だ。慌てて視線を外す。


「悪い。ほら、ゼロ距離で魔法を撃っただろ? 怪我が心配になって」

「シン……ふふ、その気持ちには心から感謝するわ。でも、よりにもよって貴方がそれじゃあ、私としては不安よ」

「え、どうしてだ?」

「ヒールの魔法、またはポーションがあれば、どんな状態からでも即回復可能じゃない。まぁ、命が尽きていたら駄目でしょうけど」

「あぁ、そうだった」


 失念していた。これからアヴェンジャーになったネイと戦場に立つんだ。そんな当たり前の事を忘れていたら、身が持たないところだったぞ。


「ノエル様、差し出がましいようですが、デートのお誘いは宜しいので?」

「な、なな、何を言っているのよ、シャノン! わ、私はで、デートだなんて!」

「では私が代わりに返答しても?」

「いい訳ないでしょう!?」


 熱したヤカンのように真っ赤になったノエルは、何度も何度も身振り付きの深呼吸をしてから、頬を両手で叩く。そして大きく頷いて、どうやら落ち着いたらしい。


「決闘の申し出を受けたわ。相違ないのね?」

「俺にも確認という訳か。あぁ、間違いない。俺たちはお前に決闘を申し込む」


 決闘とは、生徒たちの間で行う真剣勝負だ。実践同様の苛烈な戦いになり、死者が出る事もあるという。テストでもないのに危険故に、学校にきちんと書類を出し、双方合意の上で行われる。


「ここへ来たのは、何も貴方の意思確認のためだけじゃないわ。その、私の魔法士としての矜持は……伝わった?」

「あぁ、しっかりと。だからこそ俺たちは、お前を越えたいと思ったんだよ」

「……そう、分かった」


 ノエルは居住まいを正すと、恭しく一礼する。


「その決闘、受けさせて頂きます。ただし、ノエル=フォーレン=クロイツとしてではなく、魔法士ノエルとして」

「こちらこそ、よろしく頼む」

「貴方の支援魔法士としての初戦、楽しみにしております。さぁ、行くわよ、シャノン。私たちも調整に入るわ」

「はい、畏まりました。それではシン様、ご機嫌よう」


 正式に決闘が決まったか。詳しい日時は学校側で決定する。その通知が来るまで、たぶん1日くらいだろう。残り時間は少ない。ギリギリまで魔法の調整をしておこう。

 俺はまた、机にかじりついたのだった。

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